暇潰しにはどうでもいいお話を。
「………」
「………」
「……暇そうだね。」
「はい、とても。」
お茶を飲んで休憩してから暫く、僕がまたカタカタと作業をしていると、彼女は疲れたのか、ソファに横になっていた。
「暇で死ねそうだね。」
「それなら本望です。」
「そう。」
キーボードを叩く手を止めて、彼女の方を向く。
「じゃあ一つ、面白い話をしようか。」
「面白い話……?」
「ある研究者達は、美しい花の遺伝子を使って品種改良をすることにしました。」
「………」
「だけど、残念。品種改良で生まれた花は毒を含んでいたのです。でも咲かせた花は美しいものでした。さて、君ならこの花をどうする?」
「毒をもらって死にます。」
「あぁ、君はそういう子だったね。」
「結局、その花はどうなったんですか?」
「この花はね、研究者達が毒を抜こうとしたために、様々な薬を投与されたんだ。そりゃあもう色んな薬をね。でも実験は失敗した。色んな薬をごちゃごちゃ入れられたせいで毒は悪化して、その毒によって研究者達は命を落としちゃったとさ。ちゃんちゃん。面白い話でしょ?」
話終えて彼女の方を見ると、彼女も僕と目を合わせたまま体を起こした。
「……理不尽な話ですね。」
「そう?まぁ花にとっちゃ最後は自業自得だざまーみろ、って感じでハッピーエンドだよね。」
「その花の結末はどうなりました?」
「その花は多分、研究所から逃げ出して自然の中で咲いてるね。毒を振りまきながら。」
「……そうですか。」
「そんなのが本当に自然の中にいたら怖いけどねー。」
「私はその花が欲しいです。」
「毒が欲しいから?」
「はい。」
「あーあ、殺す気がまた失せましたぁー。」
「あ……」
彼女がしまった、という顔をする。
この子は馬鹿なのかな。
本当に学習しないよね。
それから、彼女はソファの上で足を抱えて黙り込んでしまった。
余計な発言をしないようにしてるのかな。
魂胆がバレバレで逆効果だけどね。
「夜、何が食べたい?」
シラけた空気の中で彼女に質問を投げかけてみた。
彼女は顔を上げて僕を見る。
それから小声で何か言いかけて、すぐに口をつぐんだ。
大方また「いりません、殺して下さい。」とでも言う気だったんだろう。
数秒の間が空いて、ボソボソと「何でもいいです。」という声が聞こえた。
「何でもいい、が一番困るんだよね。」
「何でもいいものは何でもいいです。」
「……もっと欲に塗れて生きがってくれないとなぁ。ぜーんぜん殺す気になれないなぁー。」
「……じゃあハンバーグで。」
「おっけ。いいねハンバーグ。」
ノートパソコンを閉じて立ち上がり、キッチンへと向かう。
ははっ、かーわいいなぁ。
死にたくてしょうがないのに、生きがっている様を見せようと頑張ってるとこ。
矛盾してて可愛いなぁ。
僕に従順になってくれる君は嫌いじゃないよ。
従順って言葉は大嫌いだけど。
えーっと、何だっけ?
ハンバーグだっけ?
じゃあ……
ー 数分後 ー
「お待たせー。」
出来た料理の皿を持ってリビングへと戻る。
彼女はまたソファに横になっていた。
「ほら、夕食出来たよ。食べな。」
そう言って彼女の前に料理を置く。
彼女はその置かれた皿を見て、訝しげな表情をした。
それもそうだ。
だって、
「今日はカレーだよ。」
ハンバーグじゃないもんね。
「………」
「どうしたの?そんな変な顔しちゃって。」
「さっき、ハンバーグって……」
「あぁ、何食べたい?とは聞いたけど、別にそれを作ってあげるとは言ってないよね。」
「………」
「早く食べなよ。どうせ何でもいいんでしょ?ならいいじゃん。」
「……はい。」
彼女は小さく返事をして、スプーンを持った。
あぁ、楽しいなぁ。面白いなぁ。
期待を裏切るのって本当たまらない。
でもちょっとつまらないなぁ。
もっと残念そうにしてくれればいいのに。
本当にどーでもよかったんだね、料理なんて。
ますます殺す気失せるなぁ。
もっと生きがってよ。
僕は目の前でカレーを口にする彼女をにこにこと見ながら、心の中でそんなことを考えていた。