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愛みのリリウム -神に愛された花たち-  作者: 虎依カケル
8章

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75話 御使いの商売


 テオドールと顔を合わせてから、数日後、彼から会って話したいという手紙を受け取った。ウィリアムにお願いをして、彼の部屋まで移動する。


「よく来てくれた」


 テオドールは前と同じようにリリアンたちを迎えてくれた。挨拶を済ませると、リリアンとウィリアムは席に着く。


「今日はどのようなお話でしょうか?」

「御使いたちが気を許しはじめているようで、少しずつ情報を漏らすようになってきた」

「まあ! さすが、殿下です。どのようなお話を聞いたのですか?」


 リリアンは顔を輝かせると、彼は少し微笑む。そして、聞いたことを話しはじめた。


「彼らはどうやら、商人と直接取引があるらしい」

「取引ですか……? 何か特別なものを購入されているのですか?」

「いや、彼らが商売に関わり、報酬をもらっているようなことを言っていた。それによって、他国との交流も得ているとも」


 この国は隣国との関係は悪くない。だが、とても良いとは言いがたく、つかず離れずといった関係を続けている。


「他国との交流……。何かを輸出したり、輸入したりしているということでしょうか」

「わからない。だが、御使いたちの活躍によって、他国からの商品が得やすくなっていて……あなたが身に着けている石も、その繋がりから得たものだと聞きました」


 リリアンは自分の胸元にある石を見た。この石は、今は隣国の土地になってしまった場所からしか採ることのできないものだと聞いている。想定していたより、入手するのが早かったのは、その繋がりがあったからなのだろう。


「どのような商品を取り扱っているかは聞きましたか?」

「抽象的だが……今、その国では謎の病が流行っていると聞いた。家が長いほどその病気にかかりやすく、病人と早めに隔離しても移ってしまうという。そのときに活躍するものだと言っていた」

「病のときに活躍するということは、薬でしょうか?」

「そうかもしれない。彼らはこのことをとても誇らしく感じているのが伝わってきた」


 彼らが薬を輸出しているとして、どのようにしてその薬を手に入れたのだろうか。


「調べてみないとわかりませんね。一度、エドワード殿下たちに相談を持ち掛けてみます」

「それともう一つ。アルバートについても聞いた」

「アルバート様ですか?」

「ああ。彼はある人と頻繁に文通していると聞いた。親しい間柄なのかと思えば、相手は教師だという」


 その言葉にリリアンは思わず眉をしかめる。


「……それはもしかして、マルヴィナ先生のことでしょうか」

「具体的な名前までは出て来なかった。手紙を運んでいる者に聞けば、すぐにわかるだろう」

「わかりました。調べるように依頼しておきます」


 リリアンはそう言うと、ふっと微笑む。


「でも、ここまで情報を手に入れてくださるとは思っておりませんでした。無理をなさってはいませんか?」

「大丈夫だ。メイを取り戻すためだと思えば、どうってことない」


 テオドールの言葉は嘘ではないようで、彼は気楽に笑って見せた。

 彼は眉を下げて、小さく笑う。


「……私は幼いころから、人の役立つことができずに過ごしていた。だが、そんな自分のことを認めてくれた兄様、そしてメイのことを大切に思っている。あの人たちの助けになりたいんだ」

