新たな風
6月の初め、学園の敷地内には、夏の気配がじわじわと忍び寄っていた。空は高く、雲ひとつない晴天が広がっており、微かな風が木々を揺らし、木漏れ日が地面に踊っていた。学園の校舎は一面に明るい光を浴び、どこか清々しい空気に包まれている。
その日、学園では衣替えが行われていた。冬服から夏服へと変わるこの日を迎えた生徒たちは、嬉しそうに新しい制服に身を包み、どこか軽やかな足取りで教室へと向かっていった。
レンもその一人だ。普段は淡いグレーの冬服を着ていたが、この日からは涼しげな白いシャツに、軽やかなズボンといった夏服を着ている。彼は少し緊張した様子で、その服を鏡で確認した。初めて見る自分の姿に、少し驚いたような顔をした。
「…どうかな、似合うか?」
レンは自分に問いかけるように呟き、ほんの少しだけ照れくさそうに笑った。正直、どんな服でも良いと思っていたが、なんとなく気になる自分がいた。
その時、教室へと向かう途中で声をかけられた。振り向くと、そこにはコトネが立っていた。
「レン先輩、あの…その夏服、どうですか? 似合ってますか?」
コトネは少し顔を赤らめながら、照れくさくその言葉を口にした。彼女も新しい夏服を着ている。鮮やかな青いリボンが胸元でひらひらと揺れ、ふわりとしたスカートが彼女の動きに合わせて揺れる。その姿は、まるで夏の風のように軽やかで可愛らしかった。
レンは思わず目を見張った。コトネの姿もまた、まるで新しい季節を迎えたような、清々しい印象を与える。
「似合ってるよ、コトネも」
レンは照れくさい笑顔を浮かべて答えると、コトネは少し嬉しそうに目を輝かせた。だが、すぐに真面目な顔をして言葉を続ける。
「それで、先輩、私、レン先輩にお願いがあるんです。」
「お願い?」
「ええと…その、先輩の夏服がどんな感じか、他の人にも見せたくて…。それで、もしよかったら、今日は少しだけ一緒に歩きませんか?」
レンは驚いたが、その真剣な表情を見て、ふと心が温かくなった。コトネの言葉はどこか、他の人と同じように夏服を楽しみたいという純粋な気持ちから来ているのだろう。レンは少し考えた後、頷いた。
「うん、いいよ。じゃあ、一緒に行こうか。」
二人は並んで歩き出すと、自然と笑顔がこぼれた。初夏の風が心地よく二人を包み、学園内の草花が一層色を深めているように感じられた。だが、レンの胸の奥には、少しだけ不安が芽生えていた。コトネとの関係が、どこか変わりつつあることを感じたからだ。
その不安の理由は、はっきりとわからない。ただ、何かが変わってきているという感覚が心の中に広がっていく。
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休み時間、レンは再び一人で校庭に出ていた。コトネとは教室で少しだけ話をした後、すぐに他の友達のところに行ってしまった。レンは一人で、ちょっとした空気の流れを感じていた。
その時、ふと目にしたのは、校舎の掲示板に貼られた一枚のニュース記事だった。何気なくその記事を見てみると、大きな見出しが目に入った。
『反政府組織「ヴェンデッタ」の活動が本格化』
その記事は、最近の反政府活動について詳しく報じているもので、政治的な動きが加速しているという内容だった。政府に対しての強い反発とともに、魔法の力を持つ者たちが結集しているということが書かれていた。
「ヴェンデッタ…?」
レンは小さく呟いた。その名前を聞いたことはあったが、まさかその活動がここまで広がっているとは思わなかった。
その時、後ろから声がかけられる。
「司馬、何か気になることでもあるの?」
振り返ると、アイリスがそこに立っていた。彼女は冷静な顔でレンを見つめていたが、その目には何かを隠しているような、微かな不安の色が浮かんでいた。
「いや、ちょっとしたニュースを見ただけだ。」
レンはあまり深く話すつもりはなかった。だが、アイリスはじっとレンを見つめた後、静かに言った。
「気をつけなさい、ヴェンデッタの動きは確かに早くなっているわ。それに、あなたも何かに巻き込まれる可能性がある。」
レンはその言葉に少し驚きながらも、アイリスの言うことに一理あると思った。これから何かが起きる予感が、胸の中で確かに感じられた。
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その日の午後、授業が終わると、レンは思いを巡らせながら学園の外に出て行った。これから先、何か大きな変化が訪れることを感じながら、だんだんと遠くに響く足音に耳を澄ませる。
そして、学園の敷地を歩きながら、レンは自分の内面で何かが動き始めるのを感じていた。それは、これから訪れるであろう波乱の予兆に過ぎなかった。
だが、それが何を意味するのかは、まだわからない。
2章始まりました!
しばらくは今まで通りの頻度での投稿ですがクオリティアップの為に投稿頻度を変更する場合があります。