1 目が覚めたら眼前にあったのは異世界と高姿勢女召喚士
初めまして。自分の作品に興味を持って頂きありがとうございます。
初投稿、初作品なので文章に見苦しい箇所があると思いますが何卒宜しくお願いします。
気付けば時針は零時を跨ごうしていた。日付が変わる瞬間、俺がしていた事はいつもと変わらずアニメの視聴である。
内容はよくあるファンタジー系の話。主人公が仲間を連れて、特殊な力を使い敵を倒すというものだ。
現在、俺は高校生。親が勉強しろと五月蝿いのであまり夢中になりすぎないよう努力はしているのだが、非現実的なストーリーに対する憧れは日々膨れ上がってくばかり。
「俺も……こんな風になれたらな」
主人公を自分へと置き換えてあれやこれやと妄想してしまう時もある。人気者になって周りから認められたい、他界へ行って冒険してみたいとか。
そんな満たされることのない承認欲求と祈望を、胸中でもやもやさせながらベットに身体を預けた——
アスファルトだけが広がる不思議な空間の中、俺は宙に浮いていた。考える間もなく、背後から誰かに腕を引っ張られる。それに対して何故か抵抗する意志が湧かず、導かれるまま進むと、やがて冷たい光が見えてきて全身を包み込んできた——
「ぼーっとする……ちょっと寝過ぎたかな」
意識がはっきりとしない中、曇った視界を晴らす為、目を軽く擦る、しかし。
「は——?」
眼前の奇景を見て思わず驚きの声を漏らしてしまう。俺は自分の部屋で寝ていた筈なのに、目を覚ました所は全く別の、見たことのない場所だったから。
うららかな青空。風に揺れる地表一面の緑達。小鳥の鳴き声。不思議な香気。少し離れた場所には道を塞ぐ危岩がある。
俺は柔らかい草の上に座って熟考してみた。夜遅くまでアニメを見ていて、眠くなったから横になって、それから……
「——ぎは、お前か。ふむ、冴えない顔というか、パッとせんなぁ——まぁいいだろう」
現状を把握しようと頭の中を整理していたら、突如背後からハリのある声が聞こえてきた。
俺は警戒しながらその方へ顔を向ける。
そこに立っていたのは片手を腰に当て、こちらをシャープな目で見下ろす威圧的な風貌の女性だった。
「えーと……誰?」
「んん? ああ、自己紹介か。私の名前はプリューフェンだ。ようこそ新たな世界へ。そしてお前を歓迎しよう」
雪色の髪を微風に靡かせながらプリューフェンと名乗る女性は、ブレることのない語調でそう言った。
「新たな世界って……?」
「言葉の通りだ。お前を訳あってこの世界に呼び寄せた」
「君が、俺をここに連れてきたの?」
「そうだ。転——転移させたのは私だ」
不安、戸惑いといった感情はまだかなり残っているものの、彼女の言葉から俺は僅かだが状況を理解し、ガチガチだった緊張の糸もほんのちょっとだけ解けた、気がした。
それにしてもプリューフェンさんは思わず三度見しちゃうくらいの美貌を持つ人だ。逆八の字になった眉とか、切り殺いだような目つきとか、視線を向けられた時の圧力が半端ではないけど、全体のビジュアルはかなり整っている。特に空色の瞳が真っ白な髪によくマッチしていて鮮やかで眩しい。まあ白は全ての光が反射してる状態だからな。それは当然か。
そんな容姿に魅力を感じて見ている俺が気になったのか、彼女は訝しんだ様子で唇を動かした。
「どうした。何か気になることでもあったのか?」
「いや、なんでも。というかこの世界って何? プリューフェンさんは何者なの? 俺は何の為に呼ばれたの?」
「矢継ぎ早に質問するな。ここはお前が生まれた場所とはまた違う、別次元の領域。私は目的を果たす為に異世界の者を連れてくる召喚士。お前は、この世界の平和を守る為に呼ばれたのだ。……後、私の事はプリューかフェンとでも呼べ。皆、そう呼名している。『プリューフェンさん』なんて長ったらしいだろ」
異世界というのは何となく推察できていたけど……。
どうやら俺はこの召喚士によって意図的に此処へ引き込まれたわけだ。
「わかった。とりあえず、プリューって呼ばせてもらうけど、『世界の平和を守る』って具体的に俺は何をすればいいの?」
「掻い摘んで言うとだな、人類に恐怖を与えている魔王を始末してほしい。そういう事だ」
……要点摘み過ぎじゃない? しかしプリューは得意顔でやりきった感を出している。まあかなり説明不足だけどね。
「魔王討伐はわかったけど、俺、ごく普通の人間だよ? これといった特技もないし、頭も平均より少し下のレベル。もっと筋肉質で強そうな人の方が適任じゃない?」
