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第13話「ミスリル村」

ーハンダル地方・ミスリル村ー


ミスリル村に着いたファラゼロたちは、早速ルイエロに会うために、彼の家を目指していた。

この村人たちは何故だか、ファラゼロを見るやいなや、嬉しそうに笑った。

そればかりか、「お帰り」と声をかける者もいた。


不思議な光景に、キラウェルは小首を傾げる。

普通…ブラウン家の者たちが近づけば、より一層怒りが表れるはずなのに。

この村の人たちはそれがなく、むしろ歓迎をしていた。

いや…ファラゼロだけでなく、彼に使えているガクやカンナにも、温かな声がかけられている。

ますます深まる謎に、キラウェルの頭の中は混乱していた。


「あっ!いた!」


ファラゼロは、嬉しそうに言った。


彼が見つめる視線の先には、庭に咲く花たちに水をやる老人の姿が。

…ルイエロは、彼なのだろうか?


「ん?……ファラゼロではないか!」


老人はそう言うと、嬉しそうに笑った。


「じいちゃん!お久しぶりです!」


ファラゼロはそう言うと、老人に抱きついた。


「これこれ…相変わらず元気がいいのう」


老人も、ファラゼロに会えて嬉しいのか、表情が穏やかである。


「あ…あの。ルイエロさん、お久しぶりです…」


緊張しながら、カンナが言った。


「おお!カンナにガクではないか!君たちも久しぶりだな!」


ふと老人…ルイエロは、キラウェルに気付いて見つめる。

キラウェルは急に怖くなり、ガクの後ろに隠れてしまった。


「あ…ルイエロさんは、彼女に会うの初めてでしたよね?」


やはりガクも、緊張しながら言った。


「当たり前じゃ…なんせ初対面だからのう……ところでガクや」


「な…なんでしょう?」


嫌な予感がする……と、ガクは心の中で思う。


「お主の恋人か?」


やっぱり……そう思ったガクは、顔を真っ赤にしながら口を開いた。


「そ……そんな訳ないじゃないですか!恋人じゃありません!!」


「では…恋人ではないとすれば…婚約者か??」


ニヤニヤしながら、ルイエロは言った。


「………!!!!」


無言の叫びを上げるガク。


「あ…あの、ガクさん?しっかりしてください…」


見かねたキラウェルが、ガクに声をかけた。


「ほっほっほっ…やはりガクはからかうのが一番じゃのう」


ルイエロは、楽しそうに笑った。


「まったく…ガクったら。ルイエロさん…彼女の名前は、キラウェルさんです。ガクの恋人でもないですし、婚約者でもありません」


カンナはそう言うと、キラウェルを前に出す。


「あの………えっと……」


緊張のあまり、固まってしまったキラウェル。


「そうかい、キラウェルさんだね?わしはルイエロ・グスタフという。ファラゼロの母方の祖父…と言った方がわかりやすいかの?」


ルイエロはそう言うと、優しく微笑んだ。


「え……!」


キラウェルは、ルイエロの言葉に驚く。


「ルイエロじいちゃんは、俺の死んだ母さんの父親なんですよ。だから…母方のじいちゃんなんです」


キラウェルを見かねたファラゼロが、そう説明した。


「なるほど…」


キラウェルも、納得したようである。


「外での立ち話もなんだから…中へどうぞ。少々狭いかもしれんがな」


ルイエロはそう言うと、キラウェルたちを家の中へと招き入れた。




中へ入ったキラウェルたちは、綺麗に掃除されている部屋を見渡していた。

しかしファラゼロだけは、仏壇の前に立っていた。

どうやら、祖母にお参りしているのだろう。


「わしの妻は…数年前に病死しての。とてもそれは可憐な女性であった」


ルイエロはそう言うと、一つの写真だてをキラウェルに渡した。

その写真には、ルイエロとその妻…そして、ファラゼロに似た女性が写っていた。


「ルイエロさん…この女性は?」


キラウェルは、ルイエロに尋ねた。


「レイアじゃ…。わしと妻の一人娘じゃ」


「ファラゼロ様のお母様ですよ」


キラウェルと同じく、写真を見つめていたカンナが言った。


「へぇ…この人が、ファラゼロさんのお母さん…」


キラウェルはそう言うと、もう一度写真を見つめる。


「レイアは本当にいい()じゃった…。ファルドと知り合って結婚し、孫のファラゼロを産み…レイアは、息子と夫と暮らせて…本当に幸せそうじゃった」


ルイエロは、懐かしそうに語りだした。


「じゃが……悲劇は起きた」


ルイエロの口調が悲しさを帯びる。


「悲劇……ですか?」


小首を傾げるキラウェル。


「……殺されたんです」


そう言ったのは、仏壇にお参りをしていたファラゼロだった。

お参りを終えたのか、こちらに向かいながら口を開く。


「俺が7歳の時に、親父の妻だからという理不尽な理由で…反ブラウン家の奴らによって殺されたんです。親父が留守の間を狙って…」


「なっ……!そんなの…勝手すぎますよ!」


声をあらげるキラウェル。


「あの時の俺は、まだ幼かったのであまりよく覚えていませんが…親父の叫び声だけは…はっきりと覚えてます」


ファラゼロはそう言うと、キラウェルが持つ写真だてを見つめる。


「ファラゼロや…ファルドは何と叫んだんじゃ?」


ルイエロは、ファラゼロに尋ねた。


「“レイアを殺したのは誰だ……許さん……俺の妻を……よくも……!”………です」


「あの男も…レイアを心から愛していたのだな」


ルイエロはそう言うと、涙ぐんだのか目頭を押さえている。


「母さんが死んでからですよ…親父が変わったのは」


「え……?」


驚くキラウェル。


「反ブラウン家…つまり、俺たちを敵視している奴らに復讐するため…シャンクス一族が守ってきた“フェニックスの魔法”に目をつけたんです。それは親父だけでなく…死んだルクエルじいちゃんもそうでした」


