第21話「怨念の傷」
その頃キラウェルは、ルスタが放つ容赦ないマグマ攻撃を、必死になって避け続けていた。
火の魔法の上級だけあり、威力は桁違いである。
「我が火神の魔法に…勝るものだとないわ!」
ルスタはそう言うと、今度は右手を空へと翳す。
「これで終わりだ…爆発流星群!!」
ルスタがそう叫ぶと同時に、空から沢山の溶岩が降ってきた。
その内の一つを避けたキラウェルだったが、まるで生き物のように降ってくる溶岩に、思わず身震いする。
「何なの…?この溶岩、私が敵だと認識してる?」
溶岩を避けながら、キラウェルはそう言った。
しかし避けるにも限界があり、キラウェルは一つの溶岩が放った衝撃に耐えかねて、遠くまで吹っ飛ばされてしまう。
「なんて威力なの!?あいつが魔法を発動させている間は…むやみに近付けない…!!」
キラウェルはそう言いながら、唇を噛み締める。
しかしキラウェルはあることに気がついた。
それは…意外と簡単なことだった。
「そうか…あの隙を狙えば…!」
キラウェルはそう言うと、ルスタの背後へと回る。
「なに!?」
突然のことで、ルスタは反応できない。
「連続真空斬り!!」
キラウェルはそう言いながら、あるものでルスタを斬りつけた。
「ぐはっ………!」
体を仰け反らせ、地面に倒れるルスタ。
「安心してルスタ…峰だから」
キラウェルはそう言うと、あるものを再び持ち直した。
彼女が持っていたものは…何と刀だった。
だがルスタは、キラウェルが持つ刀を見て驚いた。
「貴様…それはカンナの家系に伝わる家宝だぞ!?盗んだのか!?」
「バカ言わないで!これは…カンナさんから譲り受けたものよ!友情の証としてね!!」
キラウェルがそう言うと、何故だかルスタの肩が震えている。
何なの…?と、キラウェルが不思議そうに思った、その時だった。
「はははははははは!!」
何とルスタは、高笑いした。
「何がおかしい!?」
キラウェルはそう言いながら、ルスタを睨み付ける。
「ブラウン家に仕えている者とシャンクス一族の者が…友情だと?笑わせてくれる!」
ルスタはそう言うと、再び右手を空へと翳す。
「所詮は因縁の関係だ…いずれはその友情も壊れるだろうよ!」
ルスタは掛け声を言っていないのに、空からはまた溶岩が降ってきた。
どうやらルスタは、魔法の力をコントロール出来ているようだ。
「これ…あの技で斬れるかな?」
キラウェルは、降ってくる溶岩を見つめながら言った。
そして彼女は…刀を持ち直して構える。
溶岩がキラウェルに当たる…その瞬間だった。
「いあいぎり!!」
キラウェルはそう言いながら、刀を振り下ろした。
綺麗に…真っ二つに割れた溶岩は、キラウェルに当たることもなく地面に落ちる。
「ほう…その“白夜”は、重量のうえ扱いにくいと聞いていたが、扱えているようだな」
感心したように、ルスタが言った。
「まあね…。でも、ここまで扱えるようになるまで、かなり時間がかかったけどね!」
キラウェルはそう言うと、今度は持ち手を左に変える。
「なに!?…貴様、本来は左利きだというのか!?」
「今までは手加減していたわ…ここから本気でいく!!」
キラウェルはそう言いながら、ルスタに向かって走り出した。
しかし、一瞬で間を詰められてしまう。
「は…速い!」
ルスタは臨戦態勢に入ろうとするが、間に合わない。
「紅蓮斬り!!」
キラウェルがそう言うと、白夜の刃が赤く染まり…まるで炎に包まれたようになる。
そして、峰で斬りつけた。
「ぐっ…!!」
ルスタは、キラウェルの技を所有していた剣で受け止めた。
刀と剣が擦れ合う音が、夜のサイファ村に響く。
「剣術は確かにカンナの教えだが…武術はどうかな?」
ルスタはそう言うと、キラウェルの右頬を殴ろうとした。
しかしキラウェルは…間一髪のところで避けた。
「何だと!?」
「剣術がカンナさんなら…武術はガクさんよ!!」
キラウェルはそう言いながら、ルスタに回し蹴りを喰らわせた。
「くっ………!」
