表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/36

第11話「悲しみの果てに」

ライがキラウェルを庇い、命を落とした。

ルスタの部下から彼女を守るための行動であった…。


キラウェルは今、ライが死ぬ直前に渡したがっていたかんざしを、涙を流しながら見つめていた。

ガクとカンナはというと、亡くなったライの墓を作っていた。

一通り作業を終えた二人は、ライを埋葬した。


「ライ…お前はよくやったよ。我が妹ながら…本当に、よくやった…」


そう言うガクの肩は震えている。


「ガク…」


カンナが悲しげに呟く。


「俺…お前の分まで生き抜いてやるからな」


ガクはそう言うと、空を見上げた。


「ガク…泣いてるの?」


「………泣いてねぇよ」


ガクはそう言うと、目を(こす)った。


素直でない彼の行動に、カンナは少しだけ笑った。


するとそこへ、ファラゼロがやって来た。

ルスタと激戦を繰り広げたのか、顔や腕には細かい傷がついていた。


「ファラゼロ様!ご無事でしたか!」


嬉しそうに、カンナがファラゼロに近付いていった。


「あぁ…うまく退けられたが……代償が大きいな」


ファラゼロはそう言うと、上の空のキラウェルを見つめる。


「ファラゼロ様…魔法はもう使いこなせているのですか?」


これはガクだ。


「だいぶ慣れてはきているかな…親父程ではないけどな」


苦笑しながら、ファラゼロは言った。


ブラウン家は、先祖代々ある魔法を継承してきた。

その魔法こそが、希少系魔法の一つである、“召喚の魔法”である。

この魔法は、ブラウン家の当主にしか扱えないとされており、つい最近になり、ファラゼロは父であるファルドから、魔法を継承したばかりだった。


そして神様のいたずらか、因縁関係にある“フェニックスの魔法[不完全]”と“召喚の魔法”が身近にいる。

これがこの先…何をもたらすかはわからないが。


「この魔法は“召喚法”を主に使うから、結構コントロールが難しくてな…使いすぎると、暴走するときがあるんだ」


ファラゼロはそう言うと、自分の右手の甲を見つめた。

そこには、門のような模様があった。

この模様こそが、“召喚の魔法”の魔法陣である。


「“召喚法”…ですか」


「あぁ…異界のものを喚び出す術のことさ。親父も使っていたし、俺も早く慣れないとな」


ファラゼロはそう言うと、まだ上の空のキラウェルに近付いていった。


「キラウェルさん…」


優しい口調で、キラウェルに話しかけるファラゼロ。


「……ファラゼロさん」


(ようや)くこちらを見たキラウェル。


「…落ち着きましたか?」


「…はい」


「そうですか…」


ファラゼロはそう言うと、キラウェルの隣にあった岩に腰掛ける。


「……俺、ブラウン家の当主の座を引き継ぎました」


ファラゼロのこの言葉に、キラウェルは驚いて彼を見つめる。


「この魔法が…その証です」


ファラゼロはそう言うと、キラウェルに自分の右手の甲を見せた。


「これは…“召喚の魔法”ですか?」


「そうです」


「…………」


キラウェルは黙ると、ライのかんざしを見つめる。


「ファラゼロさん…私は……周りの人たちを、悲しませることしか出来ない人なのでしょうか?」


キラウェルのこの言葉に、ファラゼロは驚きを隠せない。


「それは…何故です?」


「……私と関わった人たちが、傷つけられたり…殺されたりしているからです。みんな……私のせいなんです」


キラウェルはそう言うと、俯いてしまった。


「そんなことはありません!考えすぎです!」


ファラゼロはそう言うが、キラウェルはとまらない。


「なら…何故なんですか!?なぜ関係の無い人たちまで傷つけられなければならないんですか!?もう…私は耐えられない!!」


泣きながらそう言うキラウェル。


その様子を見つめていたファラゼロは、遂に言葉を失った。


思い返せば、キラウェルと親しい関係にあった人たちは(みな)、確かに傷つけられたり、殺されたりしていた。

どれも、キラウェルが巻き込んでしまっているのは事実であった。


しかしファラゼロは、これだけは胸を張って言えた。


「失ったものばかりを数えないでください!“今”を生きる貴女が悲しんでいたら…貴女を守ろうと必死に闘った人たちはどうなるんです!?」


「あっ……」


ファラゼロの言葉に、キラウェルはハッとした表情になった。


「貴女がここまで生きてきて、()の当たりにしたことは全て…失っていくものばかりでしたか!?」


ファラゼロにそう諭され、キラウェルは思い返してみる。

失ったものは確かにある…しかし、得たものもあると気付く。

それは、何事にも立ち向かう…最強の武器であった。


「……皆さんから、“勇気”を……もらいました」


キラウェルのこの言葉を聞き、ファラゼロは安堵した。


「そうです。キラウェルさん…貴女はこの旅の中で、“勇気”という最強の武器をいただいた筈です。その事はだけは忘れないでください…例え、自分が無力だと痛感してもです」