「いや、それはいらん心配だ」
俺のステータスで悪魔の王と呼ばれている強大な敵を倒す事ができるのか。という疑問を抱いていたけどそれは杞憂だと言い、プリューは右掌を天にかざす。
その瞬間、キラキラとした青白い光が空裏を触る彼女の手に集まった。その不思議な光景を凝視していたら、目を開けていられない程の閃光がそこから放たれて俺は咄嗟に視線を逃す。光が微明になったと判断し、そのタイミングで俺はプリューへと再び眼球を向けた。
「え……?」
先程までの眩さは消えて、その代わりに彼女の手には切味の鋭そうな剣がある。何処から出したのか。?と思っているとプリューはその武器を俺に差し出した。
「ほれ。これが魔王討伐用の武器、名付けて『ゴッドソードセカンド』だ。お前にしか扱えん。大事に使えよ」
ゴッドソードセカンドの見た目は、どノーマルの片手剣である。剣身は50センチ程でグリップする場所は短い。特別なデザインなどされていない、本当に地味な剣。
てか、ネーミング力……。名付け親は彼女だろうか。
なんていうか雑。もう少し熟考して。そもそもセカンドってファースト飛ばしちゃってるし。プリューはちょっとヘッポコさんなのか。
「何か言いたげな顔付きだな」
「いえ、特には。シンプルで(個性がない)、スリムで(脆そう)、よく切れそうだね(褒める所が他にない)」
「一言一言、裏がある言い方な気もするがまあいいだろう。確かに私もゴッドソードセカンドの見た目が素朴なのは気になっていたしな。やはり、名前以外は不評というわけか……」
ショック、というよりかは少しいじけた面持ちでプリューは目を逸らした。しかしすぐにこちらを向くと、毅然とした様子で口を動かす。
「だが、ゴッドソードセカンドをデザインしたのは私ではない! だからバッシングするなら構想した奴に言え。私はセンス抜群の名前を付けただけだ」
えっへん! 間然するところなし! と胸を張っているけど、簡粗な呼称が一番問題ありなんです。まあ、自信満々な彼女を傷付けるのは気が引けるので同調しておきますが。
「神々しい感じで素敵な名前だけど、これで魔王を倒せるの?」
相手は悪魔の頂点に立つ怪物だ。ゴッドソードセカン——長いから略すがゴッドソードではなんとも心もとない。
そりゃあ剣先は尖っててカットする力は抜群そうだけど、そもそも剣は切れて当たり前だし……
何か特殊な力でもあれば話は別なんだけどね。
「言っただろ『魔王討伐用』だと。ゴッドソードセカンドを使えば魔王をワンカットで倒す事が可だ。……それ以外の敵にはただの鉄屑と化してしまうのが弱みだがな」
「ワンカットって……一振り、切るだけで?」
「そうだ。1ミリでも傷をつけることができれば、そこから神の力が働いて魔王は消滅する」
強い。間違いなく強い。けどデビルのキング弱くね? それに魔王以外の敵と対峙した時、大苦戦するだろこれ。
「さっきも言ったが他の誰でもないお前でないとこの恩恵は受けられん。お前にしかできないことだ」
「……まあわかったけど、俺一人で行くの? 相手が圧倒的な数で来たら勝ち目ないんじゃない?」
「心配いらん、私がアシストしてやる。それに倒すべき者は魔王のみだ。というよりそれ以外の敵はいないぞ。多勢に無勢にはならんから安心しろ」
……なんか段々スケールの小さい物語になったきた気がしないでもない。
魔王だけ? 手下は? 敵単品って……その規模で『王』を名乗らないでくれ。
「では、出発の前に一つ問おう。あそこに道を塞いでいる岩があるだろう。その大きさのせいで当然、向こう側が見えん。さて岩を超えるとどんな景色が広がっていると思う?」
この世界で目を覚まして、一望した際すぐ視界に入った危岩のことか。プリューの奇抜な質問にはどういう意図があるのかわかりかねるが、一応頭を働かせてみる。
「ちょっとわからないかな。しいて言えば道がある、くらいしか想像できないよ」
「……よし、わかった」
プリューの表情は微妙にがっかりした感じだった。俺は想像力のない自分を心の中で叱責する。彼女には申し訳ないけど、創作の才能とか本当にないんで。
「では、行こう! 魔王城に!」
プリューはギラギラ眩しい空へ人差し指をビシッと伸ばす。俺の気持ちを牽引するように堂々と。
……そうかぁ、太陽に魔王いるのかぁ。
エピソード1をご覧頂きありがとうございました。
続きが気になる方は、エピソード2も是非ご覧下さい。