表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/51

第001話 アルセーヌ初回からクリフハンガー


 異世界ってのは思ってたよりも世知辛い。

 辺境貴族の令息に生まれたまではよかったんだけどな。

 チートもらって、チーレム作ってウハウハなんてのは幻想だったわ。


 まぁなんつっても厳しいの。

 生命が軽すぎる。

 朝に笑ってわかれた友だちが、夜には死体も残ってねえなんてザラだ。

 

 貴族の息子だって特別扱いはほとんどない。

 いや、あるにはあったか。

 

 戦闘訓練って名前の地獄だけどな。

 本気で死ぬと思った回数は数知れず、だ。

 特にこっちのお袋様のせいで。

 

 都会育ちの前世持ち舐めんなって話だわ。

 オレがこうして生きてるのも、ただただ運が良かっただけだ。

 

 四男坊だったオレが気がつきゃ、次男になってんだから。

 ただ、生きるってことが命がけだってこと。

 信じるも信じないもあなた次第です――なんつってな!


 それもこれもオレが生まれたのが辺境だってのが大きいと思う。

 要は場所が悪かったって話だ。

 しらんけど。

 

 おっと、辺境ってのは田舎って意味じゃねえぞ。

 国境を接する場所ってことだ。

 

 ちなみにうちらの敵は人間じゃなくて魔物なんだわ。

 要は天敵と生存競争をしてるってこった。

 ここが王国の最前線なりってヤツ。

 笑えるだろ。

 

 ちなみにどんな場所かって言うと、地図さえない場所なんだわ。

 オーマ大森林っていう場所が王国の南部にあって、その森の外縁部をストラテスラ家(オレんち)が担当してる。

 

 まぁ範囲が広すぎて、ストラテスラ家(うち)を含めて八家で分担してんだけどね。

 だもんでオレたちは“南部辺境団”なんてひとまとめにされることもある。

 

 他の王国貴族がどんなヤツらか興味ないけど、オレたちはしっかり連携を取っている。

 いやマジで。

 

 そうしないと国の危機だからね。

 オレたちで魔物を押さえこんでるってわけ。

 

「兄貴、そっちいったぞ!」


 樹齢何年だよってくらいの巨木が立ち並ぶ。

 色で言えば、緑と茶色だらけの風景だ。

 

 昼でも薄暗いけど、オレの目にはばっちり地を駆ける魔物たちが見えていた。

 六本脚で赤毛の熊みたいな魔物だ。

 

 そいつが五頭。

 Vの字になって兄貴たちに突っこんでいく。


 オレ的に言えば三ナンバーのバンくらいの大きさ。

 あの業務用車両だね。

 

 巨木の太い枝の上から魔法を放って突進を阻害する。

 オレのオリジナル魔法だ。

 

 色々と試してみた結果、最も魔物との戦いに適していると思う。

 

氷風加速貫通弾(ピアシング・バレット)!】


 魔法ってのは面白い。

 イメージと術式次第で色んな使い方ができる。

 

 ガチガチに固めた氷の弾丸を作って風の魔法で発射する。

 

 ポイントは発射して終わりではないことね。

 ロケットみたいに加速していくんだ。

 

 ふつうの魔法は初期の射出速度がすべて。

 ここ改造するのに、めちゃめちゃ苦労したんだわ。

 

 だけどなー。

 残念だけど、この魔法一発で魔物は倒れちゃくれねえんだ。

 だから面制圧に使う。

 

 精度はそこそこでいい。

 ばらまいて、魔物に傷を負わせるのと同時に速度を緩めさせるのが目的だ。

 

 辺境貴族ってのはどうにも脳筋でいけないね。

 だってさ最後に頼りになるのは己の身体っていうのが伝統だもの。

 

 身体強化を使って魔物と正面から戦うんだぜ。

 いやいやいやって話よ。

 

 オレみたいなのは、スマートに遠距離攻撃でキル数を稼ぐ。

 最初はめっちゃ怒られたけどね。

 

「おう! よくやった! あとはまかせとけ!」


 森の中だ。

 足場も悪いのに、兄貴とうちの部隊が魔物に突っこんだ。

 

 出足を遅らせたとはいえ、業務用の車両と真正面で戦うんだぜ。

 正気の沙汰じゃないわな。

 

 うわお。

 兄貴が熊をぶったたいて、吹き飛ばした。

 部隊の連中も似たり寄ったりだ。

 

 まったく嫌になるね。

 スマートにいこうぜ、スマートに。

 

 ただまぁ今日のは素直な魔獣タイプでよかった。

 この森の中じゃあんまり強くない部類だからな。

 

 森の外縁部なんていってもそこは人の手が入っていない領域だ。

 なんというか空気が違う。

 

 濃い。

 いや密度が高いのか。

 

 そんな場所でもしっかりと魔物を倒してくれるうちのお兄ちゃん。

 

 元は三男坊だけど、現在は長男。

 順当にいけば、このまま兄貴が跡を継ぐ。

 

 兄貴はずっと勉強して、努力してきたんだ。

 長兄と次兄がいても安穏としてなかった。

 

 オレ?