「殿下は本当にお二人のことがお好きなんですね」

「ああ。私は二人のことを慕っている。だから、幸せになってほしい。いや、幸せにしたい」


 彼の言葉にリリアンから笑みがこぼれる。


「幸せにしたい。良い言葉ですね。私も、自分の大切な人たちを幸せにしたいです」

「ああ。必ず、メイと再会する」


 彼の言葉からは強い意志を感じた。


「平民の御使いたちは私に象徴になる覚悟があるのかと問いました。ですが、私にとって、象徴はメアリー様しかいません」

「私にとってもそうだ。彼女は特別だから」


 メアリーを必ず象徴の座に戻す。そう思っているのは自分だけではないとわかって安心する。


「……まだメアリー様の情報を得られていません。ですが、彼女を戻す準備は必要です。まずは目の前のことから解決していきましょう」

「わかった」


 リリアンはウィリアムと一緒にテオドールの部屋を出る。そして、ウィリアムに今日聞いたことをオズワルドに伝えるように頼んだ。


「リリー」


 ウィリアムに呼びかけられて首をかしげる。


「なんですか?」

「昨日よりいい顔してるよ」


 そう言われ、リリアンは頬を緩めた。




 数日後、ウィリアムと一緒にオズワルドが部屋に訪れた。彼が来ることは珍しく、リリアンは目を大きく開いて出迎える。


「オズワルド様。お久しぶりですね」


 リリアンの顔を見ると、オズワルドは嬉しそうに表情を崩した。


「リリー。しばらく見ない間に綺麗になった。生き生きと活動しているからかな」

「オズワルド様たちに支えていただいているから頑張れているのですよ」

「それはよかった」


 リリアンは彼の分の椅子も用意して、三人で座る。


「今日来たのは、先日テオドール殿下からいただいた情報についてだ。こちらでも色々調べたところ……とても良い情報を手に入れた」


 オズワルドは微笑みながらそう言う。その表情はリリアンよりも生き生きしているように見えた。


「どのような情報でしょう?」

「商人は人身売買に関わっている」


 その言葉にリリアンは眉を寄せる。


「人身売買ですか?」

「ああ。君の養父、クライヴが以前から教会に頻繁に足を運ぶ商人を見ていたようだ。その顔を覚えており、探すのに付き合ってくれた」


 クライヴの名前が出て、頬を緩める。彼が積極的に関わってくれているようだ。


「その商人は人を扱う商店に属していた。人手が足りないときに人材を派遣してくれるらしい」

「そんな商売があるのですね」

「……どうやら、その人材は時に盗賊なようなこともしていたという」


 オズワルドは眉間に皺を寄せて、脚を組む。


「その人材というのは、貧民層の中でも、手に職がない浮浪者ばかりだ。ちゃんとした仕事もあれば、人を襲い、物奪い、人を攫うようなことをしていた」

「それはつまり……」

「君を襲ったのも、そこから派遣された人間の可能性が高い」


 国民に害をなす犯罪者たちが商店によって派遣されていた。つまりそれによって利益を得ている者がたくさんいるということだ。……そんなこと許されるのだろうか。


「もちろん、彼らは用意周到だ。罪を犯した人々と自分の店が関わりのないように見せていた。おそらく、中間業者みたいなものがいるのだろう。間をたくさん挟んでいるから、どこが正式に雇っているのかをわからないようにしていた」

「そんな人たちと御使いたちがどのようにして関わりを持ったのでしょうか」

「それはわからない。だが、彼らが人攫いに関わることをしていることはわかっている。覚えているかい? 君は人攫いに遭遇したはずだ」


 忘れるはずがなかった。神隠しによって、学園関係者がいなくなっていたころに起きた事件だ。


「君を連れて行った女生徒の一人が言っていただろう? 『御使いに神の居場所を聞いた』と」

「……言っていました」

「彼らはそういった助言をして、あの場所に生徒をおびき寄せていたんだ」


 当時から御使いたちの行動や発言がメアリーと矛盾していることがあった。人によって考えが違うからだと考えていたが、まさか犯罪の手助けをしているだなんて、誰が想像できるだろうか。


「けれど、人を攫ってどうするのでしょうか?」

「どうやら、隣国に売り飛ばしているらしい。テオドール殿下も言っていただろう? 隣国では流行りの病で人が亡くなっている。それは貴族に多い。つまり、その国では貴族が不足しているんだ」


 オズワルドはそう言うと、耳元のピアスを指さした。


「これは貴族の証だ。隣国の貴族も同じようにピアスをしている。彼らは同じ貴族の女性を欲しがっている。……貴族同士の子を作るために」


 その言葉に、さすがのリリアンも絶句した。


「……では、攫われた人たちは子を産むための道具にされているということでしょうか」

「そういうことになるね」


 オズワルドは当たり前のように言う。だが、それを受け入れられずに視線を下げる。


「君が無事で良かった。俺でも簡単には国の外には出られない。君を助けに行くのが難しかっただろう」

「でも、攫われた人たちは救われないのでしょう?」

「それはわからない。だが、この話が表に出れば、何かできるかもしれない」


 リリアンがバッと顔を上げると、オズワルドは少し笑った。


「わが国は隣国と交友はあるが、対等とは言えない。だが、このことがわかれば、相手は不利になるだろう。きっと、王族も動いてくれる。けど、御使いたちは間接的に関わっているが、実行犯ではない。その商店や隣国に罪を擦り付ける可能性もある」

「そのためには確実な情報を集めなければならないということですね」

「そういうこと。ここからは俺の出番だよ」


 オズワルドは目を細めて笑みを浮かべる。


「頑張ったね、リリー。君がこうしてここにいてくれたから、情報を得ることができたんだ」

「私は何もしていませんよ。テオドール殿下が情報をくださったのです」

「リリーがいたから、テオドール殿下も情報をくださったんだ。君のおかげだよ」


 その言葉に、眉を下げてオズワルドに尋ねる。


「……これが、神の寵愛者の力なのでしょうか」


 オズワルドは首を横に振って、問いを否定した。


「違うよ。それはリリーの人柄がそうさせたんだ。君は神の寵愛者のことを勘違いしているね?」

「どういうことですか?」


 彼は自分の手のひらを見つめる。


「神の寵愛者は、愛されたから特別な体質を手に入れたわけではない。その人の持っている本質的な人柄が神を惹きつけるんだよ」


 彼はそう言って、手のひらを握り締める。そして顔を上げて微笑みかけた。


「君だから、みんなが動いてくれる。それだけだよ」

「そうですか……」


 寵愛者の力が魂によるものなのか、人柄によるものなのかはわからない。けれど、自分の持っている能力ではなく……自分を見て判断してもらえているなら嬉しい。


「……ありがとうございます」


 オズワルドはうなずいてゆっくりと立ち上がった。


「じゃあ、俺は情報を集めに戻らないと。……じゃあね、また来るよ」


 彼はウィリアムの腕に掴む。ウィリアムがリリアンの方に手を振ると、二人は姿を消した。

 着実に情報が集まっている。罪を犯している御使いたちを排除する日は近い。


「……メアリー様はどこにいるのでしょうか」


 だが、メアリーの情報だけはいまだに掴めずにいた。



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