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1.緊急避難


 1.緊急避難(きんきゅうひなん)



「大丈夫、しっかりして。こんな所で意識を失っては駄目、直ぐにあいつが来てしまうわ。起きて、今すぐに起きるのよ!」


 鬼気迫る女性の声で意識を取り戻した俺は混濁する記憶を整理すると、今自分が置かれている状況をどうにか思い出す。

 体を振るわせ泣き崩れる女性や恐怖の為か錯乱する若者達も何人かはいたが直ぐに押し黙り、焦りながらも鉄の扉の前に大きな荷物を置く兵士の姿が事の深刻さを如実に実感させる。


 何かの到来に緊張する一人の兵士は手に持つアサルトレーザーライフルを直ぐさま構えると恐怖に駆られた眼差しを荷物を積み上げたバリケードの方へと向ける。


「みんな怪我はないか、少し休んだら直ぐにここを離れるぞ。どうにかしてこのBエリアからC・Dエリアを抜けて、地球に帰還するゲート、転送装置があるEエリアに向かうんだ!」


 銃身を振るわせながらも叫ぶ若き兵士は、恐怖と疲労困憊の表情を浮かべる人達に向けて檄を飛ばすが周りの反応は芳しくないようだ。


 一体なぜこのような事態に陥ったのかを俺は自分の記憶の中で整理する。


 時は西暦4001年、千年前に転送装置ゲートが開発され当たり前のように異世界に行き来が出来るようになった現代の日本、そんな大気汚染が進む大地に住む俺『津田博次』は町の高等学校に通う三年の男子学生だ。

 そんな俺がなぜこんな訳の分からない所で死にそうな目に遭っているのかというと、今回の修学旅行先がゲートの向こう側にある世界(透き通る水と緑の大地が溢れる新宅地)に足を踏み入れているからだ。


 異世界転移装置ゲートを開発した最初の訪問者達がこの地を踏んで以来、まだ見ぬ異世界の地に住む多種多様な様々な未知の生物や住人達と接触し、打ち解け交流し、誤解や苦難を乗り越え、長い年月をかけて人類は信用を勝ち取る事に成功する。


 転送装置の移動により見つけた異世界の地を重大な国家機密とした当時の日本の政府はこの千年間様々な技術や物資を提供した見返りとして異世界にある豊富な資源を流通させ経済を潤わせていたが、その甲斐あって日本は資源に置いてどこの諸外国にも頼る事のない強大な国へと成長する。


 千年前にそんな経緯があり今では当たり前のように異世界の地で暮らす日本人達も数多くいるとの事だ。

 だが不思議な事に地球人はゲートを通じて異世界に行き来する事が出来るが、なぜか異世界人は地球側に来ることは出来ず、もっぱら交流は異世界の中でのみ行われた。


 その後も、役千年という歳月が流れてもなお異世界人との交流は継続され、お互いの信頼が良好の中観光もまた頻繫に行われたが、そんな高校生活の思い出となるはずの異世界の現地を訪問した約二百名からなる学生たちに想像だにしない良からぬ事態が訪れようとは誰が想像しただろうか。


 俺は脳震盪(のうしんとう)から回復しつつある頭を抑えると目の前で心配そうな顔を向ける一人の女性に声を掛ける。


「ああ、大丈夫だ。転んだ際に少し頭を打っただけだ」


 彼女の名はヘルミナ、今回俺達のクラスでもある三年B組の生徒達をサポートする(ナビゲーションガイド)巨大企業ガイアエレクトロン社製8116番の製造番号を持つ女性型の人工生命体だ。

 まるで少女のような華奢な見た目とは裏腹に相手を気遣う冷静な態度はまるで大人の女性のような振る舞いだが、彼女は作られてまだ三年も経ってはいないとの事だ。


「無事でしたか、それは良かったです」


 俺の無事を確認したヘルミナは安堵にも似た優し気な笑顔を作ると、周りで震えている他の生徒達の元へと直ぐに駆け寄る。


「皆さん、大丈夫ですか」


「こうなったのは何もヘルミナさんのせいじゃないのに、彼女も大変だな」


 ヘルミナが駆け付けた先には俺と同じように逃げ延びた他のクラスの生徒達や数人の観光客達、そして十三人からなるアサルトレーザーライフルを装備した兵士たちがこの場にいるようだ。


「それにしても、酷い状況だな。しんがりを努めてくれた兵士たちのお陰でどうにかここまで逃げて来る事ができたが、あれは……あの化け物は一体何なんだ。まるで人間の女性の姿をしているように見えたが?」


 応戦してくれた兵士たちの援護の元、必死に逃げてきた俺は今後は周りの状況を確認する。


 薄暗い部屋の中は大きな倉庫らしく古びたコンクリートの壁やむき出しの天井を這う配管などが目に付く。部屋の隅には今は使われていないのか古い幾つもの機材が埃をかぶり、その重そうな機材を使い、鉄の扉を念入りに塞ぐ。


 恐怖と焦りを全身にただ寄らせながらもバリケードを作る兵士たちの緊迫感に不安を隠し切れない俺はすぐさま立ち上がる。


「ここに来る間に幾人もの人達があの黒い魔女に殺された。一体あれは何なんだ?この事態はもう警察や日本の軍隊にも通報されているはずだから、しばらく待てばきっと助けが来るはずだ。それまでどうにか逃げ延びて(地球に帰還ができる)次元転送装置のあるEエリアに何としてでも辿り着くんだ」


 疲れ果て意気消沈の生存者達を何気に見ていた俺は、突然外側から響く鉄の扉にぶつかる大きな衝撃音に体が凍りつく。

 当然俺だけではなくその場にいた幾人かの兵士たちも思わず固まる。


 ドッカアァァァァーーン、ガタガタン!


「ひっひいぃぃぃぃーー来る、奴が来る。速い、早過ぎる。足止めをしていた、第四歩兵小隊は一体どうなったんだ。まさか全滅してしまったのか?」


「馬鹿な、俺達を逃がしてからまだ十五分しか経っていないんだぞ。五十人はいた兵士達がこんなに早くやられて堪るか!」


「みんな各自アサルトレーザーライフルを装備しているんだ、そう簡単にやられはしないさ。おそらくは兵士達の猛攻を突破して、ここまで逃げ延びて来たというのが正しいはずだ。断じて我らの仲間たちが全滅させられた訳ではないはずだ!」


「なら助けが来るまでここで奴を迎え撃つか」


「俺達十三人だけでか。できるのか」


「できる、俺達ならできる。少しの間だけあの化け物を抑える事が出来れば、後ろと前とで、奴を挟み撃ちのできるはずだ」


「第四歩兵小隊が存続していたらの話だがな」


「生きている、あいつらは必ず生きている。全滅なんかしているはずがないだろ。縁起でもない事を言うな!」


 兵士達が各々の意見を述べる中、ついに鉄の扉の外に黒き邪悪な魔女が到着する。その魔女は鉄の扉に向けて何らかの攻撃を仕掛けていたようだったが中々壊せない事を知ると物理攻撃をその場で止める。

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