「信じられない……」


キラウェルはそう言うと、再び写真を見つめる。


「キラウェルさんがそう言うのも、無理ないです」


これはカンナだ。


「ファルド様は本当に…レイア様を愛していましたから。彼女といた時のファルド様が、本当のファルド様だと…私もガクも、今でも信じているんです」


カンナの言葉のあとを、ガクが引き継ぐ。


「レイア様が生きていた頃の方が、ファルド様はとても優しかったです。息子であるファラゼロ様に対しても…」


「今ではくそ親父ですけど…」


と、憎まれ口をたたくファラゼロ。


「あの悲劇以来…ファルドはこの村を訪れなくなった。しかしファラゼロだけは、毎年来てくれるがな」


ルイエロの言葉に、ファラゼロは嬉しそうに笑った。


「最後に見たファルドは、今でも覚えておる……血が少しついた結婚指輪を嵌めたまま、怒りに狂うあやつの顔は…まるで鬼のようじゃった」


「……………」


驚きのあまり、無言になるキラウェル。


「キラウェルさんや…義理の息子を、ファルドを救ってやってはくれませぬか?もうわしは、ファルドが苦しむ姿は見たくないのじゃ…」


ルイエロはそう言うと、キラウェルに向かって頭を下げた。


「そんな………私は…」


困惑したキラウェルは、そう言うと俯いてしまった。


父親を殺し、大切な一族のみんなまでも皆殺しにしたファルド。

母親とバクを捕らえ、虐待とも言える拷問を続けるファルド。

そんな彼をキラウェルは、当然許せるわけがないし、恨んでいる。救えという方が無理である。

しかし、ルイエロやファラゼロたちの話を聞いたキラウェルは、初めてファルドの見方を考えたのである。


「無理もないじゃろ…あんな酷いことをされたのだから」


ルイエロはそう言うと、キラウェルの頭を撫でた。


「ルイエロさん…私がどこの出身か、わかっていたんですか?」


驚きのあまり、キラウェルは顔をあげた。


「勿論だとも…じゃが、誰にも言わんよ。それが君のためでもある」


ルイエロはそう言うと、優しく微笑んだ。


「もう夕方になる…暫くの間ここにいると良い。レイアの故郷であるここには、さすがのファルドも、襲撃は命じんじゃろ」


こうしてキラウェルたちは、久しぶりに人が住む場所に留まることになった。




―そして、その日の夜―


一人でお風呂に入っていたキラウェルは、ふとファラゼロの言葉を思い出していた。


『背中を見たことはありますか?』


「そうだ…背中…」


キラウェルはそう言うと、鏡越しから自分の背中を見た。


そこに写し出された姿に、キラウェルは息をのんだ。

何故なら……


「なに……これ……」


キラウェルは、自分の背中にある不思議な模様に、思わず言葉を失ってしまった。

不死鳥が、今にも羽ばたきそうなその模様は、まるで刺青(いれずみ)のようであった。

しかも…淡い光を放っている。


「もしかして……母さんにも、この模様が?」


キラウェルは、鏡を見つめたまま言った。


いくら不完全とはいえ、光を放っているとは思わなかったのだろう。

キラウェルは、自分の肩を抱いた。


「これが…リスクの原因なの…?わからない…わからないよ……教えてよ……母さん……」


キラウェルはそう言うと、声を圧し殺し、両手で顔を覆って泣き始めた。


と…その時だった。


『早いとこ体を流せ…暑くて(かな)わん』


なんと不死鳥が、キラウェルの前に現れた。


「き……きゃああああああああ!!!!」


思わず悲鳴を上げるキラウェル。

