第10話 特別コラボ
ついに迎えた、特別コラボ当日。
スタジオ内は、配信開始前からすでに火花が散るような緊張感に包まれていた。
『こんマロ。星乃マヒロです! 今日は超豪華な特別コラボ! 事務所の先輩方四人に来てもらいました!』
リリアさん、ミコ先輩、こももちゃん、セレナさん。一人ずつ挨拶が進むたび、コメント欄の速度が限界を突破していく。
『今日やる企画は、二対二のチーム対抗ゲームバトルです! ルールは至ってシンプル。勝ったチームには……えっと、私と一緒に「一日お出かけできる権利」が与えられます』
・それ実質デート券だろ!
・先輩たちの目がマジすぎて怖いんだが
・これ、負けたら事務所の空気が死ぬぞ
『じゃあ……チームを決めようと思うんですけど。私と組みたい人、いますか?』
質問が終わるか終わらないかのうちに、スタジオ内に四人の声が重なって響いた。
『『『『はいっ!!!!』』』』
一歩も引かない絶叫。
『マヒロお姉ちゃん、こももと一緒になるって約束したよね!?』
『ちょっと、後輩なんだから私を立てなさいよ! 』
『マヒロは私の隣が一番落ち着くって、前回のコラボで証明済み』
『ふふ、焦らなくていいのよ。最終的に選ばれるのは私なんだから』
――始まる、リアル修羅場。
コメント欄も「マヒロ争奪戦エグい」「誰を選んでも角が立つぞ」「地獄の選択肢」と大騒ぎだ。このままだと配信中に喧嘩が始まってしまう。
『こ、ここは公平にくじで決めましょう!? ね!?』
俺が必死に提案すると、四人は不満げながらもようやく引き下がった。
運命のくじ引き。俺の隣を勝ち取ったのは――リリアさんだった。
ゲームが始まると、リリアさんの「本気」が炸裂した。
普段のクールなプレイとは違い、一瞬の隙も与えない苛烈な攻め。俺をカバーする手付きも完璧で、他の三人を全く寄せ付けないまま、圧倒的なスコアで勝利を収めた。
『……決まり。マヒロとのお出かけ権は、私のもの』
リリアさんは、配信画面越しでも分かるほど勝ち誇った笑みを浮かべ、俺の肩を抱き寄せた。
勝利の喜びというよりは、獲物を確保した捕食者のような笑み。
それを見つめる負け組三人の視線が、物理的に刺さりそうなくらい痛い。
『今日はありがとうございました! またいつか、みんなでコラボしましょうね! お疲れ様でした、おつマロ!』
逃げるように配信を切り、配信終了を告げるランプが消えた直後。
勝利したリリアさんがスタッフと打ち合わせのために席を外すと、残された三人が、まるで見せつけるように俺を囲んだ。
「……お出かけ権は取れなかったけど。マヒロ、二人きりでどこかに行くって約束、冗談だと思ってないわよね?」
ミコ先輩が、射抜くような鋭い視線で俺を凝視する。その瞳は潤んでいて、負けた悔しさ以上の熱が籠もっていた。
「マヒロお姉ちゃん……。こもものこと、嫌いにならないでね? お願いだから……」
こももちゃんは、今にも泣き出しそうな顔で俺の裾をぎゅっと握りしめてきた。いつも元気な彼女の震える指先に、俺の心臓が小さく跳ねる。
「……ちゃんと、私たちの気持ち、考えてあげてね」
最後に、セレナさんが冷たいほど静かな声で、けれど逃げ場を塞ぐように俺の肩を抱いて囁いた。
三人はそれだけを言い残すと、振り返りもせずにスタジオを去っていった。
重い扉が閉まる音だけが、やけに大きく響く。
「……なんなんだよ、一体」
一人残されたスタジオ。さっきまでみんなの香りがしていた空間が、今はひどく冷たく感じる。
配信中のプロとしての振る舞いじゃない。
去り際に見せた、あの剥き出しの独占欲、縋るような視線、そして熱を帯びた声。
「これ……遊びじゃないんだ」
みんなが俺に抱く感情は、決して台本なんかじゃない。
本気で俺を「一人の女」として求め、奪い合おうとしている。
俺はこれから、彼女たちと、そして自分自身のこの心と、どう向き合えばいいのだろうか。
鏡に映る銀髪の美少女――星乃マヒロの顔は、かつてないほど戸惑いに染まっていた。




