一話 嫌いなアイツ
初めてアイツと会ったのは、雨の激しい日だった。
その日、授業で必要な本を借りるために図書室へ来ていた俺は、図書員でこの日がたまたま当番だったアイツと出会った。
最初は特に話すことはなかった。というより、アイツが誰も寄せ付けいないような雰囲気を漂わせていたために、近づき難かった。
俺は出来るだけ意識しないように、本を探していた。
「…お、これじゃん。」
10分ほど捜索して、ようやく見つけたその本を手に持ち、受付で借りるための手続きをしに向かった。
「……。」
アイツは俺には気づいていないようで、ずっと小説を読んでいた。
「あの…。」
「……。」
「…これ、借りたいんだけど…。」
「……。」
どれだけ集中していれば、これだけでフル無視ができるのだろうかと思いつつ、俺はカウンターから身を乗り出し、アイツの目の前に手を出した。
「……ッ」
パシッと、俺の手を邪魔だと言わんばかりに弾いてきた。
「イテッ?!おい!」
「…あっ?…あぁ、いたんですか。」
アイツはようやく俺の存在に気づき、ため息をつきながら俺から本を取り上げ、貸し出しの用紙にそれを書き入れていた。
面倒くさそうなその態度に、俺はイラッときたが、ここは大人の対応をしようと我慢した。
貸し出しの用紙を書き終えたアイツは、それを俺に渡し、名前を書くように言ってきた。いや、書けと記入欄を無言で指さしてきた。
ここまで我慢していたが、プツンと俺の中で何かが切れる気がした。
「…なぁ、図書員ならもっと真面目にしろよ。」
俺はイラつきを隠さずに、語気を強めてそう言った。
しかし、アイツは興味なさげにそっぽを向いて、再び小説を読み始めた。
その行動は俺を完全にキレさせるには充分過ぎるもので、気付けばアイツの胸ぐらをつかみ上げていた。
「…何…?」
アイツは俺のことを睨み、掴んでいた腕を振り払った。
「お前その態度やめろよ。その態度見てるとイライラすんだよ!」
「……そんなの誰も気にしないだろ…。アンタだけだって、そんな事気にすんの…。」
アイツは呆れたようにそう言うと、座ろうとした。
俺はすかさずアイツの肩を掴んだ。
「真面目にやれって話だよ!何だよ態度!」
きっと、この時の俺はしょうもない正義を振りかざす、頭の悪い輩だったと思う。
アイツは俺のことをジッと見たあと、妙に素直に謝ってきたことを覚えている。
だけどその時は、頭に血がのぼっていてその言葉を聞き逃した。
俺は手が出そうになったことで、なんとか理性を取り戻し、俺は貸し出しの用紙に名前を記入して、本を手に取り図書室を逃げるように出た。
「…クソッ、こういうのが駄目だってんだろ…!」
自分の行動に腹を立てながら、廊下を歩いた。
ようやく冷静になってきた時、窓の外から聞こえた雨音が、無性に自身の心の弱さを笑っているように聞こえて、妙に嫌な気分になってしまった。
「…早く止まねぇかな…、雨…。」
雨音を不快に感じながら、俺は教室へと戻ったのだった。




