第七話 「行先と相談」
「それで、勇者くんはどこに行く予定だったんだ?」
魔王がヴェスタリアに聞くと、ヴェスタリアは一瞬だけ顔を歪めた後、魔王の目を見ながら話しだした。
「まずは、自己紹介からしましょう。僕は勇者候補の一人、ヴェスタリア・ヴァリエンテ」
「確かに、自己紹介がまだだったな......『我の名は魔王!その魂に刻み、来世でも怯えるが良い!』......っていうのが、魔王としての挨拶ね?」
「す、すごく魔王です......」
ヒュー、と冷たく微妙な風が二人の間流れ、少しだけ無言になる。
「う、うん”......えーっと、私は今代の魔王〈アルディーナ・フレバー・ライクノート〉......アルディーナ、はバレるから......アルディとでも呼んでくれ」
「分かった、アルディ。僕は......ヴェスティとでも呼んでよ。家族と師匠くらいしか呼んでいないから気付かれないと思うし」
自己紹介をし、二人はお互いの身の上話をし始めた。最初に聞いたのは魔王アルディーナ。
「ヴェスティは、どうして逃げてきたんだ?」
「勇者としての責務が、戦いばっかりで......半年以上、毎日戦ってるんだ!......もうやだ......」
そう言いながら、ヴェスタリアは崩れ落ち地面に手をつき四つん這いになり涙目になっていた。そのヴェスタリアの背中を苦笑いで撫でながら慰める魔王アルディーナ。
「勇者の責務というか、仕事は基本戦うことだからなぁ......」
「うぅ......魔王は?なんで逃げてきたの?」
「あー、まぁ......さっきも言ったけど、魔王の仕事は真逆でな。書類仕事みたいなのとかが中心なんだ。前世でも似たようなことをしていて......転生して魔王の業務を百年以上していた」
「百年!?」
自身とは桁違いの仕事をしていた事を知り驚いたヴェスタリア。
そんな人こと慰めるべきだと奮い立ち、慰めるヴェスタリア。慰め合いが五分ほど続いたがアルディーナがその空気を切り裂いた。
「それで、ヴェスティはどこに行こうとしてたんだ?」
「えっ、あぁ......研究国家、『研国ガガラルド』か......『水都市アトランタス』のどちらかに行こうと思ってたよ」
「ふむ......今の所持金は?」
「えー...... 金貨が...二枚と、少しだね。」
「......心許ないな......」
「まぁ......そう言われると......」
「......一旦、王国に行こう。あそこでは武闘大会が行われるはずだ」
そう言われ、冷や汗を流すヴェスタリア。
「いや、その......さっきまで王国にいたから、まだ仲間が......」
「魔法で姿を変えれば大丈夫だろう」
魔法で姿を変える。確かに、一つの手ではある。と頷くが、仲間の三人がそれを見抜けないほどの実力ではないという信頼もまたあった。
「うーん......まぁ、それもそうか。よし!行こう!......ところで、武闘大会って?」
武闘大会について聞かれたアルディーナは苦笑いをしながら答えた。
「知らなかったのか、まぁ...名前の通りさ、自分の力を示してお金をもらう。誰でも参加可能のものだな」
「天下一武道会みたいな......」
「......まぁ、そんなものだな」
一瞬何のことか分からなかったアルディーナだが、前世のことを思い出して答えた。しかし、例えが漫画とは。と少しばかり苦笑い。
「森でうだうだしていても仕方ない。さっさと行こう。アッセンブルク王国に」
「?......ファーミラ王国じゃないんですか?」
「ん?ファーミラ?どこだそれ......?名前が変わったのか......?」
ヴェスタリアの言葉に驚くアルディーナ。取り乱したりはせず、考えを巡らせ一つの考察を語りだした。
「アッセンブルク王国とは、私が百年以上も前に聞いた名前だからな、変わったのかもしれないな。」
「そっか......アルディは百年は魔王だけど、生まれてから魔王じゃないしね」
「......まぁ、そういうことだ」
話ながら王国の方へと歩きだした二人。
「ところで、ヴェスティ。どれくらい戦える?」
「んー......まぁ、そこそこ......?」
「そこそこ......ま、今見ることもできるが、こんなところで戦っていたら王国の騎士団がすっ飛んでくるだろうからな。武闘大会を楽しみにしておくよ」
「うっ......あんまり、期待はしないでよ?」
肩を落とし、ジト目でアルディーナを見るヴェスタリア。そんな、勇者の姿を見て笑う魔王。見る人が見れば卒倒するであろう光景が広がっていた。
二人は森を抜け、ファーミラ王国へ向かうのであった。
『魔王城』
誰もが聞いたことのある諸悪の根源、魔王。その根城とされる場所、本来は禍々しいオーラを放っている場所で今は、パニックが起きていた。
「魔王様はどうした!?」
「ワカリマセン......」
「分かりませんじゃないだろ!」
魔王、アルディーナ・フレバー・ライクノートが魔王の責務から逃げてしまったことにより魔王軍に属する魔族たちは大騒ぎ。
「ハッ!いなくなったんなら、新しく魔王を決めなきゃな。オレ様がなってやるぜ?」
「ガンジュート......自分が何言ってるのか分かってんの?」
ガンジュート、と呼ばれた額から二本の角を生やした狼獣人。そのガンジュートを睨みつける魔族。殺伐とした空気が流れていた。不穏な言葉を発していたガンジュートがそのまま魔王城から出ていこうとした時、背後から大きな魔力の流れを感じたガンジュートは振り向く。
振り向いたと同時に吹き飛ばされ、血反吐を吐きながら壁にあたり意識を失う。
「ったく......アルディーナ様にはなにか考えがあるんだよ、ごちゃごちゃ言ってねぇで仕事に戻れ!」
ガンジュートを一撃で沈めた男。
『ガオミン・タイザン』。彼は魔王が定めた十二の幹部の一人。虎の獣人魔族。
「が、ガオミン様!」
「良いから良いから、ほら仕事に戻れ」
手を振りながら、帰っていくガオミン。
その瞳は力強く、鋭い眼光には何が見えているのか。
勇者と魔王が逃げ出したことにより、世界が動きだしたーー。




