7.援軍
7.援軍
「それは脅しのつもりか、超重力キャノンの砲撃をくらえぇぇぇーー。殺せないまでもお前をここに足止めするくらいはできるはずだ。お前のその血液による攻撃では俺達が乗るこの機体の装甲を破る事はできない。だからそのまま地べたに沈んでいろや。ドロン社製重機メカ、通称グラバイアの力、見せてやるよ!」
レスフィナの僅かな動きを見逃さなかったパイロットが乗る重機メカは手に持つ超重力キャノンを撃ちまくる。
超重力の衝撃を真上から直接受けた黒神子レスフィナは物凄い力で強制的に地面に押し付けられるとそのままなすすべなく全身の骨は砕け、血は飛び散り、まるで潰れたトマトのように五体の形をとどめない肉片と化す。
だがその瞬間まるでガスに火が引火したかのように大爆発が起こり、瞬時に地面を這う肉片や血液は液体から気体へと変わる。その気体は粉塵や煙と混ざり、まるで空を舞う霧のように辺りを覆いつくす。
ドッカアァァァァーーン!
「くそ、なんだっていうんだ。いきなり爆発しやがった。なにか可燃性の強い引火物にでも着火したのか?」
「おい何をやっているんだ。黒神子レスフィナの体をその場で抑えるくらいにすると言っていただろ。なんで原型が分からないくらいに潰してしまうんだ。これじゃターゲットがどこにいるのか、わからないだろ!」
「相手の熱を感知する温度センサーにはまだターゲットの反応は見られない。もしもまた復活して来るのなら、必ず熱源があるはずだ。再復活する前にそこをたたくぞ!」
ターゲットを見失った事で必死にレスフィナの肉片を探す三体の重機メカは懸命に辺りを探るが黒神子レスフィナの死体を中々見つける事ができない。
尚も周囲を捜索する重機メカだったが、一体の重機メカの股下からいつの間にか復活を遂げた黒神子レスフィナが姿を現す。
黒神子レスフィナは又の下から機体の胴体部分を見上げると、自らの手でメカの片足にそっと触れる。
「黒神子レスフィナがいつの間にか重機メカの股下に移動して隠れてやがった。そうか真下にいたから俺の体温とレスフィナの体温とが重なって、うまく判別する事ができなかったのか。くそ、ずる賢い!」
レスフィナの存在を認識した重機メカの一体が、股下にいる黒神子レスフィナを捕えようとその無骨な機械の手を伸ばすが、その手はターゲットに触れる位置まで来るとなぜかピタリと止まる。
ギシギシギシギシ、ガッタン!
「なぜだ、なぜいきなり動かなくなったんだ。まさかここに来て機械の故障か?」
「くそおぉぉ、この化け物があぁぁ、超重力キャノンをくらいぇぇぇ!」
レスフィナに向けて超重力キャノンを再び撃とうとする他の二体の重機メカだったが、アームとなる機械の手の指の関節が動かないのか、なぜかトリガーを引く事ができない。
「なんだこれは、機体の関節の駆動部分に何かが挟まっているのか?アームの指だけではなく、機体の体全体が動かなくなったぞ。そっちはどうだ!」
「俺の機体も駄目だ、全く動かない。まさかこれは黒神子レスフィナの仕業なのか?」
「そうか、さっきの爆発、奴はわざと自分の血液を気体化させて重機メカの機体の関節の隙間に入り込み、付着した状態で錆のように固まったのか」
「これは錆というよりは、溶かされた鉄を流し込まれて、そのまま固まったみたいな衝撃だぞ。くそおぉぉ何をしても機体が全く動かない。早くこの状況をどうにかしないと、大変な事になるぞ!」
予期せぬ機体の故障に恐怖する他の二人のパイロット達が見守る中、黒神子レスフィナは目の前に聳え立つ重機メカにそっと手を添えると涼し気に呪いの言葉を発する。
「愚か者に仕えし心無き機械人形よ、あるべき姿に戻れ!」
そうレスフィナが呟いた瞬間、重機メカを形成している機体のパーツはまるで時間が逆再生したかのようにバラバラとなり、プラモデルの部品が全て外れたかのようにその場に崩れ落ちる。
機体を支えている手足のパーツは細かい部品と共に直ぐに分解し、モニターカメラが内蔵されているはずの頭部が落ち、残りの胴体を守るぶ厚い装甲板がバナナの皮を向くように綺麗に外れた事で、中に乗るパイロットの姿があらわとなる。
ガシャン、ボロボロ、グッジャン、バラバラ!
「俺が乗る、機体の装甲がバラバラに……ばかな、バカなあぁぁぁ!」
今確実に起きている絶対絶命の危機を信じられないでいるパイロットだったが、体の生気を急激に吸い取られて行くかのように、たくましかった体がみるみるとしぼみ、あっという間に干物のようなミイラになる。
「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーぁぁ!」
「フフフフ、私に直接触れられた者は呪いを受け、命ある者はその体に宿す体力や気力といった生命エネルギーだけではなく、苦労して獲得し取得した経験や技術はその場で全て失う事になる。そして命なき物体に触れれば、人の手で作りし物体には呪いの負荷がかかり、その構造はバラバラに砕け散る。この力こそが、黒神子レスフィナが英雄殺しと呼ばれている所以だ!」
重装甲を誇る機体はバラバラに砕け散り、中に乗るパイロットがミイラのような日干しになった瞬間を見届ける。
その無残な敗北という結末を直接見届けた二人のパイロットは急ぎ機体から降りようと脱出装置のスイッチを押すが、何かで固定されているのか外に出るハッチはおろか脱出装置も作動しないようだ。
閉じ込められる形となった二人のパイロットの元に邪悪に笑う黒神子レスフィナが静かに近づく。
「さあ、そろそろ終わらせますか。死ね、下等生物ども!」
「「うわああぁぁぁぁぁ、来るなあぁぁぁ、来るなあぁぁぁ!」」
猛然と走るレスフィナは思い切り重機メカの一体に強烈なパンチを喰らわすと機体は積み木のように簡単にバラバラとなり、中にいるパイロットはその機体のパーツの重みに潰されて、あっけなく圧死をする。
さらに回し蹴りを受けた最後の機体はなぜか勝手に吹き飛び、何かの拍子に鋭い鉄の板にでも当たったのか、胴体がちぎれたパイロットの死体が二十メートル先に転がる。
ゴトン、バラバラ!
