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5.研究所

 5.研究所



「さあ、ヘルミナさん、この調整ポットの中に入って。今から拡張パックのデータをダウンロードして、ヘルミナさんの人工体その物を強化するから」


 白鳥英子の案内で研究所の内部にある研究室に着いた俺達一行は白鳥に言われるがままに、調整ポットの内部に謎の液体が満たされていく瞬間を不安げに見守る。

 歯がゆさを募らせる俺の様子を見ていた白鳥は力強く俺の背中にへら手打ちを喰らわすと心配ないとばかりにある方向を指さす。


「ヘルミナとか言うガイド人形のことが余程心配のようね。でもあまり人間扱いしていると愛着が湧いて人間と機械人形の境界線が分からなくなるわよ」


「機械人形だなんて、そんな言い方するなよ。ヘルミナは俺達人間の為に頑張ってくれている訳だし、そんな彼女に敬意をはらわない訳にはいかないだろ」


「あまり思い入れるなと言っているの。確かに見た目は人間と見分けがつかない可愛らしい姿をしているけど、中身は明らかに人とは違う性質を持っているわ。それに彼女の行動は心からの善意ではなく、あくまでも会社の上層部から命令されたプログラムを忠実に実行しているだけに過ぎないから、別に優しさや尊い使命で動いている訳ではない事を忘れないで頂戴」


「つまりヘルミナは機械のように命令を実行しているだけで、自分で考えて動いている訳ではないという事か」


「ええ、彼女はあくまでも独立した人工AIで物事を考えて動いている人工生命体なのだから、人間のように心がある訳じゃないわ。でもまあいろんな事を経験する事によって英知を学習するらしいから、いつかはその体に心が宿って、人の心の核心に辿り着く日が来るのかもね」


「それでも、それでも、ヘルミナに守られている事は事実だから、俺は彼女を仲間として受け入れるよ。それが俺なりの人としての恩人に対する答えだ」


「フフフフ、都合のいい電化製品ではなく、一人の仲間として接するという事か。その接し方や考えを聞いて、あなたの性格が少し分かったような気がするわ。いいでしょう、ならそんなあなたには特別な兵器を用意するわ。ヘルミナさんのアップデートが終わるまで約三十分はかかるから、その間にあなた達には実験段階の様々な兵器を紹介するから、ついて来て」


 白鳥の言葉に俺を含めた皆が付いていくと、様々なテスト実験中の品々が置かれてある大きな部屋の前に辿り着く。まるで水族館のような一枚の大きな強化ガラスがはめ込まれてある部屋の中に入った俺達一行は、その最新の設備を見るなり素直に驚きと驚愕の声を上げる。


「すげぇぇーー、実験段階中の謎の兵器が幾つもあるぞ。一体これは何に使うんだ?」


 興味津々に近づくと俺は日本刀のような形をしたメタリカルなソードに手を伸ばす。ずっしりと重い重量感と手になじむ質感に興味を抱いていると、白鳥がその和風ソードの説明をする。


「その刀のような和風ソードはレーザーブレードよ。そのブレードの刀身はこの異世界で採れた特殊な鉱物で出来ていて、材質の硬度と高熱に崩れる事のない金属で出来ているわ。だから刀身に約三千度の熱量を作り出す事が可能よ。しかもその熱を外側に放出する事は無いから余熱で火傷をする事もない設計になっているわ」


「そうか、まるで刀身のある光のレーザーブレードだな。だがこのブレードを納める鞘がないと怖くて持ち歩く事ができないから、あまり実用的ではないな」


「津田くんの言うように、このレーザーブレードはある付属の強化スーツを着用しないと怖くて持てない仕組みになっているわ」


「強化スーツだと?」


「これよ」


 俺は白鳥の言うがままに更なる武器や装備品を説明される。その装備品とは、説明にあったように見た感じは強化スーツのようだ。だがその強化スーツの斬新なデザインに俺は胸の奥に眠っていた少年心を呼び起される。なぜならその白銀に光る強化スーツはまるで昔どこかで見た特撮ヒーロー番組に出て来るような宇宙刑事シリーズを彷彿とさせるカッコイイデザインに作り上げられていたからだ。

 バトルスーツのような無骨さと洗練されたメタリカルボディにすっかり魅了された俺は、まるで大道具のような装備をまじまじと見る。


「なんだかカッコイイな」


「フフフフ、どうやら気に入ってくれたようね。お察しのようにこの強化スーツはガイアエレクトロン社製のパワードスーツよ。このスーツを着るだけで常人の十倍の力と速さを持続する事ができるわ。しかも実験で使われている魔力エネルギーを利用した魔法防御壁が展開できるオートガードシステムを採用しているから、レスフィナの攻撃にもある程度は耐える事ができるはずよ」


