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愛みのリリウム -神に愛された花たち-  作者: 虎依カケル
7章

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56話 進む道


 神に愛されている人は、神に認められているくらいなのだから素晴らしい人なのだろう。リリアンはそう考えていた。


「全然、違う……」


 こんなものではなかったはずだ。ほかの人が神に愛された人ならばもっと違う結果になっていたはずだ。……どうして自分なんかが神に愛されているのか。


 窓の外が暗くなってきた。空は藍色になり、部屋が薄暗くなっていく。だが、リリアンは明かりを灯さずにベッドの上に横たわっていた。


「どうして、私なのでしょうか。私なんか愛しても……何にもならないのに」


 神に愛されたのがウィリアムやルシル、……メアリーだったら。人を不幸にすることはなかったのではないだろうか。


「こんなのおかしい、おかしいですよ……」


 レジーナに事実だと言われても、受け入れることができなかった。もしも違っていたら、と現実から目をそむけたくなる。

 しばらくしたら夕食の時間だ。だが、起き上がることも億劫だ。


 ……このまま寝てしまいたい。そのままずっと、目を覚まさなくてもいい。


 そう思って目を閉じる。あたりは静かだった。自分の呼吸の音だけが聞こえる。自分を温めるようにして膝を抱える。ベッドの感触と膝に当たるスカートの柔らかさ。感じるのは、それだけ。自分しかいない場所だ。このまま誰とも接しなければ……みんな、幸せになる。

 遠のいていく意識の中、扉をノックする音が響いた。


「…………」


 返事ができなかった。誰かと話すことも顔を合わせることもしたくなかった。そのまま返事をしないでいると、もう一度扉が叩かれた。


「リリー、いる?」


 ウィリアムの声が聞こえた。彼の優しい表情が頭に浮かぶ。心配して見に来てくれたのだろう。きっと彼はこのまま扉の前から離れてしまう。遠くにいてほしくて、傍にいてほしい。矛盾した気持ちを抱えながら小さな声で彼の名前を呼ぶ。


「……リアム」


 起き上がることもできず、横たわっていた。彼を引き留めるつもりはなかった。ただ、彼の名前を呼びたかっただけ。けれど、小さな物音が近くで聞こえた。


「……呼んだかな」


 ゆっくりと目を開けると、薄暗い部屋の中でウィリアムが立っていた。彼は優しい瞳でこちらを見ている。


「女性の部屋に勝手に入るのはいけないと思ったけれど……リリーが呼んだから」


 彼は柔らかく微笑むと、ベッドの横に腰を下ろした。ベッドの軋む音がする。背中に彼のぬくもりを感じた。


「どうしたのって聞いてもいい?」

「……リアムはどうして心配してくださるのですか?」

「どうしてって……」

「私が、神の寵愛者だからですか?」


 その言葉に息を飲む音が聞こえた。彼は気づいていなかったのだろう。それもそうだ。自分自身、気づいていなかったのだから。……彼はどう思ったのだろう。聞きたくないような気がして、耳を両手で塞ごうとした。


 ウィリアムは少し黙っていた。そして、小さな声で言った。


「……そっか。リリーは神に愛されているんだね」


 彼の声は動揺がなく、納得しているように聞こえた。


「でも、違う。そういう理由じゃない」

「じゃあ、何ですか」

「友達だからだよ。友達を心配するのに理由はいるかな」


 彼は落ち着いた声で言う。その声が心地よくて目を閉じる。


「……私はこの体質のせいで、いろんな人を不幸にしてきました」

「うん」

「家族を自殺未遂に追い込んだこともあります」

「うん」

「ルシルも……私が巻き込んでしまったのです。本当は死ぬ必要はなかったはずなのに」


 ウィリアムはそれを聞いて首を横に振った。


「それは違うよ。……違うんだ」


 彼は否定の言葉を二回言うと、一度口を閉じた。そして、決心したように口を開く。


「ルシルは……リリーの側で死ぬことができて本望だったと思う。言っただろ、あいつの寿命は短かったって。だから、あいつはリリーと一緒に選んだ」

「私はそんなこと、望んでいないです」

「ルシルは言っていただろ?『自分のワガママを聞いてほしい』って」


 それを聞いて、リリアンは起き上がる。ルシルの金色の瞳と視線がぶつかる。


「どうして、それを知っているんですか」

「俺も同じことを言われたんだ。……リリーよりも先に相談されていた」


 目を大きく見開いて、ウィリアムの腕を掴む。


「どうして……止めなかったんですか」

「止めたさ。でも、あいつが俺の言うことを聞くわけないだろ?……それに、あいつの後悔を晴らしたい気持ちはよくわかるから……」


 彼はそう言うと、こちらに目を向ける。


「俺がルシルの御使いだったって話をしただろ? ルシルの寿命は決まっていたんだ。一年以内に死ぬって。俺はあいつの魂を回収する役割を担っていたから、前から……あいつが転入してくる前から知っていたんだから」

「ルシルと……知り合いだったんですか?」

「一時期、学園へ行かなかったことがあったの覚えてる? そのときに出会ったんだ。俺は自分が回収する魂の匂いを感じて、移動能力を使って遠くにいるルシルの顔を見に行った。そこで顔を合わせたとき、あいつはすぐに俺のことを御使いだと気づいた。……そして、自分の死期を悟ったんだ」


