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愛みのリリウム -神に愛された花たち-  作者: 虎依カケル
8章

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73話 神の言葉を告げる御使い


 次の日から、リリアンはテオドールとの手紙のやり取りが始まった。


「リリー。テオドール殿下から手紙だ」


 彼は御使いたちにバレないように枕元に手紙を仕込んでくれる。それをウィリアムが取りに行く。

 テオドールの手紙を持ってきてくれたウィリアムにリリアンはお礼を言った。


「ありがとうございます。読み上げますね」


 封をそっと開けて、便箋を開く。そこには、現状で彼が知っている貴族の御使いについて書かれていた。


「貴族の御使いたちは、象徴を通さずに神の言葉を告げることがあるそうです」

「何だそれ。規則違反じゃないのか?」

「規則違反でしょう。ですが、私も前に御使いから神の言葉を告げられそうになったことがあります」


 メアリーが偽物の象徴と噂される前、誰よりも先にその話題を出した御使いがいる。その御使いは、リリアンにメアリーは偽物だから自分が神の言葉を告げようと言っていた。


「象徴が亡くなってから数年は、象徴がいない時期もあります。そのときには象徴の代わりに御使いが神の言葉を告げているのでしょう。だから、人々も御使いが神の言葉を口にすることに違和感を覚えていない可能性があります」

「……まるで象徴が飾りみたいに聞こえるな」


 ウィリアムの言うとおりだ。御使いたちにとって象徴は飾りでしかない。……だから、飾りが口を開くことを嫌がる。


「ほかにも、御使いたちは用事があれば、外に自由に出かけることができるそうです。城にもよく、御使いが足を運んでいるのを見ていたと書かれています」

「たしかに、教会に足を運ぶ人もいるけど、御使いを呼ぶ人もいるね。城にすら自由に入れるのは初耳だけど」

「テオドール殿下のお母様は強い信仰心をお持ちで、毎週のように呼んでいたようです……どうやら、大金を払っていたみたいですね」


 その言葉にウィリアムは眉を寄せる。


「それは教会への寄付?」

「詳しくは書かれていません。寄付なのかもしれませんし、違うのかもしれません」


 考えるように指先を口元に当てる。テオドールを支持する人たちは教会だけでなく、城の中にもいた。彼らが繋がっていないとは限らない。


「……一度、オズワルド様に相談した方が良さそうですね。リアム、オズワルド様に手紙を書くので届けてくれますか?」

「わかった」


 手紙を書きながら、平民の御使いたちのことを考える。彼らは貴族の御使いたちと同じように、外に出歩いているのだろうか? メアリーはいつも礼拝堂におり、教会の外に出ている様子がなかった。外を出歩くのは貴族の御使いだけなのだろうか。


「平民の御使いたちにもお話が聞きたいですね……」


 そう呟くと、ウィリアムはその額に指を押し付けた。眉間を突然触られて、目を瞬かせる。


「リアム?」

「難しい顔してる。最近、息抜きしてる?」

「今してますよ。リアムと話すのが一番の息抜きです」


 その言葉にウィリアムは複雑そうな表情を浮かべた。


「嬉しいけど……嬉しいけど、そうじゃない」


 ウィリアムはリリアンの眉間をぐりぐりと押す。


「今日は早く寝ること。いいね?」


 彼の気迫にリリアンはコクコクとうなずいた。


「わかりました……。じゃあ、これだけお願いします」


 リリアンはウィリアムに手紙を手渡す。彼はそれを受け取ってうなずいた。


「わかったよ。じゃあ、おやすみ。リリー」





 次の日、リリアンはディアドラを伴って、平民の御使いのいる棟へ向かった。彼らはリリアンの顔を見るとすぐに集まってきた。


「リリアン様。どうしましたか?」

「お聞きしたいことがありまして。よろしいでしょうか?」

「もちろんです」


 彼らはリリアンのために椅子を用意してくれる。お礼を言って座ると、彼女の前にはアビーが座った。


「俺らの言葉だけじゃなく、アビーのような子どもの言葉も参考にした方が良いでしょう」

「ありがとうございます」


 リリアンがお礼を言うと、彼らは嬉しそうに笑った。


「お聞きしたいのは、貴族の御使いについてです。彼らは象徴を通さずに神の言葉を伝えていると聞きました。それは本当でしょうか?」


 その言葉にアビーはうなずく。


「本当です。貴族の御使いたちは、メアリー様に神の言葉を伝えることがありません。自分たちの意志で伝えています」

「平民の御使いはいかがでしょうか?」


 その言葉に彼らは顔を合わせる。


「我々は神の言葉に関わりません。……御使いは神の言葉なんて聞くことができませんから」


 平民の御使いたちの言っていることは、以前ルシルからも聞いた。御使いは未来を予言することも、過去を見ることもできない。神の言葉なんてもってのほかだと。


「本当のことを教えてくださってありがとうございます。では、貴族の御使いたちの言葉は嘘ということですか?」

「そうです。神の名を使って、自分たちの思い通りに人々を動かそうとしているのです」


 オズワルドが言っていた。教会は国を思いのままにするために作られた。教会はその言葉の通りの役割を果たしているようだ。


「貴族の御使いたちは、時には呼ばれて、時には自ら足を運んで、人々の相談を受けます。相談を受けたあと、金品を受け取ります。……ですが、それは寄付ではなく、彼らの懐に入っているのです」

「それは規律違反に値するのでしょうか?」

「値します。ですが、暗黙の了解として、長年やっています。彼らは身分の低い貴族のもとにも遠慮なく行くので、お金のない貴族たちが困っているというのを聞いたことがあります」


 御使いはため息を吐くと、遠くを見るような目をした。


「メアリー様がそのことを咎めていましたが、彼らは聞く耳を持ちませんでした。象徴とはいえ、彼女は男爵家の令嬢ですからね」


 彼はそう言うと、こちらを見た。その真剣な表情に、思わず背筋が伸びる。


「……これからは、あなたの仕事になります」

「私の仕事……」

「そうです。あなたにはメアリー様を確実に取り戻してほしいと思っています。ですが、彼女が戻らなかったら……あなたがメアリー様の代わりになるのです。それを理解されていますか?」


 理解していなかったわけではなかった。だが、改めて突きつけられて、何も言えずに黙り込む。


「メアリー様が戻らなければ、正式な象徴になって、我々を導く覚悟はありますか?」


 平民の御使いの問いに、すぐに答えを出せなかった。だが、答えを出さなければ、彼らの信用を失うことになる。


 リリアンは震える手を握りしめながら、にこりと微笑んだ。


「もちろんです。私はメアリー様の意志を継いでおります。きっと、あなたたちの助けとなりましょう」


 メアリーならそう言う。だが、その言葉はひどく重く、とても苦しく、不安ばかりが胸を占めた。



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