 オレは四男なんだから。

 そこはもうお察しですよ、ええ。

 

 兄貴はね、オレとはちがう。

 跡取りにふさわしい器量を持っていると思うんだ。

 だから最大限、お兄ちゃんを応援することにしている。

 

 なんてことを考えているうちに、兄貴と直属の部隊が魔物を仕留めた。

 うん、相変わらず鮮やか。

 

 怪我ひとつしちゃいない。

 だけど兄貴は怪訝そうな表情になっている。

 

「アルセーヌ! お前の探知に魔物は引っかかってないか?」


 どこの大泥棒だよっていうのがオレの名前。

 なんでも何代か前にいたうちのご当主様の名前らしい。

 めちゃくちゃ強かったって話だ。

 

 それは誇らしいんだけど、前世の記憶があるオレは正直なところ、今でもちょっと恥ずかしかったりする。

 

「今んとこ異常な……し?」


「どうした?」


「兄貴、マズい! 大型がいやがる。反応からして、たぶん混成タイプ」


 混成タイプってのは強い魔物なんだよ。

 しかも大型。

 こりゃもうほぼ決まりなんだけど……。


「ちぃ!」


 兄貴が舌打ちをする。


「おかしいと思ったんだよ! こいつら中層付近の魔物だっ!」 


 そういやそうだ。

 さすが兄貴、しっかり勉強している。

 ってそんな場合じゃねえ!


 ちょっとだけ集中して魔力を広げる。

 大雑把になるけど、遠くまで状況が確認できるのよ。

 

 で、結果は予想しうる中でも最悪中の最悪。


大侵攻(スタンピード)だっ!」


 大侵攻(スタンピード)

 いわゆる魔物が大氾濫を起こす現象だ。

 

 原因は中層よりもさらに奥、深淵部からくる魔物にある。

 強いんだ、こいつら。

 要は強い魔物が外縁部にむかってくるから、弱い魔物が逃げてくるってことだ。

 

 オレたち南部辺境団が日夜魔物を狩るのは、大侵攻(スタンピード)が起きたとしても、魔物の数を減らしておけば被害が軽減できるって経験則からな。


 ん? いや、ちょっと待て。

 早くない?

 前回の大侵攻(スタンピード)で兄貴二人が死んだ。

 

 それって二年くらい前の話だぜ。

 大侵攻(スタンピード)はだいたい七年から八年に一回程度ってのが相場なんだけど。


 あークソっ。

 探知に次々と引っかかる魔物の群れ。

 

 このままだとウチの領地にきちまう。

 なんとかして侵攻方向を変えないと……。

 

 仕方ねえ。

 オレの灰色の頭脳じゃ、この答えが精一杯さ。

 

 巨木の枝から兄貴の近くに降り立つ。

 

「兄貴! 部隊の奴らつれて逃げろ。まずは親爺殿に報告を。その後で他家に援軍を頼んでくれ」


「はあ? なに言ってんだよ!」


 なに言ってんだ、はこっちの台詞だ。

 バカ兄貴。


 誰かがやんなくちゃいけないんだよ。

 それが大侵攻(スタンピード)ってもんだ。

 

 兄貴二人が死んだだろうが。

 領民の、ひいては王国のためってな。

 

 ちっ。

 当時は長兄も次兄もバカだなんだと思ったけどさ。

 やっぱりオレも見捨てられねえんだわ。

 

 ろくでもない地獄だったけどな。

 それでも嫌なことばっかりじゃなかった。

 

 だから――命張ったらぁ。


「いいから、早く行けって手遅れになっちまう!」


「お前、ハーレム作るんだろうが!」


 兄貴の言葉にちょっとだけ揺れる。

 そうだ、長兄と次兄が死んだ夜に馬鹿話をしたんだっけ。

 

 将来はどうしたいって聞かれて。

 

 キスしてみたかった。

 前世越しの童貞捨てたかった。

 パフパフとかいんぐりもんぐりとかしたかった。

 ハーレムでウハウハしたかった。

 

 でも、そんなものよりも大事なもんがあるって話だ。


「うっせえええ! 決意鈍らすようなこと言うんじゃねええ! このバカ兄貴!」


 あーくそ。

 声が震えちまったよ。

 ところどころで裏返っちまったじゃねえか。


 ぜんぶバカ兄貴のせいだ。

 

 膝がガクガクと震える。

 真っ直ぐ立ってるのもしんどい。


 だけどよ、退くに退けねえんだわ。

 魔物の暴走をとめなきゃ全滅だ。

 親爺殿やお袋様はいるけど、ここでやらなきゃ被害が拡大しちまう。

 

 そればっかりはダメだ。

 ジャンヌちゃんの顔がうかぶ。

 

 そばかすのある赤毛の女の子。

 愛嬌があって、笑顔がいいんだ。

 

 オレの前世仕込みの冗談にもケラケラ笑ってくれる。

 一緒にいると、癒やされるんだよね。

 

 その上に背が低めで、おっぱいがでかいんだぜ。

 完璧じゃないか。

 

 だから――ひと房だけでももんでみたかった。

 ちがう!

 

 オレが彼女の笑顔を守るんだ。


「兄貴! ここはオレが残る。それで決まりだ!」


 やせ我慢が男の証ってな。

 ちくしょう。

 オレの二回目の人生ってなんだったんだよ。

 

 でもまぁ……悪くはなかった。

 そう思えるのも、親爺殿とお袋様のお陰だ。

 

 まぁ色々と心配ごとはあるけど、兄貴ならなんとかやっていけるだろ。

 

 なんたってお名前がハンニバル。

 オレでも知ってる前世の名将と同じ名前なんだぜ。

 

 大侵攻(スタンピード)相手に包囲殲滅陣しないかだけが心配だけどな。



カクヨムで連載している小説です。

縛りがとけたので、なろうでも連載します。

面白い! と思えたらコメント・レビュー・拍手・評価をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