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第五夜 ほらね。やっぱり裏がありました。

「お前は性悪なだけじゃなくて、呆れるほど強かな性格をしてたんだな」


 クロは呆れたように言った。


「まあ、今さら驚きはしないがな」


 咲夜は憎まれ口を叩くクロを横目で見て、ふん、と鼻を鳴らす。


「それは褒め言葉として、受け取っといてあげるわ」


 と、言い終わるかどうかうちに彼女の視線はすぐに姿鏡の方に向けられる。そしてウットリとしたような声を上げるのだった。


「アタシって、どうして何を着ても似合うのかしら」


 その後も、「鏡に映る姿は『完璧』以外の言葉が見当たらないわ」や、「これは此花家でもっとも高い着物なのよ。それがアタシの前ではくすんでしまうのよ」と、自画自賛は続く。


 クロは「ケッ!」と憎々しげに口を鳴らした。


「にしても、あれだけ小馬鹿にしてた男なのに、あっさりと結納しちまうなんてな。咲夜、一体何を企んでるんだ」


 小馬鹿にしてた男──とは、無論、男に絡まれてた時に助けてくれた人物のことだ。


 名前は浦島耀哉(うらしまかがや)と言う。


 年齢は三十歳とややくたびれてはいるものの、見てくれは及第点だし、まずまずの紳士だ。


「企むなんて、人聞きの悪いこと言わないでくれる? それにアナタの姿が見えるのよ? てことはいい人間なんでしょ?」


「まあ……少なくとも咲夜の理解者ってことになるわけだが──おかしくないか?」


「何が気に食わないのよ」


「会って数日なのにお前のことを理解してるって、どう考えても不自然──なんだよ!?」


「もしかして、アタシが結婚しちゃうのが悲しいの?」


「阿呆か。どんな思考回路してんだよ」


「無理しなくていいわ。アタシが結婚するのが耐えられないんでしょ? だったら今夜は涙で枕を濡らすといいわ」


「だから違って言ってんだろ!」


「あの耀哉って男。性格がいい上に、なかなかの金持ちらしいじゃない。だから結婚してあげることにしただけよ。そこに愛なんてないから安心していいわ」


「やっぱりそういうことか。お前が一目惚れなんてするわけないと思ってたよ」


「この一週間、耀哉は毎日宝石をプレゼントしてくれるのよ。妻になれば、悠々自適の毎日は約束されたようなものじゃない。こんな機会を逃す手はないわ」


 クロはガックリとうなだれる。


「あのなぁ。お前はこれから、立派な『月詠の聖女』にならきゃいけないんだぞ。それなのに……」


「ああ、確かそんなことを言ってたわね」


「ふざけんな! お前みたいな性格ブスに、月詠の精霊は力を貸さない! 現にあのパンの一件以来、また月詠の力が使えなくなってるじゃねえか!」


 クロは表情を険しくさせる。


「ここだけの話だが、神の体調は思わしくないそうだ。てことはだな、この世に混沌が訪れるのは時間の問題なんだ」


「フン! そんなのはアタシの知ったこっちゃないわ」


「なんだって!?」


「アタシは此花家を守らなきゃなんないの。もしもこの家が取り潰しになったら、亡くなったお母さまや、帰国した父上になんて申し開きすればいいわけ?」


「それこそ俺の知ったことか! 第一、家より世界の方が大切だろ!」


 咲夜は鋭い視線を向けている。

 今までにないほどの真剣な眼差しに、ホノは少しだけ怯むのだった。


「な、何だよ」


「天音や籠目、それから小伊之助はどうなるよ」


 再び姿鏡に向き直ると、着物の帯に触れる。


「あの三人は、何をとち狂ったのか、田舎に帰らずここに残ってるのよ。それはアタシのためなの。それなのに万が一此花の家がなくなったら、路頭に迷わせちゃうじゃない」


「へえ」


「何よ!?」


「別に。なんでもねえよ」


「アンタってさあ、奥歯にモノが挟まった言い方する時があるわよね」


「そうか?」


「そうよ! 言いたいことがあるならハッキリ言いなさいよ!」


「咲夜さま」


 籠目が部屋に入って来た。


「耀哉さまがおいでになられました」


「そう。今行くわ」


 籠目がお辞儀をして出て行くと、もう一度、姿鏡に自分を映す。


「まっ、耀哉のことがクソ野郎なら、その時は離縁してやればいいだけなのよ。でも、まず財産はアタシに譲るって約束を取り付けておかなきゃね」


 クロは壁に手をついて目頭を押さえる。


「めまいがしてきた……それに頭痛も……」


「あら? 神の使いでも風邪を引くのね。アタシにうつさないでよ!」


 クロは心の中でつぶやくのだった。


(使用人たちのことを心配をするんで、少しは人として成長したかと思ってたんだがな……)


 鼻歌を歌う咲夜を見て、深いため息をつくのだった。


(前言は撤回した方が良さそうだ……やっぱりコイツは、とびきりの性格ブスだ!)

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