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愛みのリリウム -神に愛された花たち-  作者: 虎依カケル
8章

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72話 テオドールとの接触


 次の日の夜、ウィリアムの移動能力でテオドールの部屋に向かった。


 突然、目の前に現れたリリアンたちを見て、彼は驚いたように目を開く。だが、すぐに納得したような表情を浮かべた。


「……本物の御使いか」


 リリアンとウィリアムは彼の前で礼の姿勢を取った。


「突然の訪問をお許しください。テオドール殿下とお話したく、参りました」


 そのまま、今日来た理由を説明しようと口を開いたが、テオドールが先に話しはじめた。


「あなたの話はアビーから聞いている」


 メアリーの死の真相を教えてくれた平民の御使いの少女だ。彼女の名前が出てきて、リリアンは思わず顔を上げた。


「アビーから?」

「メアリーが偽物の象徴だと噂が広まってから、俺は彼女と顔を合わせることができなかった。だから、あの子はメアリーとの連絡係として、よく俺の部屋に忍び込んでいた」

「どうやって忍び込むんですか?」

「御使いだからな。あなたたちのようにこうして部屋に来ていた」


 それを聞いて、リリアンは疑問が浮かんだ。


「ほかの御使いたちも移動能力を使えるのですよね? 捕まっている御使いたちも、逃げようと思えば逃げられるのですか?」


 リリアンの問いに、テオドールがうなずく。


「逃げられるだろう。だが、御使いの力は不気味がられている。だから、よほどのことがない限り使わない。逃げたところで、より罪が重くなるだけだ」

「そうなのですね……」

「アビーが久々に来たと思ったら、あなたの話だった」


 そう言ってテオドールは視線を下げてから、目の前の椅子に手を向けた。


「まずは座ってくれ」


 リリアンとウィリアムはお礼を言ってから、椅子に腰を下ろす。


「殿下は、メアリー様は死んでいないというアビーの言葉を信じていらっしゃったのですか?」

「……いや、信じていなかった。メアリーを殺したのはアビーだと思っていた」


 アビーはメアリーの世話係をしていた。突然メアリーが亡くなったのなら、彼女が疑われるのは当然だろう。


「今更になって彼女の話を信じようと思ったのですか?」

「ほかの平民の御使いたちも現場にいたと聞いた。だから、アビーの言葉が本当だとわかった」

「平民の御使いが嘘を吐いているとは思わなかったのですか?」


 その言葉にテオドールは少し視線を落とす。


「思った。だが、彼らはメアリーに尽くしてくれていた。それを知っている私が彼らを信じず、来たばかりのあなたが彼らを信じた。……メアリーを失った悲しみから、メアリーが大切にしていた者たちのことすら信じられなくなり、視野が狭くなっていることを突き付けられているような気がしたよ」


 テオドールはそう言うと、優しい目でリリアンを見た。


「私はメイが殺されたのだと思っていた。アビーに裏切られたのだと思っていた。だが、生きているかもしれないとわかった。私では信じてあげられなかったんだ……アビーの言葉を信じてくれて、ありがとう」

「いいえ、こちらこそ。私の言葉を信じてくださってありがとうございます」


 リリアンはそう言ってから、彼の部屋を見渡す。第二王子の部屋というには物が少ない。彼は城から荷物を持ってこなかったのだろうか。


「殿下は今、どういう状況なのでしょうか?」

「メイと一緒にいたころは、彼女のそばにいることが許された。彼女が許せば、好きなことをさせてもらえていたが、今は常に監視の目がついている。行動にも制限がある。……すごく動きにくい」


 以前、お茶会に乱入してきた様子から、テオドールが周りにいる御使いたちを信用していないのは察していた。だが、彼もまたリリアンのように監視がつけられている状態なのだろう。


「殿下の周りにいるのはやっぱり、アルバート様を支持する者でしょうか」

「そうだな。外に出るといつもついてくる。部屋の外にもいるだろう」

「では、彼らから情報を得ることは可能でしょうか?」

「情報を?」


 テオドールは不可解そうに眉を寄せる。リリアンはそんな彼にうなずいた。


「はい。あなたが彼らの味方に付いたと思わせ、彼らが何をしているのか、しようとしているのかを少しずつ情報を漏らしてもらうのです」

「そんなことできるだろうか」

「わかりません。ですが、何も力のない私よりも、あなたという権力者が味方に付いた方が、彼らもできることが増えます。都合の良いことは信じやすいです。すぐに信じてもらえるかはわかりませんが、少しずつ歩み寄っているような様子を見せてください」