ファラゼロのこの言葉に、キラウェルは無言で頷いた。





時間は過ぎていき、すっかり夜になってしまった。

あんな悲しい出来事があったため、ファラゼロとカンナは、彼女のそばにいたガクと共に、暫くの間キラウェルのそばにいようと決めた。


ライを喪ったキラウェルは、顔には出さないが悲しんでいた。しかし、時折悲しそうな表情をするため、三人は気が気でなかった。


無言のまま夕食を済ませ、野宿することに。

寝袋にくるまっていたキラウェルは寝付けず、一人であの拓けた竹林に近づいた。


「ライさん……本当にごめんなさい。そして、沢山の勇気をありがとう…」


キラウェルはそう言うと、その場に生えていた可憐な花を摘み、建てたばかりのライの墓に供えた。

そして…手を合わせた。


『キラウェル…俺もいいか?』


いつの間にか、不死鳥がそばにいた。


「うん…」


キラウェルがそう言って頷くと、不死鳥は(あらかじ)め持っていた木の実がある枝を、ライの墓に供えた。


『この娘は、本当に勇敢だったな…』


不死鳥はそう言うと、キラウェルの右肩にとまった。


「私の母さんみたいに…私を必死になって守ろうとしてくれた」


『あぁ…』


しかしキラウェルは、不完全な魔法のせいで、自分が何も出来ない…目の前の人でさえも救えない…無力な人間だと痛感していたため、不死鳥に思いをぶつけることにした。


「この一件で…自分は無力なんだと、改めて思い知らされたよ」


『そんなことは…』


不死鳥がそう言いかけたが………


「もう…逃げるだけの人生は嫌なんだよ!護られているだけの人生も嫌なんだよ!皆を護れるくらいに…私自身が強くならなくちゃ…意味がないんだよ!!」


キラウェルは、そう言って不死鳥の言葉を遮った。


『…………』


キラウェルの思いを聞いた不死鳥は、言葉を失った。


「不死鳥…私は決めたよ。もう誰も失いたくないから…私の非力のせいで、人が死ぬのは見たくないから……だから私は、もっともっと自分を鍛える!」


そう言ったキラウェルの表情は、とても力強かった。


『そうか…お前が決めたことだ。最後までやり遂げろよ?』


「もちろん」


キラウェルのこの言葉を聞いた不死鳥は、無言で彼女の背中に戻っていった。

その表情は、穏やかに見えた。


もう…誰も失わない。決して…絶対に。

キラウェルは、もう一度強くそう決意し、寝袋に戻っていった。



ー翌朝ー


朝食を済ませたキラウェルは、武術に()けているカンナにあるお願いをするため、彼女に話しかけていた。


「え!?正気ですか!?」


案の定…カンナは驚きの声をあげた。


「お願いします!」


キラウェルはそう言いながら、頭を下げた。


「でも……」


困惑しているカンナは、返答の言葉が出てこない。


「お願いします!」


もう一度、キラウェルは頭を下げたまま言った。


「わかりました…その代わり、厳しいですよ?」


「あ…ありがとうございます!!」


こうして、キラウェルの修行が始まったのである。



カンナが言った通り、彼女の修行はとても厳しかった。

その光景を見ていたファラゼロが、開いた口が塞がらなかった程だ。


「また目を逸らした!敵から目を逸らさない!」


「は…はい!」


「はい!もう一回!」


頑丈な木の枝を使い、カンナはキラウェルに剣術を教えていた。

実はカンナは、武術だけでなく、剣術にも長けていたのである。


「遅い!もっと早く!」


「…………」


無言で打ちまくるキラウェルだが、疲れてきたのか、動きを止める。すると……


「がら空きよ!」


カンナはそう言いながら、キラウェルの頭にチョップをかます。


「実際の戦いなら…キラウェルさんはもう死んでいてもおかしくありません!強くなりたいなら…諦めないで立ち向かってきてください!」


カンナの言葉に火がついたのか、キラウェルの動きが速くなった。


「そうです!その調子!」


カンナは、嬉しそうに言った。


暫くの間、木の枝がぶつかり合う音が響いた。

そして……


「よし…ここまで!休憩したら、今度は武術を教えますね」


「はい!」


カンナとキラウェルの修行は、一度中断された。

ガクが紅茶を淹れてくれ、お菓子などを用意していたテーブルに置く。

ファラゼロはというと、ライの墓の前にいた。

どうやら、用意したお菓子を供えに行っているようだ。


「さあキラウェルさん…体力を回復しましょ?疲れたら、休むのが一番です」


「はい!」


川で顔を洗っていたキラウェルは、嬉しそうに言った。


「カンナ!キラウェルさん!紅茶を淹れましたよ!」


ガクが、二人を呼んだ。


「今行くから!ファラゼロ様も行きましょう!」


「わかった」


ライの墓の前にいたファラゼロは、こちらへ向かってくる。

キラウェルも、二人のあとを追おうとするが……。


「あ……あ…れ……?」


キラウェルの視界が突然暗くなり、反転した。


何かが倒れる音がしたため、ファラゼロは振り返った。

目に飛び込んできたのは…倒れているキラウェルの姿だった。


「キ…キラウェルさん!?」


慌てて駆け寄るファラゼロ。


どうやら彼女は、気を失ってしまったようだ。


「キラウェルさん!しっかりしてください!!」


ファラゼロはそう言いながら、彼女を助け起こす。

騒ぎに気付いたガクとカンナも、慌てて駆け寄ってきていた。


「ガク!キラウェルさんを安静な場所へ!!」


「はい!」


ガクに()(かか)えられたキラウェルは、眠っているかのようだ。


小屋を発見したカンナが指をさして誘導する。

猛ダッシュするガク。


そしてファラゼロは、キラウェルの身に何が起こったのか…このあと、思い知ることになる…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