潜む影
6月の風が校庭を吹き抜け、学園の廊下にまでその爽やかな空気が流れ込む。しかし、学園の中にはどこか不穏な雰囲気が漂い始めていた。朝のホームルーム、教室の窓からはさわやかな光が差し込んでいるのに、どこか静けさを感じる。それは、最近流れ始めたヴェンデッタに関する噂が学園内に広まり、誰もがそれを耳にしているからだ。
「ヴェンデッタのこと、知ってるか?」
司馬レンは、ふと隣の席のアイリス・フォルトナから話しかけられた。彼女は冷静に教科書を開きながら、何気なくその言葉を口にした。
「ヴェンデッタ? 反政府組織だっけ?」
レンは顔をしかめ、気になる言葉を口にしたが、アイリスの表情にはあまり興味を示していないようだった。アイリスはただ、冷徹な表情で言った。
「どうやら、この学校でも最近その話題が頻繁に上がっているわ。私たちの周りでも、ヴェンデッタの影響を感じる場面が増えてきた。気をつけたほうがいいわよ。」
アイリスの言葉に、レンは少し驚いた。アイリスが警戒しているということは、何かが本当に進行しているのだろうと感じる。そして、それがどんな意味を持つのか、まだ明確には分からない。
その後、ホームルームが始まり、担任の先生が出席を取る。しかし、クラスの空気はどこか重苦しく、だれもが無言で座っている。授業中も、話し声が少なく、教科書に視線を落としているだけだった。
---
午後、昼休みの時間帯。レンは、ふと校庭の片隅でコトネ・アマミヤと出会う。彼女は手に弁当を持ちながら、他の生徒たちと一緒に笑っていたが、レンに気づくと少し照れたように笑った。
「レン先輩! 今日はどうだった?」
「まぁ、普通かな。ちょっと静かな感じだけど。」
レンは軽く答えると、コトネはお弁当の包みを開けながら、不安げに言った。
「ねえ、レン先輩。最近、ニュースでヴェンデッタって組織のことをよく聞くけど、それって本当に怖いの?」
コトネは無邪気に聞いてきたが、その瞳の奥にはどこか不安げな光が宿っていた。レンはその問いに少し考え込みながら、静かに答える。
「正直、僕もよく分からない。でも、なんだか今、何かが起きている気がする。学園内でも、ちょっとした緊張感を感じるんだ。」
「そうか…」 コトネは少し黙って考え込み、その後、ふっとレンに向かって微笑んだ。「でも、先輩がいるから、安心だね!」
レンはその笑顔に、ほんの少しだけ心が温かくなるのを感じた。コトネは確かに心配そうな顔をしているが、やはり前向きな性格だ。そして、レンがどこか頼りにされていることに、少し照れくさい気持ちを抱く。
---
その日の放課後、レンはいつものように図書館に向かう途中、ふと目を引くニュース速報を目にする。モニターに映し出される文字は、最近頻繁に見かける「ヴェンデッタ」の名だった。
【反政府組織「ヴェンデッタ」、活動を活発化】
【魔法社会の秩序を崩壊させる? 危険な動きが広がりつつある】
「…これか。」
レンは思わず呟いた。学園内で流れていた噂と、同じ内容がニュースに報じられている。彼の胸には、何とも言えない不安が広がった。
そのとき、背後から声がかかった。
「司馬。」
振り返ると、そこにはリリス・ナイツが立っていた。彼女は冷徹な目でレンを見つめていたが、その表情にはわずかな興味が滲んでいるようにも見えた。
「どうした?」
「ニュースを見たか?」
リリスは静かに、しかしその言葉には重みを感じさせる。
「ヴェンデッタの動きが本格化してきた。今、あの組織がどんな目的で動いているか、分からないが、すぐに学園が関わる可能性もある。」
「学園が?」
レンは驚きと共に尋ねたが、リリスはその問いに答えず、ただ鋭い視線でレンを見据えた。
「君は、これからどうするつもりだ?」
「どうって…」
レンは言葉に詰まった。自分には何ができるのか、どうすればいいのか、まだ分からない。ただ、確実に感じるのは、何かが動き出しているということだけだった。
リリスはその場で静かに立ち去り、レンは再びニュースを見つめる。彼の心には不安とともに、決意が芽生え始めていた。学園で過ごす日常は、もはや平穏無事では済まなくなりつつある。それが彼の力に何を求めるのか、まだ分からないが、少なくとも自分が今、何かをしなければならないという意識が強くなる。
---
その夜、レンは一人で寮の部屋に座り、魔法のグローブを手に取る。アリスが贈ってくれたそのグローブは、まだ慣れていない手には少し重く感じるが、着けることで魔力のコントロールが楽になると聞いている。レンは少しずつ、その力に向き合おうとしていた。
「これから、どうなるんだろうな。」
他の生徒たちが寝静まった部屋で、レンは小さく呟いた。
次の日、学園で何が起こるのかは分からないが、確実に彼の運命は動き始めている。そして、その先に待つ試練に、レンは立ち向かう覚悟を決めた。
動き始めましたね|´-`)チラッ