「なんだ、こんな物か。自信満々だった割には大した事なかったな。面白そうな機械人形が相手だからどれほどの物かと期待したが、暇つぶしにもならなかった」
風になびく漆黒の黒いローブを翻すと黒神子レスフィナは回りで戦いの一部始終を見守っていた生き残りの兵士達に視線を送る。
兵士達が相手をしていた黒い傀儡の人形達は人命を奪いながらもその躯から確実に仲間を増やすと、囲いを破った傀儡達は更なる仲間を求めて、民間人達がいる町区画の方へと走り去っていく。
ついに囲いを突破された生き残りの兵士達はその数を二十人くらいまで減らし、黒い傀儡達がいなくなってくれた事に内心安堵しながらも町の方に黒い傀儡達を向かわせてしまったその責任と無力さに皆が押し黙る。
そんな無力さをうち払うかのように現れた三体の重機メカだったが、この絶望的な状況を好転させるはずだった希望の光は簡単に打ち砕かれる。
重機メカの敗北を見届けた残りの兵士達は黒神子レスフィナの姿を見るなりその場から皆逃げ出そうとするが、黒神子レスフィナが発生させた血液による気体を浴びた為か、それとも蛇に睨まれた蛙のように心が恐怖で凍り付いたかはわからないが、動くことのできない兵士達は生きる事を諦めたのか、持っているアサルトレーザーライフルを力なく地面へと落とす。
「駄目だ、逃げきれない。もうこのCエリアはお終いだ。こんな事なら俺達もいち早くDエリアに逃げればよかった。こんなに強いと知っていたら戦わずに一目散に逃げた物を」
「ククク、なんだ戦意喪失か。まあ下等生物ならこんな物か。ではお前らも、この町にいる他の下等生物達をブチ殺す為に動く、ただの命なき傀儡になって貰うぞ」
「いやだ、いやだ、助けて、助けてくれ。誰か、誰かああぁぁぁぁ!」
「うるさい、生きる価値のない弱い敗北者は、いい加減に死ね!」
まるで汚らしい虫でも見るような仕草で辛辣な言葉を送る黒神子レスフィナだったが、そんな彼女に向けて高火力のファイヤーボールが直撃する。
ドッカアァァァァーーン!
いきなりの攻撃に体を焼かれるレスフィナは足元から噴出させた黒い血液による液体でその炎を鎮火させるが、不意を衝かれた事に怒った黒神子レスフィナは攻撃してきた方向に真っ赤に光る眼光を向ける。
「この攻撃は魔法攻撃か。この私に不意打ちを喰らわすとは、一体誰だ?」
その言葉に反応するかのように、建物の上に数人の影が姿を現す。
「やっと追いつきました。黒神子レスフィナ、もうあなたの好きにはさせません!」
「南の区域都市を無慈悲にも壊滅させたあなたの行いを、私達は決して許さない!」
「お前になすすべなく殺された同胞たちの恨み、今ここで、はらさせて貰うぞ!」
闘志をたぎらせながら現れたのはこの異世界に住む、種族が違う五人の勇気あるパーティーである。
その姿や魔力の高さから英雄クラスの者達だと知った黒神子レスフィナは徐に相手の強さを分析する。
(あのパーティーを仕切るリーダー各だと思われる、この星に住む緑の人族の男、恐らくは勇者と呼ばれている類いの者か。通常緑の星の人族は地球人と力はさほど大差はないはずなのだが、珍しいな。そして先ほど、高火力のファイヤーボールをぶつけてきた魔法使いがあの耳長族の女か。さらにその周りを飛び回っている小さな羽虫は黒揚羽蝶族の妖精で。その後ろに控えているのは恐らくは犬人族の闘士の男に、よく洞窟の中を根城にしている重戦士のモグラ族の男か。そうか、その種族の違う五人の男女が最後の切り札という訳か。面白い)
心の中でそう分析すると黒神子レスフィナは思いの丈をつい言葉にする。
「フフフフ、新たな犠牲者達よ、よく来てくれたな。これはまた新たな舞台を飾る、味のある傀儡が作れそうだ!」
「ふざけるな、封印されるのはお前だ、黒神子レスフィナ。いくぞ!」
「ハハハハハ、愚かな挑戦者達よ、心してかかってこい。そして今ここに戦いの舞台は整った。今から凄惨極まる血の競演を見せてくれるわ!」
大げさに両手を広げた黒神子レスフィナは血塗られた言葉を送ると、新たに立ちはだかる勇気ある五人の英雄達の挑戦を素直に受けいれるのだった。