「ある程度とはどういう事だ?」


「完璧を誇るオートガードシステムだけど、まだ実験段階で、バッテリーに内蔵されているエネルギーがそんなに持たないのよ。体力ゲージを現すHPの数値で残量を示しているけど、敵の攻撃による強い衝撃を受ける度に強化スーツの周りに展開しているエネルギーバリアーの残量が無くなっていくから、更なる改良が必要なんだけどね。今はHP残量100とMP残量100しかエネルギーを詰め込めないけど、その残量で頑張って貰うしかないわね」


「HPがダメージを受けた際にオートガードシステムが耐えられるエネルギー残量で、MPの方は強化スーツのパワーやスピードといった行動を動かす活動限界の残量か」


「そういう事、もしも気に入ったのならこの装備一式を外に止めてある電動カーの後部座席にセットして置くわね」


「ああ、よろしく頼む。後、あの強化スーツを動かす予備のバッテリーも何個か積んでおいてくれ。それと近距離武器のあのレーザーブレードと遠距離武器の強力な銃火器もだ」


「わかった、今すぐ手配するわ。でも代わりに、もしもあなたが黒神子レスフィナと戦う事になったらその強化スーツを着て必ず戦って頂戴。何としてもレスフィナと戦った時の戦闘データを取りたいから」


「なるほど、データを取るか、そういう事ね。要するに俺は最新の兵器のデータを取るためのテスト要員という事か。つまりはモルモットか」


「ただで今実験段階の最新の兵器に触れる事ができるんだから、文句を言わないの」


 俺の要望に応えるべく白鳥英子は機械操作で強化スーツや装備品を地下の倉庫に停めてある電動カーに詰め込んでいく。


 作業をする為、俺から離れた白鳥英子と擦れ違う形で今度は第二歩兵小隊所属の一ノ瀬忠雄が両手に大きな銃器を抱えながら姿を現す。

 どこで見つけてきたのか、一ノ瀬は重そうな銃器を見せつけると満遍の笑みで説明をする。


「説明書に書いてあったが、どうやらこの大型の銃器は一種の重力砲、超重力キャノンのようだ。ターゲットに当たる範囲が広いこの重力兵器なら、殺せないまでも、レスフィナの体を遠くに吹き飛ばす事ができるはずだ」


 自信満々に言う一ノ瀬の説明に俺は一抹の不安を述べる。


「でも当たればの話ですよね。それにこの糞重そうな銃器、超重力砲と言うからには弾丸は必要としないみたいですが、砲身に超重力を作り出す関係上かなりのエネルギーが必要ですよね。なら一度に一体何発の超重力弾を撃てるんですか?」


「確か物凄い電力を必要とするらしいから、この超重力キャノンに内蔵されている充電バッテリーでは精々五発が限界と書いているな」


「五発ですか、まあ物凄く重そうな割には軽量化に成功していますし、五発も撃てるんなら、素直に凄いと驚くべきか。でも持ち運びは大変ですし、実践で使うのなら考えて使わないと、あのレスフィナに当てる事は出来ませんよ」


「分かっているさ、ただこいつを上手く活用すればレスフィナの歩みを少しは止められるかも知れない。なにせあいつの自己再生と己の血液を使った様々な攻撃のバリエーションは正直驚異的だからな」


 そんな事を話していた俺と一ノ瀬の元に二ノ宮が慌てた様子で駆け込む。


「一ノ瀬、監視カメラのモニターを見てくれ。この研究室に設置してあるパソコンからアクセスしてBエリアとCエリアを繋ぐ表門に設置してある監視カメラを見てみたんだが、これからCエリア所属の兵士達九十人と黒神子レスフィナとの戦いが始まるみたいだぞ」


「なんだってぇぇ、二ノ宮、今すぐにその映像を研究室にある大画面のモニターに繋げろ。リアルタイムで戦いの状況を確認するぞ!」


「分かりました」


 二ノ宮の情報に驚きの声を上げた一ノ瀬は戦いの行く末と結末を見るべくパソコンのある部屋へと移動する。


 この無謀な戦いの結末をなんとなく予想ができた俺はこれから始まる一方的な殺戮ショーに恐怖で体を振るわすが、レスフィナの攻撃方法や性格を知る絶好の機会でもあるので、今後の為にも渋々見る事を決断する。


「仕方がない、恐怖で絶望する無残な人の死を見るのは正直嫌だが、勉強させてもらうか」


 巨大モニターがある隣りの研究室から聞こえる皆の期待や不安の声を耳にしながら俺は、ドアノブの引き戸を軽く捻るのだった。

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