第二十二話 「情報収集」
高級な食事処で夜ご飯を食べて、宿に戻ったヴェスタリアとアルディーナ。二人は特に何かをする予定もなく、そのまま就寝し、英気を養った。
翌日
ヴェスタリアは朝早くに起き身支度をする。今日は情報収集に徹する日、と決めていたのでアルディーナを起こす。
アルディーナはまだ寝ていたため「早く起きて、行くぞ」と声を掛けていた。
アルディーナは、のそのそと動き、ゆっくりと準備を始める。起きたはいいが、まだ寝ぼけているのか「なんでこんな早くに...」と文句を垂れていた。
「大会に関しての情報を集めるんだろ?」
そう言ったヴェスタリアにアルディーナは「あぁ...」と納得の声なのか、寝ぼけているだけの声なのか分からない返事をしている。起きてから、着替えの準備をしているにも関わらずまだシャツ一枚しか脱げていなかった。
あまりにも遅い身支度にヴェスタリアはイライラしながらも、待ち続けていた。
それから少し経ち、ようやく準備が終わったアルディーナ。待たせていたのはアルディーナにも関わらず
「さぁ、行くぞ!ヴェスティ!」
と、張り切っていた。
その様子に呆れた苦笑いを浮かべるが、特に何も言わずに部屋から出て宿の受付カウンターのあるホールに行く。
ヴェスタリアとアルディーナの二人が泊まっている宿は王国の中に限らず、世界中を見ても平均的な宿屋である。
宿屋の中に朝食サービスがあるのは、少しだけグレードの高い宿屋になる。
宿屋の受付カウンターにいた受付嬢にルームキーを渡し、出かける旨を伝えて出て行く。その際、受付嬢は二人のイケメンさに顔を赤くしていた。
閑話休題
ヴェスタリアとアルディーナは街中を歩いていた。二人の共通認識として「情報は酒場に集まる」というモノを持っていた。
二人とも、漫画が好きすぎるのかもしれない。
酒場を目指して歩いていこうとしたのだが、お腹が空いており、先に朝食を済ませることに。入った店はパンがお店に並び、自分自身で好きなモノを取るタイプのお店。
王国では珍しいお店であった。そのお店にて、二人は好きなパンを取り会計を済ませる。そのまま、お店の中の飲食ができるブースに移動し食べ始める。
「酒場に行くのは良いけど、酒場なら夜だったかな?」
「...確かに、そうかもしれんな。しかし、朝からやっている酒場もあるだろうさ」
二人がこれからの行動について話していた時、二人の会話が聞こえたのか店員が近付いてきた。恰幅が良く、豪快なお母ちゃんタイプ、と言った感じの女性店員である。
「今から、酒場に行くのかい?まったく、朝から飲んだくれとは...」
「いや、違いますよっ!情報収集として行くんですっ!」
店員から不名誉なことを言われ、ヴェスタリアは即座に否定した。その言葉を聞いた店員は「そうだったのかい」と言い、納得していた。
その様子を見て、酒場が情報収集に向いていることを確信したアルディーナ。
しかし、ヴェスタリアはそのまま店員と話を続ける。
「明日、行われる武闘大会がありますよね?」
「あぁ、あるね。毎日闘技場では誰かが戦っているさ」
「毎日...それじゃあ、賞金も毎日...?」
「いやいや、ここまで大きい賞金が出るのは数年に一度さ」
その言葉を聞いて、ヴェスタリアは「へぇ〜」と興味があるのかないのか、判断ができない返事をしていた。二人は話しながらも食べ勧めていたため、食べ終わり店を後にする。その際、店員から「明日も来るんだよ!」と言われていた。
「さてと、酒場に行って本格的に情報を集めるか」
「あぁ、大会について何も知らないからな」
驕っている訳ではないのだが、勢い任せに色々と勧めていたため、ヴェスタリアとアルディーナは武闘大会について何も知らないのであった。二人がパン屋を後にして、歩いていると酒場が見えてきた。
酒場は夜だけしかやっていない、なんてことはなく、朝からやっている。店に入ると少ないながらも少しだけ客はおり、入ってきた二人を見るがすぐに興味がなくなったように、また酒を飲み進めていた。
カウンターまで二人は歩き、店主と話し始めた。
「やぁ、店主。おすすめを僕とこの人に一杯ずつ」
「はいよ」
カウンターの下からジョッキを取り出し、二人の前に置く。置かれたジョッキには日本で言うところのビールが並々注がれていた。
「ここは、王国で一番うめぇビーラが飲めるぜ」
店主がニヤリとしつつ、二人に差し出した。そこには、キンキンに冷えたビーラが置かれており、ヴェスタリアとアルディーナは驚いていた。この異世界では、ビーラは常温で飲むものだが、この店主は冷えたものを出したからである。
「俺が考えた、冷えたビーラだぜ」
得意気な店主をチラリと見てから、二人はグビグビとビーラを飲み干した。
♢
少しだけ飲みながら、店主と話していたが、そろそろ情報を聞かなくてはと、口を開いた。
「なぁ、おやっさん。明日の武闘大会について、何か知ってるか?」
「ん?お前ら、出るのか?」
「あぁ、既に登録もしているしな」
「なるほどなぁ...それで、情報を集めるために来たのか」
二人の様子に納得した店主。店主は情報を口にする。
「ビーラを飲んでくれた客だ、教えてやるぜ。...まず、明日の大会には”派手”なことができる奴しかダメだ」
「...派手?」
「おう、デカい賞金が出る時は誰かがバックに着いてんのさ。今回は、とにかく派手で派手でド派手な、目を楽しませることをしなくちゃならねぇ」
「ふむ...」
「ま、それは予選の話さ。予選では派手なことをして、本戦ではトーナメント式の戦いになる。なんたって、”武闘”大会だからな」
「なるほど...本戦では派手さはいらないのか?」
「いんや、戦いの中でも派手なことはしなくちゃならねぇ...というよりも、予選で使った派手な技、もしくはそれ以上のことをしないとな」
店主の話を聞いたヴェスタリアとアルディーナはどうするべきか頭を悩ませた。二人とも、本来の職務である〈勇者〉と〈魔王〉から逃げ出した身。
いくら見た目を変えようと、派手な技を使えば、ヴェスタリアはかつての仲間にバレる可能性がある。アルディーナに関しては、派手な技=殺傷能力の高い技である。
しかし、二人の事情を知らない店主は、二人には派手な技がないんだなと勘違いし、二人の肩を叩き新しいビーラを差し出した。
「ま、お前ら二人は若けぇんだから、大会だけじゃねぇさ」
ガハハッ、と笑いながら別の客の所へ向かって行った。
「どうする、アルディ...」
「...帰って、作戦会議だな」
そう言って、カウンターにお金を置いて酒場から出て行く二人。その二人の背中に向けて店主は
「人生はダメで元々!明日、気張れよ!」
と、激励を送っていた。ヴェスタリアとアルディーナの二人は背中を向けたまま手を振り返し、そのまま宿に帰って行った。
その日の夜、二人が泊まっている部屋の明かりが消えることはなかったそうな。




