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6.大惨事

 6.大惨事



 ドアを開け大型モニターがある隣りの研究室に入った俺はそこで画面に映し出されているCエリアの表門を見る。そこに見えていたのは九十人からなるCエリアを守る兵士達と、目の前にいる黒神子レスフィナの姿だった。

 大勢いる兵士達に周りを取り囲まれても尚堂々と不敵な笑みを溢す邪悪なレスフィナの姿を初めて見た赤目零時と黒沢竜也の二人は緊張で固まり、もう既にレスフィナの恐怖を知っている一ノ瀬忠雄と二ノ宮次郎はこれから起きるであろう惨劇と血の饗宴を静かに見守る。


「音声機能をもっと上げろ、これじゃ会話が聞こえないぞ」


「わかりました」


 一ノ瀬忠雄の言葉に二ノ宮次郎は即座に対応すると、現場の声がどうにか聴こえるようになる。


 望遠機能で結構遠くから見ているはずなのに声まで拾う事ができるとは、今の最新の技術に本気で感心する。


 モニター画面を食い入るように見る四人の後ろにそっと立った俺はリアルタイムに映る兵士達に向けて(今すぐにその場から逃げろ!)と必死に祈るが当然その思いは届かず、兵士達の散り際を今から見る事になる。


 ここからは現場の状況を解説する。


 最前線の現場では緊急避難用の放送がけたたましく鳴り、サイレンが鳴り響く中、周りを囲む兵士達が皆一斉に手に持つアサルトレーザーライフルを構える。

 

 物凄い熱気と怒号が飛び交う狂気と化した現場で黒神子レスフィナは両手を広げるとゆっくりとした歩みで兵士達に近づく。

 レスフィナが近づく度に警戒する周りの兵士達は思わず後ろに後退するが、兵士達を纏めるリーダーらしき人物が目の前に立つと、レスフィナに向けて警告の言葉を発する。


「そこで止まれ、お前が南にある区域都市を壊滅させた黒神子レスフィナだな。一体何をしにこの北の都市区画に来た。答えろ!」


 緊張しながら話すリーダーらしきその人物に向けてレスフィナは邪悪にニヤリと笑うと言葉ではなく態度でその目的を示す。


「死ね、下等生物」


 小さく呟いたレスフィナの足元から現れた黒い影がいきなり膨れ上がるとまるで爆発したかのようにはじけ飛び、目の前にいるリーダーらしき人物の胸を素早く貫く。

 よく見ると影のように見えたその黒い物体は影ではなく、赤黒い液体のようだ。そうレスフィナは自分の影から生み出し発生させた大量の血液を操り、鋼鉄の強度を持つ液体金属と化した血液でリーダーらしき人物の体を串刺しにしたのだ。

 その素早い攻撃に最初は何が起きたのかが分からず立ち尽くしているリーダー各の兵士だったが、視界で状況を認識したのと同時に体の痛みが伝わると、情けなくも絶命の声を上げる。


「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーぁぁ!」


 その悲鳴を合図に周りにいた兵士達は皆一斉にレスフィナに向けてアサルトレーザーライフルによる怒涛の攻撃を開始する。


「くらえぇぇぇーー黒神子レスフィナあぁぁぁ、いくらお前でもこの至近距離からの一斉掃射には耐えられまい。今すぐにその体をハチの巣にしてくれるわ!」


「くらえぇぇ、くらえぇぇ、隊長の仇だ。死ねぇぇ!」


「くたばれ、早く倒れてくれぇぇぇ!」


 バッシュウウ、バッシュウウ、バッシュウウ、バッシュウウ、バッシュウウ!


 兵士達の殺意と怒号の中一斉攻撃を喰らい続ける黒神子レスフィナだったが、顔や胴体を穴だらけにされ、手足が吹き飛ばされても尚その場に立ち尽くす。本来なら無残な躯と化すはずのレスフィナだが、口元が意味ありげにニヤリと笑うとその週間まるで時間が逆再生したかのようにボロボロだった体は瞬時に元通りになる。


「馬鹿な、弾丸で穴だらけにされたはずのレスフィナの体が何事もなかったかのように直ぐに元通りに再生されていく。有り得ない、こんな事は絶対に有り得ない!」


「俺達の攻撃よりも、黒神子レスフィナの再生能力の方が圧倒的に速いんだ。これじゃきりがないぞ!」


「いいから撃て、弾が無くなるまで、撃って撃って撃ちまくるんだ!」


 仲間の兵士達の叫びに応えるかのように必死に撃ちまくる兵士達だったが、その場で撃たれまくる黒神子レスフィナは不死の力を見せつける事にもう飽きたのか、一斉攻撃を開始する。


「いい加減こいつら、ウザイな。腹も減ったし取り敢えずは、周りで騒いでいるうるさいハエどもを一掃するか」


 辛辣に呟いた黒神子レスフィナは怪しく舌なめずりをすると、影から伸びる黒い液体がまるでタコの足のように次から次へと伸びていく。その黒い触手はレスフィナの体を囲むように幾つももた首を上げると、まるで素早く動く変幻自在の槍のように回りにいる兵士達の体を次々と串刺しにしていく。


 グサッグサッ、ズブリ、ザク、ズゴン、グシャリ!


