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05 HAPPY BIRTHDAY!

「こちらはどうでしょう?」


「嫌。子供っぽい」


「これは?」


「色と柄がイマイチ」


「しかし、お嬢さま……」


「ねえねえ、守。中学になったんだし、こういうやつの方が大人っぽいと思わない?」


 さっきの寂しそうな姿はどこへやら。

 買い物の夢中になるお嬢様は相変わらずのわがまま放題。

 僕に意見を求めるものの、全く聞き入れる様子はない。


(だったら聞くなよ)


「何か言った?」


「いえ、何も」


 心の声まで見透かす始末。

 だが、楽しんでるには間違いない。

 生き生きとした表情に僕も安心していた。


「やっぱりこれ! 試着してみるわ」


 年相応なワンピース型の水着を勧める僕に反発するようにビキニを手に取る。

 お嬢様の言う通り、確かにビキニの方が大人っぽい。

 ところが選んだ水着が、というよりもお嬢様の体系に問題があったりする。


「ちょっと無理があるのでは?」


「何でよ」


「いえ、あの、失礼ですが、お嬢さまの……」


 僕は恐る恐る胸元を指差す。


「……どういう意味?」


「ですから、大きさが合ってな――」


 ――バンッ!


「痛っ! お、お嬢さま!?」


 言葉も途中にお嬢様は僕の足を思いっ切り踏みつけてきた。

 僕の失礼極まりない指摘に怒り心頭。

 がしかし、僕の言ってることは的を得ていたはず。

 

 小さ過ぎる胸に、ビキニの水着が不釣合い過ぎる。

 要はガボガボでずり落ちてしまうだろう。

 ムキになったお嬢様は、僕の指摘に耳も貸さずに水着を手に取ると試着室へと入ってしまった。

 僕は仕方なく、お嬢様の着替えを待っていた。


「お嬢さま、大丈夫ですか? いかがです?」


「……」


 いつまで経っても試着室のカーテンが開かない。

 心配して声をかけたが返事もない。

 覗く訳にもいかず、困ってるいるとようやくカーテンが開く。


「お嬢さま?」


 俯きながら体が小刻みにプルプル震えている。


「む、胸……胸がちょっと……ね」


 肩紐でぶら下がってるものの、手で抑えないと今にも外れてしまいそうなビキニ。

 お嬢様は自分の貧乳ぶりを目の当たりにする。


「こ、こんなはずじゃなかったのにっ!」


「お嬢さ……ククッ……だから……ハハッ……私が……」


 実に実感のこもった一言に僕は笑いを堪えられなくなった。

 僕が吹き出す笑いを我慢する様子がお嬢様には屈辱的な姿に映っていた。


「っもう! 守のバカバカバカー!」


 見るに耐えない僕の姿にお嬢様の怒りは露に。

 両手を上げ、今にも殴り出す姿勢に入った。


「お、お嬢さま!?」


「何よー! バカにして!」


「違います! お嬢さま」


 抑えてたビキニはものの見事にズリ下がり、余りにも貧相な胸が僕の目の前に晒されてしまう。

 途端に必死に両手で抑えたが、時すでに遅し。

 慌ててカーテンを閉めると、中でブツブツと独り言。


「すみません、お嬢さま。すみません」


 僕はカーテンの前で、ただただ謝るしかなかった。

 その後、ふくれっ面で出てきたお嬢様の機嫌を直すのしばらくの時間を費やすことになったのは言うまでもない。


 ストレスを発散するように手当たり次第に買い物をしまくる。

 お陰で僕は両手に抱え切れない荷物を持たされる羽目になった。

 そんな僕の情けない姿を見て、お嬢様は高笑い。

 僕を困らせる為に買い物をしてるようにすら思える。


「早くしなさい。守は鈍臭いんだから」


「は、はい、すいません」


 帰宅の途に着く頃、ようやく普通に口を聞いてくれるようになった。


「まあ、いいわ。それなりに楽しかったから」


「そう言っていただけると恐縮です。あの、お嬢さま……」


「何?」


「ちょっとだけ、お時間よろしいでしょうか?」


「トイレでも行きたいの? 早く行ってきなさいよ」


「すいません」


 僕はお嬢様を車の中に残し、さっき出向いたテナントへと向かう。

 包装もろくにせずに買い物を済まし、急いで車に戻った。


「遅いわよ! いつまで待たせんの?」


「すいません。あの、お嬢さま、これを……」


「え? 何?」


「私からの誕生日プレゼントです。時間がなかったものですから、包装はしなかったので申し訳ございません」


「あ……。これ、さっきの?」


「はい。やはり私にはこちらの方がお嬢さまにはお似合いに思えて……」


 僕はさっきお嬢様が気に入りかけた帽子を買ってきた。

 値段も高くないし、ブランド物でもない。

 僕にも買えるような手ごろなプレゼントだったお言える。


「どこか適当にその辺に出掛ける時にでも、お気に召したら使って下さい」


「あり……がと」


「いえ……」


 やけにしおらしい返事がお嬢様らしくない。

 心なしか涙ぐんでいるように見えなくもない。

 そんなに嬉しかったのだろうか。

 素直に子供らしい態度を見せるお嬢様が微笑ましく見えた。


「……守」


「はい」


 感謝の言葉が続くのだろう。

 僕は満面の表情でお嬢様に微笑みかけた。


「……こんなので水着の件、チャラにしようたって、そうはいかないわよっ!」


「……え?」


「騙されないわよ。こんなの全っっ然嬉しくないんだからっ!」


 感謝されるどころか、更にツンツン怒り出す。


「……すいません」


「ふん! もういいわよ」


 ところがどうだろう。

 バックミラーで確認すると、帰りの車内で何度も帽子を見つめるお嬢様の姿があった。

 僕はすぐに気づいた。

 あれはいつもの照れ隠し。

 本当は気に入ってくれているのだろう。


「お嬢さま。今年はいい誕生日を過ごせましたか?」


「まあまあじゃない? ちょっとは楽しい買い物だったわ」


 言葉のわりにお嬢様の口元はニヤニヤと歪んでいた。

 全く素直じゃない。

 でも、それも含めて僕にしか見せてくれない素のお嬢様の姿なのだろう。

 

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