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愛みのリリウム -神に愛された花たち-  作者: 虎依カケル
8章

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79話 残念


 数日後、お披露目のことを話し合う会が開かれた。教会の象徴が決まるのは、国としても一大事となるため、王族からも人が訪れるという。


 リリアンはゆっくりと深呼吸をしながら、緊張した気持ちを落ち着かせる。


 会議室のような場所にいたのは、教会からは管理者のアルバートと重鎮たち。王族からはエドワードが出席していた。

 高い身分のものたちに囲まれ、リリアンは目の回る思いをしながら、席に着いた。


「では、お話をしましょうか」


 アルバートが周りを見渡してから口を開く。


「今回のお話は、新しい象徴のお披露目についてです。前の象徴は姿を消してしまい……残念ながら、本物の象徴ではなかったのではと言われております」


 その言葉に、エドワードが手を上げる。


「エドワード殿下、何でしょうか?」

「どうして、教会は偽物の象徴を見抜くことはできなかったんだ?」


 そういった質問が来ることがわかっていたのか、アルバートは悲しそうに眉を下げて、首を横に振る。


「神が教えてくださらなかったのです。神が気まぐれを起こすのはよくあること。……ですから、私はリリアン様が象徴になるために、前の象徴が必要だったのではないかと考えております」

「どういうことだい?」

「メアリーがいたから、リリアン様は教会に興味を持ち、信仰心を高めました。前の象徴の働きも悪くはなかったのだということです」


 前の象徴は偽物だったが、象徴としての役割を果たしていたとすることによって、偽物の象徴を抱えていた教会の罪を軽くする目的なのだろう。


「では、なぜメアリーが偽物だと?」


 エドワードの質問に、アルバートはにこりと笑む。


「彼女に裁きが下ったからです」


 彼は窓に目を向ける。その向こうには人々の墓地が並んでいた。墓地とは、神のもとに行くことができた人々の勲章のようなものだ。


「彼女は突然、死に見舞われました。病などではなく、突然。神がとうとうお怒りになったのでしょう。そのとき、私たちは彼女が偽物だと確信しました」


 エドワードは面白そうに目を細めて、さらに質問を重ねる。


「では、リリアンが象徴だという判断をしたのは?」

「正直、私たちはまだ、彼女が象徴かどうかの判断には至っておりません」


 会議室にいる人々の目がこちらに向けられる。リリアンは顔を下げないようにし、何でもないように笑みを浮かべた。


 そんな様子を見て、アルバートはエドワードに目を向ける。


「リリアン様は様々な奇跡を我々に見せてくださいました。……きっと、彼女の行ないが証明となるでしょう」


 アルバートは微笑むと、リリアンのお披露目について話しはじめた。


「リリアン様のお披露目は、一週間後に行いたいと考えております。王族の方での予定はいかがでしょう」

「確認しよう」


 エドワードがうなずくのを見て、彼は会議室を見渡す。


「それともう一つ。催し行いたいと考えております」

「おや、どんなものだい?」

「お披露目と同時に、メアリーの処刑を行ないます。罪人である彼女が裁かれないのはおかしいでしょうから」


 アルバートは当たり前のようにそう言う。リリアンは思わず声を上げた。


「それはメアリー様の墓を漁り、遺体を民衆に晒すということですか?」

「そうしなければ、民衆は納得しないでしょう。どうせ、偽物。裁きを受けるのが普通でしょう?」


 メアリーは墓に入っていない。漁られたところで意味はないだろう。実際、リリアンも彼女が本当に埋まっているのか確認している。


 だが、彼女が埋まっていないとわかっていて掘り起こしたリリアンと違い、彼らはメアリーが入っていると確信して漁ろうとしている。そして、腐りはじめた遺体を民衆に晒して、その首を落とそうとしているのだ。


「私は……メアリー様に助けられました。私はメアリー様を侮辱するようなことは許しません」


 リリアンの言葉にアルバートは落ち着いた様子で言葉を返す。


「神がメアリーを裁いたのです。我々もそれに従う必要があります。……それとも、あなたは神の行ないに異を唱えるということでしょうか」

「私が異を唱えているのは、神ではなく、教会です。神がメアリー様を裁いた証拠はどこにあるのでしょうか」

「教会は神聖な場所。そして、神のお膝下です。……その教会を侮辱するということですか?」


 その言葉に、静かに聞いていた教会の重鎮の御使いがゆっくりと手を上げる。


「この話をすべきかどうかと悩んでおりましたが……お話してもよろしいでしょうか」


 アルバートは彼に目を向けると、続きを話すよう促した。


「どうぞ」

「リリアン様のことを調べてみると、どうも経歴が怪しいと思うのです。今の子爵家に養女として来ており……。どうやら、その前は商人の娘だったとか」

「ほう」


 アルバートは初めて聞いたというように、目を大きく開く。その仕草がとてもわざとらしく見えた。


「身分を偽り、貴族にしか与えられないピアスを身に着けている。……これは神にも欺いたと見て良いでしょう」


 その言葉に、さすがにリリアンも黙っていられなかった。


「私は契約をし、正式な手続きを踏んで貴族となりました。……それが問題となるのでしょうか」


 リリアンの言葉に同意するようにエドワードがうなずく。


「問題にならないね。親が貴族であれば、貴族としての教育が受けられる。もちろん、実子であることが望ましいが……。正式な手続きを踏んでいるならば、問題にならないよ」


 エドワードの言葉に重鎮は首を横に振る。


「血の問題でしょう。貴族の血族ではない元平民が身分を偽り、象徴となる。それがどれだけ重い罪なのか……。あなたたちにはわからないのでしょう」


 彼の目は光る。その淀んだ光はリリアンに向けられた。


「私たちは最も神に近い場所におります。よく神の言葉を聞いている私たちは、あなたたちよりもずっと、神に詳しいのです」


 彼は神に祈るように両手を組む。そして、目を閉じ、神の言葉を告げるように口を開いた。


「神は自身を偽り、象徴になろうとする者を決してお許しにはなりません」


 重鎮の御使いはそう言ってアルバートの方を見る。彼の言葉を待っているようだ。


 話を聞いていたアルバートは、悲しそうに眉を寄せる。そして、憐れむような視線をリリアンに向けた。


「リリアン様」


 彼はリリアンに呼びかけて、固く目を閉じる。


「とても、残念です」


 それだけ言うと、御使いたちは立ち上がった。まるで決まっていたかのような動きだ。話は終わりだという態度に王族側が眉を寄せる。エドワードは咎めるように声を上げた。


「話は終わっていないが?」

「終わりです。これ以上、話すことはありません。彼女の処遇は後日、考えましょう。これは教会の問題。王族からの口出しは無用です」

「……彼女は僕の大切な友人だ。手出ししたら、どうなるかわかっているかい?」

「もう一度、申します。これは教会の問題。……友人かどうかなど関係ないのです」


 アルバートはそばに控えていた御使いたちに目を向ける。


「彼女をお連れしろ」


 リリアンは両腕を掴まれて、連れていかれる。リリアンは不意にエドワードの方を見た。

 彼はこちらを見ながら、うなずく。大丈夫だよと言い聞かせるように。


「……そうですね」


 リリアンは小さく笑う。

 私は一人じゃない。そう思いながら、会議室をあとにした。



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