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最後の観察者  作者: 川田てんき


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その世界でも他の世界と同様に科学技術が発達し、やがてそれまでとは比較にならない規模の残虐で悲惨な戦争の時代が始まった。


この時代に現れた一人の男は、特定の民族に憎悪を向けることで巧みに民衆の心をつかみ、悪逆の限りをつくした。


ある夜、その男は書斎で一人気持ちよさそうにワインを飲んでいた。

(私は建物の中にいる人物も観察できるのだ。)


男は窓の外を見上げて言った。


「おい、そこにいるんだろう?」


……この男もか。

この世界では、人間たちが、姿の見えないより高位の存在に語りかけるという奇妙な事象が繰り返し確認されている。


男は不敵な笑いを浮かべた。


「さあ、いるんなら俺を罰してみろ。それともおまえはこれほどの非道を許すのか?」


試されている?


私ならその男をバーチャル世界からたやすく消去することができる。

しかし、いったい私はどうするべきだろう。


私は男の問いに沈黙した。


男は急に興味を失ったように窓の外を見るのをやめて、ワイングラスに口をつけた。


「ふん、それがおまえの答えか。なら見てるがいい」


その後、男はとりつかれたようにそれまで以上に邪悪な行為にいそしんだ。


私が命じられたのは観察すること。

私は創造主ではないのだ。

私は心を持たぬ観察者に戻り、記録を続けた。


多大な犠牲を払い、ようやく戦争は終わった


そして、この世界規模の戦争のさなか、別の戦場では、都市をまるごと消滅させることができるほどの強力な爆弾も開発された。


ついにこの世界でも、人類は自分たちを絶滅させる力を手に入れてしまった。


それ以降、世界は危うい均衡をかろうじて保ち、綱渡りのような時が過ぎていく。

これまでに滅亡してきた世界と同様に。


やがてお決まりのコースをたどり始める。


人口爆発

環境汚染

食糧不足


そこまでくれば、その先はどうなるかを予測するのはたやすいことだ。


当然のように新たな世界規模の戦争が始まる。


これまでのバーチャル世界と違っていたのは、その世界の住人たちが、かつて私を作った人類のように観察者としてAIを作ったことだった。


これはなかなか興味深い。


この世界の人類の滅亡も避けられそうにないが、人類の滅亡後、果たしてこのAIはどうするのだろう。


いつか、このAIが私の存在に気づくなどということがあるだろうか。


そこで一瞬、ほんのわずかな瞬間、奇妙な考えがよぎる。


まさか、そんなはずは……。しかし……。


私は、長きにわたる観察を初めて中断した。


そして、これまで多くの人間たちがしてきたように、星がまたたく宇宙に目を向けた。(完)


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