「うわああぁぁぁぁぁ、兵士達が、前にいる仲間の兵士達が次から次へとレスフィナの足元から伸びる謎の黒い触手による攻撃で体を貫かれていく。さがれ、後退しろ、もっと後ろに下がるんだあぁぁぁぁ!」


 伸縮自在に伸びる黒い液体に体を貫かれた兵士達はその場で絶命する者もいれば死にけれず苦しみもがく者もいる。そんな死にけれない兵士達の体を黒い液体で満たされている足元へと引きずり込むレスフィナは死体と化した兵士を次々と放り込むと、液体の中でバリバリとその体を砕いていく。


 バリ、バリ、ポリポリ、グシャグシャ、バキズキ、ボコン!


「食べている……まさか足元に作り出した黒い液体が満たされている異空間の中で死体を細切れにして、ミキサージュースのように液状にしているのか。自分が操る新たな血液を作り出す為に」


 その残酷な殺害方法に誰もが絶句し恐怖におののいていたが、そんな兵士達の耳に液体の中に引きずり込まれていく哀れな兵士達の叫びと懇願がこだまする。


「助けて、誰か助けてくれぇぇ!」


「うっわあぁぁぁぁぁ、食われる。あの黒い液体の中に沈められたら俺もミンチ肉にされてしまう。誰か、誰でもいいから早く助けてくれぇぇぇ!」


「ぎゃああぁぁぁぁぁぁーーぁぁ、いやだ、いやだあぁぁぁぁ!」


 死んでいるならまだ幸せである。生きながら引き肉にされる兵士はこれから想像を絶する死が待ち受けている。その事を察した理解ある一人の兵士はもう助かる見込みのない兵士達の頭に向けて標準を合わせる。


「撃て、今すぐにあいつらを撃てぇ! 今現在捕らわれている兵士達共々レスフィナの五体をバラバラにするんだ!」


「すまん同胞達よ、敵は必ず撃つからな。苦しまないように頭を狙ってやる!」


 激しく一斉掃射をする兵士達だったが、恐怖に駆られる兵士達に向けて黒神子レスフィナは更なる力を見せつける。


「フフフフ、私が一人でこの雑魚たちの相手をするのもなんだか面倒だ。いでよ、命の灯を失いし黒き呪いを受けた哀れなる傀儡達よ。赤黒き絶望溢れる血生臭い沼から這いい出て、我が名に答えよ。我が名はレスフィナ、お前たちの主にして、絶対なる超越者だ。我が意思に従うのだ!」


『モオォォォォ、ウッオォォォォォ、グッオォォォォォ!』


 レスフィナが力ある言葉を発した瞬間、まるで血で作られた血だまりから黒一色に塗り固められた人型の人形が幾つも這い出て来る。

 まるで血の池地獄から這い出て来た亡者を思わせるその出で立ちは黒い形をしたただの人型であり、その人形のような言動から知性は全くないようだ。

 だがその謎の傀儡達の強さや危険性は現段階では未知数なので、これから予期せぬ伏兵を相手にする事になる兵士達は更なる事態に混乱と焦りをみせる。


「うわああぁぁぁぁぁ、黒神子レスフィナだけでも厄介なのに、いきなり伏兵が現れたぞ。撃て、とにかく撃つんだ!」


 予想だにしない事態に慌てふためきながらも必死に応戦する兵士達だったが数で迫り来る謎の黒い傀儡達の動きを止める事はできず、接近をゆるしてしまう。

 間近まで近づいた黒い人型の傀儡は大きく口をあけると、兵士の体にめがけてその牙を食い込ませる。


 ガブリ!


