表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛みのリリウム -神に愛された花たち-  作者: 虎依カケル
7章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/95

54話 行き止まり


「エドワード殿下、どうして……」


 リリアンが慌てて跪こうとすると、彼は手で制した。


「オズワルドがせわしなく動き始めたからね。君が戻ってきているのでは、と思ったんだ」


 エドワードに促され、席に着く。彼は「さて」と口を開いた。


「教会で得た情報を教えてくれるかな?」


 どこまで情報を開示すればよいか悩んだ。悪魔や御使いのことは話せない。信じてもらえるはずがないからだ。ひとまず、アルバートの様子と御使いたちの派閥、そしてメアリーの行方についての見解を伝えることにする。


「メアリー様がいない今、実質教会の最上位はアルバート様だと言えます。私の身の回りについても彼が手配していたようでした。御使いたちは決して私を歓迎している様子ではなく、役割を果たせば誰でもよかったようです。私がいなくなっても、別の人が象徴に選ばれるかもしれません」

「御使いはみんな、アルバートに従っているのかい?」

「いいえ。教会の中には派閥があるように見えました。おそらく貴族出身者がアルバート様の側にいるようです。私は平民出身の方とお話することもできませんでした」


 その言葉を聞いて、エドワードは考えるように腕を組む。


「テオドールの側にいた者は?」

「おそらく、アルバート様のお傍にいらっしゃる方たちかと。ですが、あまり信用を得られていないのでしょう。テオドール殿下は彼らに怒鳴っていらっしゃいました」

「そうか……」


 エドワードは険しい顔をした。国民の前ではいつも笑みを浮かべている彼ばかり見ているからか、その表情が珍しく感じた。


「そんなに弟さんが心配なんですか?」


 彼は顔を上げると、意外そうな表情を浮かべた。


「……どうしてそう思う? 僕が反乱分子になりうる第二王子を警戒していると考えないのか?」


 その問いに首を横に振る。彼が弟のことを話す表情に見覚えがあった。アレクシスがいつも自分に向けて話すときと同じ顔をしている。


「殿下はいつも弟を心配するお兄さんの表情をしておりましたから」


 エドワードは目を瞬かせると、ふっと息を吐いた。彼の目元が優しい表情を浮かべる。


「あはは、君には敵わないなぁ。……そうだよ、可愛い弟が心配なんだ」


 彼はそう言って、少し体の力を抜いた。


「僕たちは世間では兄弟仲が悪いと言われているけど、本当はそうじゃない。周りが勝手に派閥を作り、後継者争いをさせようとしているんだよ」

「本人たちは望んでいないのに、そんなことをするのですか?」

「本人たちが望んでいなくても、周りが望んでいるからね。でも、僕はテオドールが王位に興味がないことを知っていた。だから、少しでも政治の場から遠ざけようと考えていたんだけど……そんなとき、彼が御使いではないかという話が出た」


 彼は大きなため息を吐くと、テーブルの上に倒れこむように伏せた。顔だけ上げて、文句を言うように言葉を続ける。


「ほんと、嫌になっちゃうよね。教会が活気つく可能性は簡単に考えられたし……僕は弟を向かわせるにしても別の場所が良いと考えていた。だけど、父である王はテオドールを教会に向かわせることにしたんだ。彼は第二王子を置くことで教会を自身の監視下に置くつもりだったんだろうね」


 彼は腕に顎を乗せて、唇を尖らせる。その姿は拗ねた子どものように見えた。


「おかげで僕は可愛い弟に会うことができない。もう、嫌になっちゃうよ。……それに、テオドールはその役割を果たさなかった。そりゃあ、そうだ。自分に見向きもしなかった人間のために行動しようとなんて思うはずがない」


 その言葉でテオドールの置かれていた状況が想像できた。体が弱く、表舞台に出てくることができない第二王子。王子としての役割を果たせない彼のことを見向きもしない人々。彼はどんな気持ちで城にいたのだろうか。


「だから、せめて弟を象徴の側に置かせることにしたんだよ。当時の象徴、メアリーは……まあ、僕にとって信用に足る存在だった。だから、彼女の元にいれば、あの子も安心なんじゃないかって思ってたんだよ。……あの子がどう思っているかはわからないけどね」

「テオドール殿下は……メアリー様のことを慕っておいででした。少なくとも、私にはそう見えました。


 そう言うと、エドワードは表情を緩める。


「そっか。それならよかった。……でも、その象徴がいなくなった。今、彼を守る者はいない。彼の立場を利用しようとする者が周りに集まっているのは簡単に想像がつく」


 エドワードは姿勢を正すと、こちらに向き合った。先ほどまでの緩んだ空気が消え、ピリッとした空気になる。


「君にお願いがある」

「……何でしょうか」

「もう一度、教会に戻って欲しい」


 胸がつかえるような感覚がした。ゆっくりと深呼吸をしながら、問いかける。


「……私は勝手に教会から出てきました。戻ることはできるのでしょうか」

「君は襲われたから、逃げてきただけだ。そして、オズワルドがそれを保護した。それだけのことだよ。君に非はないし、君はまだ象徴候補に変わりはない。簡単に戻れる」

「でも、私より適した人がいるはずです。私のような素人より、情報収集に優れた人が行った方が確実に情報を得られるでしょう」

「象徴候補になったのは君だ。ほかの人間が行ったら、怪しまれる。君には申し訳ないが、教会に戻ってほしい」

「ですが、私は……」

「お願いだ。教会に行ってくれ」


 エドワードは自分の意見を譲ろうとしない。情報が欲しいこと以外に、彼に目的があるように感じられた。


「……どうして、そんなにも私を教会に行かせたがるのですか?」

「君がいれば……オズワルドが動くだろうから」


 エドワードの信頼は自分ではなく、オズワルドに向いているのだろうと察することができた。彼を動かすために、自分は利用されるのだと。


「……数か月後には、元の生活に戻れますか?」


 以前、交わした約束だった。だが、エドワードは首を縦に振らなかった。


「メアリーの情報があまりにも少ない。彼女がもうこの世にいない可能性も考えないといけない。そうなった場合……君の家族を守ることを誓うよ」


 その言葉を聞いて、前回のようにすぐに返事をすることができなかった。自分は断れる立場にないことは知っていた。それでもすぐには飲み込めなかった。

 返事をしない様子にエドワードは苦笑いをする。


「少しだけ君に時間をあげよう。……後悔がないように」


 別れを済ませたい人がいるなら、するように。そう言っているように聞こえた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