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愛みのリリウム -神に愛された花たち-  作者: 虎依カケル
7章

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59話 頼りたい人


「どういうことですか……?」


 リリアンの問いに、オズワルドは笑みを浮かべたまま説明してくれる。


「俺はこの家で何度も人としての生を繰り返している。オズワルドとして生きる前は、父の兄、そしてアルバートの伯父に当たる立場にいたんだ」


 オズワルドは生まれた子どものその魂を喰らい、体を乗っ取ったと言っていた。今の体の持ち主が生まれる前は別の人間の体を乗っ取っていたのだろう。それがアルバートの伯父だった。


「おそらく、今教会を動かしているのはアルバートだ。あの子は賢かったからね。だから、教会に送ったんだけど……」

「教会に送ったということは……御使いではなかったのですか?」


 その言葉にオズワルドはクスクスと笑う。


「そうだよ。あの教会にいる御使いの半分くらいは、本物の御使いじゃない」

「……それは許されることなのでしょうか」

「許す許さないの問題じゃないよ。教会は最初からそういう場所だ。教会は良い道具だからね。身内を送り込んで、思い通りにしようと考える者も多いよ。……まあ、それは俺も同じだけど」


 オズワルドは何でもないことのように口を開く。


「たしかに、初代象徴は本物の寵愛者だった。そのあともしばらくはそうだったけど、ある時突然質が悪くなった。だから、それ以降、象徴は洗脳してから送り込むようになった。そっちの方が効率がいいからね。でも、最近はアルバートが好き勝手動くから、メアリーについては俺が送り込んだ。彼女も自分のために俺を利用している。お互い様だよ」


 オズワルドはそう言うと、こちらを見つめた。


「聞いてわかるように、教会は一筋縄ではいかない。俺の手からも離れてしまっている。こっちも手を焼いているところだよ。どうかな。参考になった?」

「はい。……教会に戻ることを決心しました」


 その言葉に、オズワルドは息を継ぐ間もなく拒否した。


「だめだ」

「だめでも向かいます」


 強い口ぶりで言うと、オズワルドは驚いたように目を見開いた。


「象徴にしか入れない部屋をご存じですか?」


 オズワルドは眉をしかめる。


「……知らないな」

「どうやら、そういった部屋が存在するようです。メアリー様はそこに隠れている可能性があります。メアリー様を見つけ出すためには情報が必要です。教会内部の人間が犯人だとすれば、証拠も教会にある可能性が高いです。私が教会に入ってしまえば、また情報が得やすくなるでしょう。それに、儀式を理由に時間を稼ぎます」

「儀式?」

「象徴の証を手に入れるための儀式です。以前は行われていたようですが、ご存じないでしょうか?」

「ああ。知っているよ。石を使った儀式だろう? 儀式に用いた石を身に着けることが象徴の証だった。戦争による領地の変更によって、その石が採れる領地は他国のものになってしまったから、やめてしまったんだ。だが、それは神聖さを出すための形だけの儀式のはずだ」

「その儀式は意味があるものだったようです。その石を身に着けることで、象徴にしか入れない部屋に入ることができます。そして、メアリー様はその石を持っていました。私は彼女が青い石を首飾りとして身に着けているのを見たことがあります」


 その言葉にオズワルドは眉を寄せながら首をかしげる。


「……さっきも言ったけど、その石は簡単には手に入らない。もし、メアリーの身に着けているものが本物の象徴の証だとしたら、彼女はどうやって手に入れた? それに、儀式の方法をどこから知ったんだ?」

「それはわかりません。ですが、私が象徴の証を手に入れれば、象徴の部屋に入れるかもしれません。そうすれば、メアリー様の行方の手がかりを得られる可能性があります」

「……君はそんなことを誰に聞いたんだか」


 そう言いながらも、オズワルドの頭には誰かの顔が浮かんでいるようだった。


「教会が話題に挙げているロザリー様もその儀式を行っていたようです。アルバート様はロザリー様に興味を示されていました。もしかすると、彼女のときに行なった儀式にも興味を持たれるかもしれません。それに、私が完全に教会の象徴になるまでの時間を稼げれば、たとえメアリー様が見つかったとしても、すぐに代わることができるでしょう」

「楽観的な考えだ。その前に君は消されるかもしれない。上手くいくと思うかい?」

「上手く行動してみせます」

「いつから、そんなに聞き分けのない子になったの?」


 オズワルドはリリアンの頬に手を伸ばす。そして、子どもに言い聞かせるように言った。


「君が何かをすれば、また犠牲者が増えるだろう。君の家族も、友人も。本当の兄もそうだっただろう? 君の安易な行動で傷つけてしまった。違うかい?」


 リリアンの瞳が揺らぐ。それをオズワルドは逃さなかった。


「君は俺の言うとおりにしていればいい。大人しく待っていてくれ。君と約束したからね。君を元の生活に戻す」

「自分の気持ちに素直になったほうが良いと、あなたが言ったんですよ。……私がしたいと思ったんです」


 リリアンは真剣だった表情を緩め、眉を下げて笑う。


「今まで言ったのは全部建前ですよ。オズワルド様に納得してもらうための建前。私は周りに流されて生きてきました。その方が楽だったからです。……でも、私は変わりたいと思いました」


 信じていた教会は、自分の思い描いていた姿とは違っていた。何も考えず神に祈り、人の幸せを祈っていた。……自分の手では何もしようとしないで。


 ずっと考えることを放棄していた。すべてのことを受け入れて、流して、目を閉じてしまえば、何も見なくて済む。知らなくて済む。そう考えていた。……けれど、一人ではなくなってしまった。大切な人たちを見つけてしまった。


「ウィリアムは私と友達になりたいと言ってくれました。ルシルは私を守ろうとしてくれました。オズワルド様も……こんな私に優しくしてくれました。こんなにもいろんな人に大切にしてもらっています。だから、私も自分の気持ちに素直になろうと思ったのです」


 背筋を伸ばす。そして、オズワルドをまっすぐ見た。


「オズワルド様、お願いがあります」

「何だい?」

「……私が象徴として教会に戻ったとしても、その約束を果たしてください。私を元の生活に戻すと」


 彼は苦い顔をしながら小さく笑う。


「君のお願いはいつも無茶なものばかりで困るよ。本気で言っているのかい?」

「でも、頼れと言ったのはオズワルド様でしょう?」


 そう言うと、オズワルドは眉を下げて笑った。


「そうだよ。言ったのは俺だ。本当に、仕方がない子だな……」


 彼の言葉にリリアンは小さく笑う。


「オズワルド様がお優しいから……私はあなたを頼りたいと思ったのですよ」


 オズワルドは目を細めると、リリアンの手を取った。


「わかったよ、俺の大切なリリー。君のことは俺が必ず元の生活に戻してあげよう」


 そう言って、約束をしてくれた。



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