「ぎゃああぁ、こいつら嚙みついて来やがった。まさかこの化け物達は人を喰らうのか?」


 嚙みついて来た事で最初は喰われると思った兵士達だったがその本当の真意を知った時、皆が驚愕し、映画さながらの絶望と恐怖が回りを支配する。


 嚙みつかれた兵士は最初はどうにか抵抗していたが、具合が悪くなったのかいきなり苦しみだすとまるで猛毒に体を侵されたかのようにその場で血を吐き絶命する。

 その後死亡した死体は数分の内にみるみる黒く変色し、一度黒い液体と化した血液の血だまりの中から黒一色の傀儡がまた新たに生み出される。

 そうこの黒一色の傀儡は命ある人に嚙み付く事でその命を奪い、感染した死体からまた新たな仲間を増やし作り出す事ができるのだ。


「くそぉぉ、まるでゾンビだな。黒神子レスフィナが南の都市区画を壊滅させたという話は知っているが、一体どうやって一人で壊滅させたのか、不思議に思っていたんだ。いくらレスフィナが強くてもたったの一人で一都市を壊滅させたとは流石に考えづらかったからだ。だが今の現状を見て納得がいったよ。そうか黒神子レスフィナは傀儡達を生み出し、その呪いの感染力で新たな傀儡を増やし、圧倒的な侵蝕力で都市を飲み込んでいったのか。そのやり方と事実を知った以上、これは何としても奴を止めないとな!」


 嚙みつき攻撃をする傀儡の毒牙にかかった兵士達は次々と更なる黒き傀儡へと変貌し、より多くの犠牲者を求めて命ある兵士達に襲い掛かる。その広がりは凄まじく幾人かの黒い傀儡は兵士達の囲いを突破し、勢い良く走り抜け、市街地の方へとその姿を消していく。


「しまった、何人か逃してしまった!」


「町の市民の方に行った傀儡の事を懸念している余裕はないぞ。今は目の前にいる黒神子レスフィナと確実に数を増やしている黒い傀儡に注意を向けろ!」


 ブゥゥぅゥゥ――ン、キキキキキキイィィィ――ン!


「おお、ついに来たか。遅いぞ!」


 鬼気迫る表情で叫ぶ兵士達の元に一台の大型トレーラーが到着する。そのトレーラーの荷台の扉が静かに開くと、その中から三台の二足歩行型のメカが動き出す。


 ぶ厚いドラム缶のようなボディに手足が付いたそのメカは結構軽量型に見えたが、人が搭乗できるボディの中で操縦するらしく、その装甲は分厚く作られている。

 本来の使用目的は人が入れないところで仕事をする為に作られた作業用だが、武装を装着する事で鎮圧用の重量兵器にカスタマイズされた機体のようだ。


 昔ながらのミリタリー兵器のような無骨さとノスタルジーを感じさせるドラム缶のようなその機体は二足型歩行を夢見るロボ好きの兵士にはかなりの人気のようだ。


 重量感ある足取りでダイナミックに地面に着地をする三体の重機メカは視界に映し出されるモニターからターゲットを確認すると、片手に持つ超重力キャノンの砲身を目の前に立つレスフィナに向ける。


 その中の機体の一体が、レスフィナに向けて話しかける。


「そこまでだ、黒神子レスフィナ。いくらお前の力でもこの重機メカの装甲板を破る事は出来まい。これで終わりだ!」


 取り囲むような形でいつでも超重力キャノンを撃てる体勢を取る三体の重機メカに乗るパイロット達は勝利を確信しているのか強く挑発し、相手のマウントを取る。


「お前の攻撃方法を見て分析し、防御に徹しながらお前を何処かに封印する事ができれば勝てるという結論に至ったのだ。お前は何をしても死なないらしいが、俺達にもその攻撃が届かない以上いくら戦っても恐らくは勝負はつかないだろう。だが何を隠そう俺達もまた、ただの時間稼ぎ要員に過ぎない。お前を封じる事のできる本命の人物は他にもいるという事だ。その者たちが到着したら、もうお前は終わりだという事だけは告げておく」


「本命ですか?なるほど、この後もここに誰かが来るということでしょうか。フフフフ、なんだか面白そうですね。そんなサプライズゲストをわざわざ用意してくれているだなんて、今からワクワクしますわ」


 警告されたように、攻撃力においても力に置いてもそのぶ厚い装甲を破る手段がない事を素直に認めた黒神子レスフィナは静かに押し黙ると、まるで早計な判断を訂正するかのように邪悪に、いたずらっぽく笑う。


「フフフフ、確かに私の血液による力ではそのぶ厚い鋼鉄の装甲を破壊する事は到底できませんが、方法はいくらでもあります」


「この重機メカの装甲を破る方法だとう。はったりだ、はったりに決まっている!」


 多いに焦る重機メカに乗る兵士達にレスフィナは更なる言葉を送る。


「そして命と引き換えに身をもって知るがいい、この私が一体なぜ英雄殺しと呼ばれているのか、その理由をな!」


 黒神子レスフィナは不敵に長い黒髪を掻き上げると、まるで攻撃して来いとばかりにその両手を大きく広げる。

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