第9話 振り返り&打ち合わせ
怒涛のコラボラッシュを駆け抜け、静かな個人配信の時間を噛み締めていた。
『こんマヒロ。星乃マヒロです! 今日はね、ここ最近の「お祭り」みたいなコラボ配信を、みんなと一緒に振り返っていきたいと思います』
久しぶりのソロ配信。変な緊張感もなく、リスナーの流れるようなコメントが心地いい。
『まずは、リリアさん! 初めてのコラボでガチガチだった私を、あんなに優しく引っ張ってくれて……本当に王子様みたいでカッコよかったなぁ。
ミコ先輩は、ゲーム対決ですごく盛り上がったよね。配信外でも「緊張してない?」って気遣ってくれて、実はすごく優しい先輩なんです。
こももちゃんは、もう……元気いっぱい! 苗字が一緒だからって「お姉ちゃん」って呼んでくれて、本当の妹ができたみたいで可愛かったし……。
最後、セレナさんは……。……あはは、あの膝枕は、正直、最高に癒やされました。ありがとうございます、としか言えません……っ』
思い出すだけで顔が熱くなる場面ばかりだ。視聴者たちも、俺の必死な振り返りに大盛り上がりだった。
・マヒロちゃん、振り返りながら顔赤くなってない?
・全員に愛されすぎてて草。もはや伝説の新人でしょ
・セレナさんの時だけ語彙力死んでて笑う。よっぽど気持ちよかったんだな
『これからは少し落ち着いて、個人配信も増やしていきたいと思ってるから、みんな応援よろしくね! じゃ次はゲームでもやろ! 』
この時の俺はまだ知らなかった。
視聴者一覧の最上部に、「あの四人」の公式アカウントが並んでいたことに。
◇
VTuberになって数ヶ月。
当初は鏡を見るたびに絶叫していたこの体にも、最近はようやく慣れてきた。事務所に行く以外の外出もできるようになったし、何より大きな変化は、高校を中退したことだ。
両親に「VTuberとして生きていきたい」と打ち明けた時、反対されるかと思いきや、「あんたが自由に笑って過ごせるなら、それが一番だよ」と、あっさり背中を押された。
そしてある日の配信後。氷室さんの呼び出しに、俺は嫌な……いや、甘すぎる予感を抱きながら事務所へ向かった。
「マヒロさん。察しの通り、コラボです。……それも、例の四人が揃い踏みする特別番組です」
氷室さんに連れられ、会議室の重い扉を開ける。
そこには、俺の「初めて」をことごとく奪っていった四人の姿があった。
「あ、マヒロ。やっと来た……」
「遅いわよ! 新人のくせに先輩を待たせるなんて、いい度胸ね!」
「あーっ! お姉ちゃん! こっちこっちー!」
「ふふ、今日もいい声ね、マヒロちゃん」
挨拶もそこそこに、一気に距離を詰められる。
俺が席に着くやいなや、左隣にはリリアさんが陣取り、右隣からはミコ先輩が鋭い視線を送ってくる。さらに、こももちゃんが当然のように俺の膝の上に登り、背後からはセレナさんが首筋に顔を寄せて抱きついてきた。
「あ、あの……みなさん? 何してるんですか、これ打ち合わせですよね……?」
尋ねても、誰も離れてくれない。リリアさんは俺の髪を弄り、セレナさんの吐息が耳をくすぐる。
……ダメだ。抵抗しても無駄だ。俺は思考を放棄することにした。
「では……全員揃ったので進めますね」
氷室さんが呆れたような視線を向けながら、ホワイトボードを叩いた。
「今回の五人コラボ(四人+マヒロさん)、メイン企画の案がある方は?」
「みんなで、対戦ゲームをしましょう」
最初に口を開いたのはミコ先輩だった。
「ニ対ニのチーム戦よ。……負けたチームは、勝ったチームの言うことを一つ、何でも聞く。どうかしら?」
(それ、ただの罰ゲーム目的じゃ……!)
もっと平和な、すごろくやパーティーゲームを提案しようと口を開きかけたが――。
「異論なし。私がマヒロと同じチームになる」
「あーっ、リリア先輩ずるい! こももがお姉ちゃんと一緒がいい!」
「いいわね。勝った方が、マヒロちゃんとお出かけができる……そういうルールにしましょうか」
俺の意見は、完全にスルー。
四人の視線が火花を散らし、会議室の温度が数度上がった気がした。
「……では、ゲーム対決。ペアマッチということでよろしいですね?」
「「「「はい!!」」」」
こうして、俺の意思とは無関係に、俺という「景品」を賭けた戦いの幕が切って落とされた。