 正直、上手くいくとは考えていない。だが、やらないよりは良いだろう。現時点で、テオドールは信じてもらえていない状態なら、これ以上、扱いが悪化することはあまりないはずだ。


「わかった。できるだけやってみよう」

「権力を欲しがるということは、彼らにはしたいことがあると考えられます。それがいいことであるとは限りません。そういった情報をできるだけ集めてみてください」


 その言葉にテオドールはうなずく。彼は少し迷うように視線を揺らしたあと、こちらに目を向けた。


「どうして、あなたは教会に来たんだ」


 その問いは責めているものではなく、純粋な疑問として投げかけられた。


「一度、逃げたのだろう? 戻って来なければ、こんなに窮屈な思いをしなくて済んだはずだ」

「避けられることではありませんでしたから。それに、象徴はメアリー様だと思っています」


 彼女以外の象徴を知らない。だが、象徴である彼女を知っている。幼いながらも背筋を伸ばし、前を向き、人々のために尽くそうとしていた。そんな彼女が一番、象徴にふさわしいと思っている。


「私にとってもメアリー様は特別なのです」

「……そうか」


 テオドールはそう呟くと、こちらに向き合う。そして、手を差し出した。


「私にとってもメアリーは特別だ。互いに特別な存在を助けよう」

「もちろんです」


 うなずいてその手を取ると、その手首にはメアリーの腕飾りが見えた。テオドールはそれに目を向けて口を開く。


「……その腕飾りは」


 彼は様子を窺うようにこちらを見る。やはり腕飾りが気になるようだ。


「これはメアリー様から預かったものです。失くしたくない大切なものだからだと」

「大切なもの……そうか」


 テオドールはリリアンから手を離すと、視線を下げた。


「この腕飾りは殿下からの贈り物だったのですよね。殿下が預かりますか?」


 そう尋ねると、彼は少し考えてから首を横に振った。


「いや、いい。それはメイがあなたに預けたものだ。あなたから返してほしい」


 それは約束のように聞こえた。メアリーを必ず見つけ出すという約束だ。

 リリアンはその言葉にうなずく。


「わかりました……かならずメアリー様にお返しします」


 そう言ってから、隣に座っているウィリアムの方に目を向ける。


「今後は彼が連絡係となります。彼がお部屋に入ることを許してもらえますか?」

「はじめまして、テオドール殿下。ウィリアムと申します」


 ウィリアムは緊張した面持ちで立ち上がると、テオドールに礼の姿勢を取った。

 テオドールは品定めするようにウィリアムを見ると、了承した。


「かまわない。リリアンも自由に入ってくれ」

「ありがとうございます。また、お話がある場合はウィリアムをお呼びください。必要とあれば、私もお伺いいたします」

「わかった。よろしく頼む」


 リリアンとウィリアムはテオドールに挨拶をして、移動能力を使って部屋を離れた。




 リリアンの部屋に戻ると、肩の力が抜けた。隣にいたウィリアムに関しては首までも下に倒れている。


「お疲れ様です」

「疲れた……」

「リアムやりましたね。これで殿下とお近づきになれますよ」


 冗談交じりに言うと、彼は首をブンブンと横に振る。


「無理無理無理。俺は野心がないから、身分の高い人と関わりを増やしたくない……」

「大丈夫ですよ! きっと、リアムの将来に強い影響を与えますよ! 頑張ってください!」

「……勘弁してくれ」


 ウィリアムは疲れ切った顔で姿を消した。彼を見送ってから、椅子に腰を下ろした。

 テオドールと協力体制を取ることができてホッと息を吐く。

 だが、これからが正念場だ。


「気を引き締めなければ……」


 そう思いながら、ベッドで横になる。だが、気持ちが落ち着かなくて、その日は眠ることができなかった。



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