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地層物語

作者: 別所寛治
掲載日:2010/09/24

オーストラリアの海岸沿いには物思う地層があった。その地層は一億二千万年前からの地層で、一億四千万年前の地層と一億六千万年前の地層の間に挟まれた正統な地層であった。その地層はあまりに深すぎて採掘の魔の手に侵される心配はなかった。地層は自分が物思う地層だと言うことを知らなかった。地層は、何も考えず、ただ物を思った。

ある日地層はこんなことを思った。

―私がかつて地表にあった時に、周囲が明るくなって気温が高くなったり、暗くなって寒くなったりした現象はまだ続いているのだろうか?

勿論地層に知る術はなかった。故に地層はそれ以上それについて考えることはなかった。

―私が堆積する際私の中に埋もれた骨は今どうなっているのだろうか?

自分の中の事柄であろうと、地層の可能な行為は思うことだけだったので、地層にはその骨が石化しているということを知ることはできなかったし、調べることもできなかった。調べるという行為が存在することも地層は知らなかった。地層は予め多くのことを知っている。新たに何かを知るということはできなかった。

―私が堆積する際私の中に埋もれた骨は今どうなっているのだろうか?

地層はまた他の化石のことを思っていた。地層は自分の中にある全ての化石を思うことができた。ただ、思うだけで、区別はしていなかった。地層はただ一つ一つの化石をその数だけ思った、それだけだった。地層には思う事しかできなかったので、外界を知覚したり認識することはできなかった。同時に、地層にとっては、自分の思うという行為以外は全て「外界」であった。故に自分の中で凝固している化石もまた知覚したり認識することはできなかった。

地層は一億二千万年の間、休まず物を思うという事はなかった。一度物を思うと五千年何も思わないこともあったが、百万年かけて同じことを思ったこともあった。一秒ごとに違うことを思うこともある。地層が今までに思ったことのある事柄は現在19兆2678億9112万6798個であった。新しい事柄も幾つも思ったし、同じ事柄も幾つも思った。一番多く思った事柄は987億1152万0047回思った。

やがて1年が経ち、地層は一億二千万一年前の地層となった。地層は987億1152万0048回目に思う事を思った。

―私はいつか物を思わなくなるだろうか?

自分が物を思っているということを、地層は自分が出来てから0年しか経っていない時既に知っていた。その時点で知らなかったことは何一つ地層は知らない。その次に地層が思ったのは、19兆9112万6799個目の事柄だった。

―私は物を思わなくなることができるのだろうか?

その時、地層の中に1億2千万1年の間堆積した「思う」という行為が疲労と化して亀裂を生み、地層の存在に揺らぎと罅割れを起こしたかどうかを知る術はない。それは地層にとって「外界」であり地層にも「知る」ことは出来ない。次の瞬間、地球は縦横に裂け、幾千の粒や岩となって飛散し、世界は滅んだ。オーストラリア大陸も破壊され、分裂した。そうして地層は独立した物体となって宇宙に浮遊するようになった。


しかし、これは地層の再度の誕生と言う訳ではなかったし、地層は予め知っている以上のことを知ることはなかった。自分が宇宙空間にいるということも知ることはできなかった。

―私がかつて地表にあった時に、周囲が明るくなって気温が高くなったり、暗くなって寒くなったりした現象は、今どうなっているのだろうか?

地層は地球にあった時と同じように、同じ事柄も思ったし、新たな事柄もいくつか思った。

―私はいつか物を思わなくなるだろうか?

ちょうど1000億回目に地層がこのことを思った時、地層はブラックホールに飲みこまれて消滅した。地層には「体験」する能力はなかったが、初めて「思う」以外の行為を達成したのがこの「消滅」であった。それは地層の疑問に初めて答えが出た瞬間でもあったが、やはり地層には「知る」ことはできなかった。


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