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第4話 コラボ依頼

デビューから一週間。

 初配信でついた「見た目は美少女、中身はガチオタク」という強烈なキャラクター性は、その後も配信を重ねるごとに話題を呼び、チャンネル登録者数は飛竹の勢いで増え続けていた。


 ある日の配信直後、ブースの片付けを終えた俺に、マネージャーの氷室さんがタブレットを手に近づいてきた。


「お疲れ様です、マヒロさん。……少し、お話があります」

「お疲れ様です。お話……? 何か問題でもありましたか?」


 もしかして、配信中のオタクトークが行き過ぎて怒られるのだろうか。

 身構える俺に、氷室さんは眼鏡のブリッジを押し上げ、どこか意味深な笑みを浮かべて言った。


「いえ、逆です。――白雪リリアさんから、あなたとのコラボ希望が届いています」


 ……え?

 思考が、一瞬で真っ白に染まった。


「え、……あの、白雪リリアさん? 本物、ですか?」

「ええ。事務所を通した正式な打診です。彼女、あなたの初配信を見て以来、ずいぶんあなたを気に入っているようでして」


 大好きな、憧れの、不動の推しVTuber。

 男だった頃の俺が、画面越しにスパチャを送り、イベントの最前列でペンライトを振っていたあの彼女が、俺と――この「星乃マヒロ」と一緒に配信したいと言っている?


「ど、どうしますか? 準備期間も必要ですし、今は配信を優先したければ断ることも……」

「やります! 是非、やらせてください!」


 氷室さんの言葉を遮るように、食い気味に返答していた。

 心臓が耳元でうるさいくらいに鳴り響く。


 憧れの人と同じ空間に立ち、言葉を交わす。

 それは、TSしてでも手に入れたかった――いや、TSしたからこそ掴み取ることができた、奇跡のようなチャンス。


「わかりました。では、後ほど詳細と……リリアさんとの顔合わせの場をセッティングしますね」


 こうして、俺の運命を加速させる「推しとの初コラボ」が決定した。



白雪リリアさんとのコラボ当日。

 今日は顔合わせと打ち合わせ、そしてそのまま配信を行うため、俺は事務所の大型スタジオに足を運んでいた。


 心臓の音が服の上からでも分かりそうなほど、バクバクと騒がしい。重いスタジオの扉を、意を決してゆっくりと押し開ける。


 機材の並ぶ部屋の中央に、一人の女性が立っていた。


「……初めまして。星乃マヒロさん」


 振り返った彼女の声を聞いた瞬間、全身に電気が走った。

 間違いなく、リリアさんだ。

 アバターのモデルそのままの、透き通るような長い白髪に、すべてを見透かすような涼しげな瞳。

 画面越しに見ていた「理想の女性」が、今、俺のわずか数メートル先に存在している。


「あ、あ……あ、初めまして! 星乃マヒロですッ!」


 緊張のあまり、裏返った妙な声が出てしまった。そんな俺を、リリアさんはじっと見つめ、ふっと柔らかく目を細める。


「……ふふ。配信、全部見ましたよ。あなた、思っていた以上に――いえ、画面で見るよりもずっと、可愛いですね」


 ド直球すぎる、熱を帯びた言葉。

 俺の心臓は、これ以上ないほど激しく跳ね上がった。


「あ、ありがとうございます……っ」

「ねえ、敬語はいらない。マヒロって呼んでいい? 私のことも、リリアって呼んで」


 そう言って彼女は、すっと距離を詰めてきた。

 鼻をくすぐる、上品で甘い香水の香り。中身が男の俺にとって、この距離に美少女がいるのはもはや「攻撃」に近い。


「あ、いや、リリア『さん』を呼び捨てにするなんて、俺……私には……」

「ダメ。リ・リ・ア、だよ?」


 有無を言わせぬカリスマ性と、時折見せる年上の余裕。やっぱり、とんでもなくカッコいい人だ。

 その後、赤くなった顔を隠すようにして、コラボの打ち合わせに入った。


「マヒロ、何か一緒にしたいことある?」

「あ、それなら……一緒にゲームをするのはどうでしょうか? リリアさんのあの神エイム、隣で見てみたくて」

「いいね、私の隣。気に入った。じゃあ、今日はたっぷり『お姉さん』がキャリーしてあげる」


 リリアさんは満足げに微笑み、俺の肩を抱くようにしてモニターへと誘う。

 こうして、推しとの至近距離ゲームコラボが、幕を開けようとしていた。

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