 そんなにも前から二人が知り合いだったことを知らなかった。そのころからルシルは自分の死を自覚していた。


 彼は眉を下げて目を細めた。


「あいつの願いは、君と一緒に過ごすことだった。そして、叶うなら最期のときも君と一緒にいたかった。あいつの願いは叶ったんだよ」

「それでも、私がいなければ、ルシルは幸せに死ぬことができたかもしれないのですよ?」

「何で、あいつの死が不幸せになるんだよ。俺の話聞いてた?」


 そう言われても、納得ができなかった。上手く飲み込めないでいると、ウィリアムは息を吐く。


「……リリー。不幸せなのはルシルじゃなくて、君自身じゃないか?」


 その言葉に顔を上げる。涙を必死に堪えようとしている姿にウィリアムは小さく笑った。


「悲しいよな。願いだか何だかを勝手に押し付けられて、勝手に目の前で死なれたんだもんな。ムカつくよな」

「そんなこと……」

「俺も御使いだから、前世での後悔を晴らしたい気持ちはわかる。けれど、そんなのリリーには関係ない」

「ルシルが一緒にいてくれるって、守ってくれるって言ってくれたことは、とても嬉しく思いました。……けれど、私のために死んでほしくなかった」


 守るより、自分の命を大切にしてほしかった。たとえ死んでしまうとしても……楽しく最期を迎えてほしかった。


 ウィリアムはリリアンの額を指で弾いた。


「でも、君も同じだからな? 誰かのためとか言いながら、決めたらそれしか見れない。周りの心配なんて、気にしないだろ?」


 ウィリアムは視線を合わせてくれる。そして、眉を下げて笑う。


「俺もルシルも、君のこと大切に思ってるんだから、自分なんかって言うなよ」

「……ごめんなさい」


 そう謝れば、ウィリアムは笑ってうなずいた。


「リアムは……前世の後悔を晴らしたいのですか?」


 ルシルは前世で大切なお嬢様を失ったことをひどく後悔していた。リリアンを命がけで守ったのも、彼女が前世での出来事を引きずっているからだ。前世の記憶ということは、他人の記憶のはずだ。リリアンには前世がない。彼らの気持ちがよくわからなかった。


「そうだなぁ……。俺の場合は、時代が違うから後悔を晴らしようがないんだよ」

「時代、ですか?」

「そう。俺の前世は戦争をしていたから」


 それを聞いて、リリアンは思い出す。


「……リアムが書いた小説。あれも戦争のお話でしたよね」

「そうだよ。……あれは俺の前世の記憶」


 彼はどこか寂しそうな笑みを浮かべる。


「前世では俺は幼い子どもだった。母親と小さな弟がいて、三人で逃げ回る日々を過ごしていた。そんなとき、敵国の兵士に目の前で母親と弟を殺された。俺は怖くて……家族を置いて逃げたんだ」

「そんな……」

「そのあとすぐに俺も殺されたけど……強い後悔と死ぬ前に見た光景がこびりついたように離れなかった。……簡単に忘れられないんだ」


 ウィリアムは泣きそうな表情を隠すように視線を下げる。


「生まれ変わっても、前世の家族を救うことはできない。今は戦争もなくて平和そのもの。拍子抜けというか、気がそがれたというか……自分だけ平和に暮らしていていいのか、って思ってたんだよ。今の家族もいい人たちばかりだし、好きだけどさ。自分の中で消化できないまま、ずっと罪悪感に押しつぶされそうだった。たとえウィリアムの記憶じゃなくても……割り切ることができなかった。だから、それを本に文章にして書いた。それで一区切りをつけようとしたんだ」


 彼はそう言って、リリアンに目を向ける。


「けど、欲がわいたんだ。この本をリリーに読んでほしいって」

「どうして私だったんですか?」

「リリー、校舎の裏庭で本を読んでただろ? 俺、たまに見かけてたんだよ」

「え……そうだったんですか」


 あの裏庭には人が来ない。だから、誰かに見られることを考えていなかった。


「裏庭で見たリリーは、教室にいるときとは違って、感情が顔に出ていた。笑ったり、泣いたり、ハラハラしたり。本のページを捲るたびに表情が変わっていくのが面白かった」

「恥ずかしいです……」

「だから、俺の本を読んだらどんな感想を持つのか、気になったんだよ」


 ずっと本を貸してくれていた。彼は自分の前世を描いた本を貸す機会を窺っていたのだろうか。……そんなこと、全く気付いていなかった。


「接点のなかったのに、リリーは本を読んでくれた。ボロボロと泣いてくれた。……この子に幸せになってほしいって言ってくれた。君にとっては何でもない言葉だったかもしれないけど……自分は幸せになっていいんだって教えてくれた」

「私はただ、本の感想を伝えただけで……」

「でも、君の言葉で俺は幸せになりたいって思ったんだ。それを教えてくれたリリーにも幸せになってほしいと思ってる」


 ウィリアムはこちらをじっと見つめた。


「リリー。君はこれからどうしたい? 象徴になりたい? それとも、元の生活に戻りたい? それとも、ほかの道に進みたい? 君の望む道を教えて。俺は君の幸せのためなら、手を貸すよ」


 ウィリアムの言葉に、ゆっくりと深呼吸をする。自分が行動しない方がいいときもあるのかもしれない。じっとここで待っていれば、時が解決してくれるのかもしれない。それでも、ルシルはいつも聞いてくれていた。


 自分はどうしたいのか。意外にも答えはすぐに出た。


「……ルシルの死を報いたいです。そして、元の生活に戻りたいです」


 その言葉にウィリアムは頬を緩めて、こちらに手を差し出す。


「俺にもリリーが幸せになる手伝いをさせて。ルシルの分もさ」


 リリアンはその手を見て、ウィリアムに問いかけた。


「……私は行動してもいいのでしょうか」

「もちろんだ。一緒に元の生活を取り戻そう」



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