58話 情報共有
「オズワルド様、お帰りなさいませ」
その日、戻ってきたオズワルドを迎えた。リリアンが待っていたのを見ると、彼は嬉しそうに笑みを浮かべた。
「こうやって迎えてもらうと、夫婦みたいだね」
そう言いながらも、彼は従者にお茶の準備をするように指示をする。リリアンから話があることに気づいているようだった。
テーブルにエスコートされ、椅子に座る。お茶が用意されて、従者が後ろに下がってから、リリアンは口を開いた。
「取引をしましょう」
「取引?」
「はい。今までに得た情報を教えてください。私も得た情報をあなたに教えます」
オズワルドは動揺を見せずに問いかけた。
「なぜ?」
「私に必要だからです」
レジーナは情報を得ろと言った。そして、考えろと。自分は何も知らない。安易に人に聞くのはズルいだろう。だが、外に出ることができない自分には、外に出ている人から情報を得ることしかできなかった。
オズワルドは困った子を見るような目でこちらを見る。
「情報を知った君はどうするのかな?」
「私が行動するための糧とします」
「そのために情報が必要だと?」
「はい」
オズワルドは息を吐くと、仕方なさそうに笑う。
「情報を共有しなければ、俺は不要とされて、君は俺を頼らなくなる……まるで脅しのようだ」
「そんなつもりは……」
「でも、俺と情報共有しないで勝手に動かれても困るからね。わかった、呑もう」
その言葉で周りの従者たちは部屋から出ていく。それを見届けるとオズワルドはこちらに向き合った。
「それで、何が聞きたい?」
「まず、教会のことを」
オズワルドは「わかった」とうなずくと笑みを浮かべた。
「教会は今、騒ぎになっている。礼拝堂で傷害事件が起きたこと、そして象徴候補が姿を眩ませたこと。教会はいなくなった象徴の行方を求めている」
それを聞いて、小さく笑う。いなくなった象徴候補を心配して探しているのではなく、リリアンが逃げたことに対して騒いで探しているのだろう。
「賊に害された象徴候補を取り戻すという体で、教会は君を探している。居場所がわかれば、君を消しに来るだろう。まあ、ここにいる間は君を害させはしないけれど」
オズワルドはお茶を飲むと、仕方がなさそうに笑う。
「まぁ、今まで人形のようにしか振る舞わなかった象徴たちが自我を持って動くんだ。教会からしたら困るだろう」
彼は過去を思い出すように目を閉じる。
「メアリーは洗脳された象徴ではなかった。彼女が思うように動かなかったから、自分たちが望む象徴を欲しはじめたのだろうけど。目をつけたリリーも思う人材じゃなかったようだ」
情報を集めているだろうと考えていた。だが、オズワルドは思っていた以上に深くまで知りすぎている。
「あ、あの……どうして、オズワルド様はそこまで教会の事情にお詳しいのですか?」
オズワルドはその問いに何でもないように答えた。
「あぁ。教会はもともと俺が作ったんだ」
その言葉に目を見張る。それを見てオズワルドはにこりと微笑んだ。
「元々、この世界に宗教観というものは存在していた。神や御使い、そして悪魔。それらを人々は信じていたが、思い描くものは地域ごとに少しずつ違っていた。国を大きくしていくには、人々の信仰心を利用していく必要があったんだ。それに御使いのことも管理したかったからね。そのために教会を作り、象徴を作った。目に見えるものの方が、人は信じやすいから」
「そ、そんな……教会は困っている人々を助けるために存在するんじゃ……」
「もちろん、慈善活動もしていたよ。そうした方が人々の信頼を得られるからね」
教会は神の膝下のはずだった。それを悪魔が作り、自分の思うままのものにしていった。……それがどれだけおかしいことか。
「そして、教会は政治の助言者としての立場を確立していったんだ。御使い、それに教会を管理するために自分の家の人間を教会に送り込んできた。神隠しだってそうだ。悪魔が人の魂を喰らい続けていれば、不審に思う人間も現れる。だから、それを『神隠し』と名付けた」
「神隠しも教会が作ったのですか?」
「そうだよ。すべては国を思いのままにするためさ」
悪魔によって教会が作られたのであれば、神隠しは都合の良い隠れ蓑だとわかる。……最初から、この国はこの人によって良いようにされていた。
あまりのことに言葉を失くしてしまう。だが、そのことを気にせず、オズワルドは話を続ける。
「そうやって、あらゆることを操れるようにしてきた。だけど、いつからか教会が勝手に動くようになっていったんだ。誰かが裏で手を引いているんだろうね」
オズワルドはリリアンの後ろに目を向ける。
「何となく目星はついているよ」
そう言いながらにっこりと笑みを浮かべた。
「数年で終わるかと思っていたけれど、終わらなかった。だから、泳がせていたんだ。教会は助言者ではなく、政治に口を出してくるようになった。だから、ときどき思い通りにさせていた。欲求を満たされれば、少し大人しくなったからね。けれど、最近はそれも効かなくなった」
オズワルドはこちらをじっと見つめる。
「リリーから見て、アルバートはどんな子だった?」
「アルバート様ですか?」
「ああ。あの子は真面目でいい子だろう? 好きなもののことになると、つい熱中しすぎてしまうところがあるけど」
アルバートのことを思い出す。彼はたしかにロザリーに興味を持っているように見えた。
「オズワルド様はアルバート様のことをよくご存じなのですね」
「あの子は俺が育てたからね。……ああ、でも“オズワルド”としては、あの子は俺の叔父にあたるんだ」
その言葉を聞いて、リリアンは大きく目を見開いた。