何とか左腕で防いだルスタだが、体勢を崩して倒れこむ。
激しい戦いに、キラウェルも肩を上下させている。
息があがっているため、少しでも体力を回復させようとしていた。
「貴様…さっきから何故峰で斬りつけている?刃で俺を斬りつければ、話は早いだろう?」
キラウェルの戦い方に疑問を感じていたルスタは、キラウェルにそう尋ねた。
「死なせるわけにはいかないわ…ルスタには、訊かなきゃならないことがあるから」
キラウェルはそう言うと、再び刀を持ち直す。
「生ぬるいな……だったら俺も本気でいくぞ!!」
ルスタはそう言うと、右手を炎に包みながらキラウェルに襲いかかってきた。
キラウェルはそんなルスタを睨み付けると、刀を構えて間を積めるために走り出した。
その頃アシュリーは、走りながらキラウェルを捜していた。
しかし夜だけあり、なかなか見つからない。
夜に犯人と対決しているとしたら、明るいところしかない。
「どこに行ったんだろ…キラウェルさん、灯りがあるのは限られているし…」
辺りを見渡しつつ走りながら、アシュリーは言った。
しかし辺りを見渡してみても、それらしき人影が見当たらない。
「そうだ…集会場の近くなら!」
アシュリーは思い出したかのように言うと、今彼女が居るところから程近い、集会場を目指して走り出した。
「あそこに行くには、大きな樹木が目印だから…すぐに着くはず!」
集会場に向かって走るアシュリーは、キラウェルが無事でいることを、とにかく願っていた。
彼女は…生き続けなければならない存在だと、強く感じていたからだ。
「集会場は…もうすぐだ!」
アシュリーはそう言うと、走るスピードをあげた。
その頃キラウェルとルスタは、激しい戦闘を繰り広げていた。
彼の攻撃を何発か喰らったキラウェルだが、ルスタも彼女の攻撃を喰らっているため、ダメージの蓄積が見えている。
それに今になって、一番始めに肩に当たったルスタの攻撃が、次第に痛み始めていた。
キラウェルは、体力の消耗に気付いていたため、技もあまり繰り出さないようになっていた。
「今になって……肩が……」
肩にはしる痛みを感じながら、キラウェルは言った。
「でも…負けるわけにはいかない!」
キラウェルがそう言って、刀を持って構えた…その時だった。
「キラウェルさーん!!」
そう言いながら、アシュリーが走ってきた。
「!?アシュリーさん、来ちゃダメです!!」
キラウェルは、あらんかぎりの声で言った。
しかし既に遅かった。アシュリーに気付いたルスタが、魔法を発動させて彼女に襲い掛かろうとしていたのだ。
「あっ………!」
恐怖のあまり、体が震えて動けないアシュリー。
「邪魔だ……死ね!!」
ルスタはそう言うと、炎に包まれた右腕を、アシュリーに向かって振り下ろした。
「やめて!!!」
キラウェルはそう叫びながら走り出し、間一髪のところでアシュリーを突き飛ばした。
しかし、アシュリーに向けられていたルスタの攻撃が、キラウェルの顔の左側に直撃した。
受けた攻撃の反動で、キラウェルが後ろへ飛ばされる。
「キラウェルさん!!」
突き飛ばされたアシュリーは立ち上がり、そう言いながらキラウェルに近付いた。
ルスタの攻撃が顔に直撃したキラウェルは、利き手である左手で、顔の左半分を覆っている。
「いあああああああ!!!」
あまりの激痛に、キラウェルは言葉にならない声をあげる。
「キラウェルさん!しっかりしてください!」
半泣きの状態で、アシュリーが言った。
「ふん…顔の左半分が火傷を負ったのだ、無理もない」
鼻で笑うルスタ。
左手で顔の左半分を覆ったまま、キラウェルは立ち上がった。
その瞳は…怒りで満ち溢れている。
「アシュリーさん…私の心が穏やかでいられるうちに…カインさんたちを呼んできてください…」
「で…でも…!」
「早くしてください!!」
キラウェルに強くそう言われ、アシュリーの肩が跳ねる。
「わ…わかりました…」
アシュリーはそう言うと、もと来た道を走って戻っていった。
そんなアシュリーを見てから、ルスタが口を開いた。
