食事中はマナーに気を付けましょう。
「…ん……」
あれ、なに。もう朝……?
僅かに目を開けると、カーテンの隙間からもれる日差しが目に入った。
今何時だろ?
……何時でもいいや。
もうちょい寝てよ。
瞼を閉じ、再び眠りにはいろうとしたその時、なにやら耳障りな音が聞こえた。
「ん”〜〜〜!」
変な呻き声と、ドタバタと暴れるような音。
「あー…そういえば。」
そうだった。
拘束してたんだっけ、あれ。
「……よっこらせ。」
しぶしぶ起き上がり、ベッドから這い出る。
もう一回寝ようにも眠気削がれちゃったし。
あーあ。
リビングに行くと、縄で拘束された少女がソファの上で暴れていた。
「何してんの。パンツ見えそうでみっともないよ。」
「ん”ん”!ん”!」
「え?何て言ってんの?」
「ん”〜!ん”ん”!」
「あーはいはい分かりましたよ。」
少女の口に貼ったガムテープをゆっくりと剥がしてあげた。
すると途端に彼女は声をあげる。
「なんですかこれ!?解いてください!」
「嫌だよ。」
「なぜですか!?」
「だって住所知られちゃったし。また情報漏れて引っ越したりするのめんどくさいからさ。だから大人しくして貰おうと思って。」
「言いふらしたりする訳ないじゃないですか!」
「そんなん信じられる訳ないじゃないですか。とにかく大人しくしてな。あ、朝ご飯食べる?」
「いりません、殺して下さい。」
「仕方ないなー、じゃあ作ってあげるよ。」
「だからっ……」
あーだこーだと喚いている少女をソファの上に縛ったまま残し、自分はキッチンへと向かった。
冷蔵庫を開けると、昨日買い出ししたばかりだから沢山の食材が中に詰まっていた。
「さーて、何作ろ。」
ー 数分後 ー
「おまたせー。」
出来上がった料理を彼女の待つリビングへと運ぶ。
相変わらず彼女はソファの上で暴れていた。
「いい加減落ち着きなよ。料理の上に埃のるじゃん。」
そんな事をいいながら、料理をテーブルの上へ並べる。
ベーコンと目玉焼きをのせたトーストに、コーンスープと野菜のサラダ。
料理なんて長年やってきた。
これくらい簡単だ。
「さーてほら食べた食べた。」
横たわっている彼女の体を起こし、トーストを彼女の口元にわざわざ運んであげた。
なのに彼女は顔を背ける。
「……いりません。」
「何で?食べてよ。」
「嫌です。殺して下さい。」
「………」
あー本当にめんどくさい。
僕はトーストを持ったまま、もう片方の空いている手の指を彼女の口に突っ込んだ。
「んぐっ……!?」
「礼儀がなってないなぁ。作ってもらったもんは文句言わずに食べなよ。」
突っ込んでいた指で彼女の口を無理矢理こじ開け、そこにトーストを押し込んだ。
「んっ……ごほっ…」
「吐いちゃダメだよ。ほら、口閉じて。」
口から指を抜き、顎をおさえて無理矢理口を閉じさせた。
何度か口に入ったトーストを噛み解して嚥下したのを確認すると、顎においていた手を離す。
「……けほっ、ごほっ」
「飲み込んだ?じゃあもう一口……」
「わ、分かりました……自分で食べます。」
「そう?なら最初からそう言いなよ。」
「………」
トーストを皿に置くと、彼女は手首で両手を拘束されたまま、その両手でトーストを持った。そしてそれを口へと運ぶ。
「どう?おいし?」
「……はい、美味しいです。」
「なら良かった。遠慮せずに全部食べてね。」
そう言って僕も自分の食事に取り掛かる。
なんか二人で食事って新鮮だなー。
いつも一人だったし。
ちろりと前を見ると、縄で拘束された少々が不器用にスプーンでコーンスープを飲んでいる。
そうそう、そうやって生きがればいいよ。
そしたら、いつか殺してあげるから。
グサっ、とレタスに刺したフォークを口に運んだ。