二話 変な気持ち
気付けば一年を終えた俺は、二年生になっていた。
「……。」
二年生になってから、早速嫌な気持ちになっていた。
「……。」
それは、アイツと同じクラスになってしまったからだ。
アイツはあの時と同じように、誰も寄せ付けいないような雰囲気を漂わせながら、アイツだけクラスで浮いていた。
俺はアイツとは違い、上手くクラスに馴染めたと思う。
親友と呼べるようなやつはまだ居ないけど、それでも話せる相手ぐらいは結構居る方だ。…と思う。
知り合いが居るだけで、時間が経つのは凄く早く感じるもので、あっという間に体育祭の時期へとなっていた。
体育祭では、俺はクラス対抗リレーのアンカーを託される程に、クラス内では頼られる存在になっていた。
そんな俺とは違い、アイツは相変わらず一人で行動をしていた。
体育祭でも特に目立たないような競技に出ていて、誰もあいつの事を気にしていないように思えた。
だが俺は違った。
「……っ。」
俺はその時、ようやくアイツの事をちゃんと見たと思う。
誰もアイツの事を見ていなかったが、アイツは、競技の時だけは見たことのない顔をしていたのだ。
悔しいが、よく見ればアイツは顔が良く、スタイルも良い。
少し楽しげにしているその表情は、とてもレアなものだと思った。
「……っ!」
「…あっ…」
ずっと見ていたせいか、俺の視線に気がついたアイツは、恥ずかしそうに顔を背けすぐに真顔に戻った。
「…プッ…」
その行動を全て見ていた俺は、思わず吹き出しそうになったがそれを我慢した。
あっという間に午前の部は終わり、俺は家族のもとへ行こうとしていたその時、嫌なものを見てしまった。
「なぁ、陰キャのお前が目立とうとしてんじゃねぇよ。」
「……。」
アイツは三年の先輩に絡まれていて、よく見るとその三年は、アイツと同じ競技に出ていて、アイツに普通に負けていた男子だった。
俺は物陰に隠れ、こっそりと会話を盗み聞きした。
「たまにいんだよなぁ、お前みたいに調子に乗っちゃうクソ陰キャがさぁ…。」
「……。」
「誰も陰キャが活躍するところ見たくねぇんだわ。
というか、お前みたいな陰キャは俺達の引き立て役になるのが常識だろ?
そういうのわかんねぇの?」
「……。」
クズはアイツにそう言うと、「そういうことだから」と言い、その場を去ろうとした。
正直、そのままどっか行くのを見届けるのでもよかったのかもしれない。
「……ッ……!」
だけど、俺は無性に腹が立ってしまって、気づいた時にはその先輩を殴り飛ばしていた。
先輩は血を吐きながら、俺のことを睨みつけてきた。
「…てめぇ、なんのつもりだっ!あぁ!!??」
怒りに任せて先輩は顔に向かって殴りかかってきたが、俺はあえてそれを避けなかった。
数メートル飛んだ俺に、先輩は追撃してきた。
「弱いくせに粋がりやがってよ!
自分が正義のヒーローにもなったつもりかよ!?」
そして、さらに追撃しようとした時、先輩を数人の大人が止めに入った。
先輩はそれでも暴れ回っていたが、最終的に生徒指導の先生に連れて行かれた。
俺は事情を全て先生らに話した後、すぐに保健室へ連れて行かれた。
家族が様子を見に来てくれたが、妹の参加種目があるため、そちらを優先させた。
妹も来てくれたが、軽く笑われた。
(あいつ何がしたかったんだ…)と困惑しながら、俺は保健室のベットで横になっていた。
「……こんにちは…」
どのくらい経った時だったか、よく覚えていないが、アイツが保健室に来てくれた。
「…参加種目はもう終わったのか?」
俺は申し訳なさそうにしているアイツに、そう話しかけた。
アイツは首を横に振り、何か言いたげだったが、上手く言葉が出てこない様子だった。
「…いいよ、別に…。」
なんとなく察した俺は、そうつぶやいた。
「良くないよ!」
アイツはそれを聞いて、すぐに言い返してきた。
突然のことで、俺は少し動揺した。
言った本人も驚いた様子で、小さく「ごめん…」と言った。
気まずさが部屋を包んだ。
「…助けてくれたこと…、本当に感謝してる。…その…。」
そう言うと、アイツは口をモゴモゴとさせ始めた。
「……その、あ、あ…。」
恥ずかしそうにしながらも、なんとかその言葉を出そうとするアイツの顔に、俺は思わず笑ってしまった。
「お前、誰にも感謝せずに生きてきたのかよ。」
「…うぅ…」
からかうように俺は笑ってやった。
そのおかげかは知らないが、少しだけアイツの顔が綻んだ気がした。
「…いいよ。
俺はあの先輩みたいな、実力もないくせに粋がってる野郎が嫌いなだけだからさ。
殴れてスッキリしたわ!」
包帯を巻いた拳をぎゅっと握ってみせ、今できるだけの笑顔をアイツに見せてやった。
「…そっか…。」
アイツは安心したような表情で、俺を見た。
その顔を見れた俺は、少し嬉しく思った。
安心したからか、アイツは俺に背を向け歩き出した。
扉を開け、こちらに振り返り、アイツは言った。
「……ありがとう。」
小さく言ったその言葉は、静かだった部屋のおかげで、良く聞き取ることができた。
アイツが保健室から出ていくのを見届けると、俺はベッドに勢いよく倒れ、布団を頭までかぶった。
「……、マジで、…なんだこの気持ち…?」
なぜかドキドキとしている心臓にそう問いかける。
去り際に見せたアイツの表情。
それを見た途端、俺は突然心臓が高鳴り始めた。
(気になる…。)
心のなかで、俺はそう思った。
(アイツのことがもっとよく知りたい…。)
その気持ちは初恋にも近い何かを感じた。
もしかしたら勘違いだったのかもしれないが、その時は本気でそう思った。
保健室に一人残された俺は、アイツの事を気にするようになったのだった。




