十話 なにもない
誠一と喧嘩をして、三ヶ月ほど過ぎたある日、僕は担任に呼び出されていた。
「どうする?
そろそろ進路を決めないとだけど、俺的には大学への進学でいいとは思うが…。」
「すみません、まだ悩んでいて。」
担任である白野は、いつも気だるげな様子を見せているが、こうしてよく親身になって一緒に悩んでくれる存在だ。
僕は白野からもらった大学のパンフレットを見ながら、素直に現状を伝えた。
白野は「そうだよなぁ」と言い、椅子に深く座り込んだ。
「…あ、そうだ。」
少し悩んでいた白野は、何かを思い出したように、机の引き出しをあさり始めた。
そして、少し待って出てきたものは、一枚の紙だった。
僕は不思議に思い、それを確認した。
「これな、俺の知り合いが立ち上げた会社なんだけどな。
今人材不足らしいんだ。」
そこまで言って、白野はその紙を僕に差し出してきた。
「もし他にやることないってんなら、コイツの所にでも行ってみろ。」
紙を受け取り、僕は内容を確認する。
「……事務仕事ですか。」
「あぁ、後は事務仕事が出来る奴が必要だって考えてるらしい。」
説明を受けながら、これもありだなと僕は思った。
ーーー
放課後、僕は少し昔のように一人で歩いていた。
太陽はすでに沈みかけており、辺りは暗くなり始めていた。
僕はベンチに座ったまま、ボケっと夕方の空を眺めていた。
「……ふぅ」
風が僕を撫でるように通り過ぎ、少し寒気を感じたりもするが、これがどうも癖になる。
徐々に気温も下がって来る時期に入り、冬を感じさせる。
僕はスマホを開き、空を撮ろうとカメラを構えた。
その時、一つの通知が目に入った。
「…ライちゃん。」
それはライからのものだった。
あの日、ライはひどい高熱に侵され、少し大げさかもしれないが生死の境を彷徨ったらしい。
数日病院で診てもらったおかげで、彼女は今も元気にやっている。
僕はライからのメールを開くと、内容を確認した。
「……」
そのほとんどが、誠一と話し合ってほしいというものだった。
僕はそのメールをそっと閉じると、スマホをカバンに入れた。
「ふぅ〜。」
手に息をかけ、冷え切った手を温める。
心の中にできた、不思議な気持ちを誤魔化すように、僕は太陽が落ちるのをじっと眺めるのだった。