そして、周りにあったものを手当たり次第投げ始めた。

しかし…どれも不死鳥の体をすり抜けてしまう。


『も…物を投げるでない!!』


「いやああああ!不死鳥のバカっ!変態!!」


『なっ…変態とはなんだ!!』


「ひ…人の体を見ないでよ!!」


キラウェルはそう言うと、タオルで体を隠す。


『み…見てなどいない!お前の勘違いだ!』


「出ていけー!!!!」


あらんかぎりの声で叫ぶキラウェル。



―その頃、ファラゼロたちは…―


「出ていけー!!!!」


「「「「!?!?!?」」」」


浴室から聞こえてきたキラウェルの突然の叫び声に、四人は思わず肩を弾ませる。


「な……なんだ!?」


測量図を描いていたガクは、羽ペンを放り投げてしまった。


「キラウェルさん…どうしたんでしょう?」


カンナは、思わず立ち上がっている。


「まったく……心臓に悪いわい…」


ルイエロはそう言いながら、深呼吸をしている。


「……………」


しかしファラゼロだけは、キラウェルの叫び声に驚いたものの、何事も無かったように本を読んでいる。


「ファラゼロ様…」


そんな彼を見かねたカンナが言った。


「なんだ?」


「何か……私やガクに隠してあること、ありませんか?」


「…………ない」


暫くの沈黙のあと、ファラゼロはそう言った。


「その言い方は…隠し事ありますね」


「……………」


カンナの疑う目に、ファラゼロは参ったなという表情になる。


「…キラウェルさんは、決してひとりごとを言っているわけではないよ。魔法の守護神と話しているのさ」


ファラゼロはそう言うと、読んでいた本を閉じた。


「守護神…ですか?」


今一つピンと来ないのか、カンナは小首を傾げる。


「超希少系魔法には、守護神がついていると云われていてね。フェニックスの魔法にも、ちゃんと守護神がいるんだ」


「ではキラウェルさんは…その守護神と会話を?」


カンナがそう言うと、ファラゼロは無言で頷く。


「ファラゼロや…もしやその話は、ハンスケから聞いたのか?」


ルイエロが、ファラゼロに尋ねる。


「亡くなる前に教えてくれた…。ハンスケさんは、初めから知っていて、キラウェルさんと会っても、()えて知らないふりをしていてくれたんだ」


「そうか…ハンスケも、グラディスとルスタに……」


ルイエロはそう言うと、俯いてしまった。


「でもその守護神の姿や声は、所持者にしか()えないし、聞こえないというよ」


ファラゼロはそう言うと、閉じていた本をもう一度開いた。


「でも……キラウェルさんのは不完全のはず、正式な所持者ではないのではないですか?」


ガクが、ファラゼロにそう尋ねた。


「確かにそうだ…だけども、魔法の力のみを持つ彼女は、たとえ不完全であっても例外なんだ。不老のみを持つレイウェアさんには、姿はおろか声も聞こえないと思うよ」


「つまり…不死鳥は常に、魔法の力と共にあるべき存在…ということですか?」


これはカンナ。


「大正解!」


ファラゼロはそう言うと、持っていた本をテーブルの上に置く。その表紙には、“不死鳥と召喚士”と書かれていた。


「まだまだ…未知の魔法だ。俺はもっともっと…フェニックスの魔法について知りたいと思う」


そう言うファラゼロの瞳は、とても強かった。


その後、キラウェルが浴室から出てきたため、夕飯を食べた後に就寝した。

そして……朝陽が昇った。

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