「左手が塞がった状態で、俺と戦おうというのか?」
挑発的なルスタ。
「一瞬で終わらせてやる…」
キラウェルはそう言うと、右手で左の肩甲骨に触れた。
その時に聴こえてきたのは…レイウェアの声だった。
―今回だけですよ……キラウェル。さあ……力を使いなさい―
ありがとう…母さん。
そして…ごめんなさい…。
キラウェルは、そう心の中でレイウェアに謝った。
「何もしないのか…?だったら殺してやる!!」
ルスタはそう言うと、キラウェルに飛びかかった。
しかしキラウェルはこれを待っていた。肩甲骨から右手を離した彼女は、右手を地面に置いた。
「喰らえ!フレイムウォール!!」
彼女がそう言うと、地面から炎の壁が現れた。
「なに!?」
突然現れた炎の壁に、ルスタはそのまま突っ込んだ。
ちょうどその時、カインたちを連れてきたアシュリーが、その光景に驚いて立ち止まる。
「これは……魔法の力だ!」
同じく、この光景を見ていたカインがそう言った。
だが炎の壁は、ルスタを押し返そうとしている。
「何だ…?まだ何かあるのか?」
炎の壁を見つめながら、ラルクが言った。
「フレイムウォールよ!そいつを跳ね返せ!!」
キラウェルがそう言うと同時に、炎の壁はルスタを跳ね返した。
飛ばされたルスタは、あの大きな樹木に叩きつけられた。
あまりの光景に、カインたちは言葉を失う。
地面に倒れたルスタを、見つめているキラウェル。
しかし彼女は、先程よりも息が荒くなっていた。
「立て…ルスタ。死んでないでしょ?」
ルスタを見つめながら、キラウェルは言った。
彼は無言で仰向けになると、持っていた剣を持ち直した。
キラウェルには、彼が何をしようとしているのか…瞬時に理解できた。
「まさか……やめて!!」
キラウェルはそう言うが、既に遅かった。
ルスタは、自分の剣で自分の胸を刺したのだ。
アシュリーは思わず、顔を両手で覆った。
「ぐっ……はは……こういう死に様も…………悪く、ないな」
「馬鹿か…死んだって…何もならないでしょ」
呆れたように、キラウェルは言った。
「レイウェアの娘……キラウェル…よ…お前が…俺に訊きたかったのは………ブラウン家がどこにあるか…だろ?」
ルスタは、弱々しい声で言った。
「教えて」
キラウェルは、ただそれだけ言った。
「はは……ははは……誰が…教えるか……」
「こんな時でも笑うのか…あんたって人は…」
しかしルスタは、尚も喋ろうとする。
「自力で……ブラウン家を……見つけることだな…」
「そう言うと思った」
キラウェルはそう言うと、踵をかえして立ち去ろうとした。
そんな彼女の背中に、ルスタは声をかける。
「キラウェル・J・シャンクスよ……!貴様のその火傷の傷は……お前を一生苦しめるだろう……!俺の……怨念の象徴……だからな……!」
見下したように、ルスタは言う。
そんな彼を、無言で見つめるキラウェル。
「死ぬまで……俺の怨念に………囚われ続けろ……永遠にな…………!!」
ルスタはそう言うと、最後に高笑いをして動かなくなった。
「貴方は大馬鹿者よ……死んでしまったら…そこで人生終わりじゃない…」
キラウェルはそう言うと、ゆっくりと歩き始めた。
そんな彼女に、真っ先に近付いたのは…アシュリーだった。
しかし彼女がキラウェルに声をかける前に、キラウェルは突然倒れてしまった。
「キラウェルさん!」
必死に呼び掛けるアシュリーだが、キラウェルは動かない。
「おい!診療所へ運ぶぞ!!」
カインはそう言いながら、キラウェルを抱き抱えて走り出した。
「酷い火傷だ……!おい、火傷の治療の準備をするぞ!」
キラウェルの火傷を見たラルクが、一緒にいた医者たちに指示をした。
診療所へ着いたカインたちは、必死になってキラウェルの火傷を治療し始めた。
傍らには、もちろんアシュリーやガク、隣のベッドにいたファラゼロの姿もあった。
キラウェルの治療は、深夜まで続いていった。
そして…彼女が目を覚まさないまま、夜が明けた。




