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愛みのリリウム -神に愛された花たち-  作者: 虎依カケル
7章

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53話 逃げ道


 リリアンたちは、ウィリアムの瞬間移動能力でオズワルドの家の前に来た。


 突然の来客にもかかわらず、彼の従者はリリアンたちを見るとすぐに取り次いでくれた。温かい室内に入ると、オズワルドはいつもの笑顔で迎えてくれた。


「いらっしゃい。俺を頼ってきてくれて嬉しいよ、リリー」

「オズワルド様……」

「君が頼ってくれるのをずっと待っていたよ」


 彼は家の中へと案内してくれる。その端で彼の従者がルシルを連れて行こうとする。


「ルシル……」


 思わず追おうとすると、オズワルドがそれを止めた。


「大丈夫。彼女を綺麗にするだけさ。血の付いた服じゃ、可哀想だからね。……君も」


 自分の服を見れば、ルシルの血で赤く染まっていた。彼女に触れた手も赤い血が付着している。


「着替えておいで。それまでには君の大切な友人を返してあげるから」


 オズワルドの言葉に従って、一度着替えに行く。女性の従者によって湯浴みをさせてもらい、みんなの集まる部屋に戻れば、ルシルはベッドに横たわらされていた。汚れていた服から着替えさせられて、血は綺麗に拭かれている。


「ルシル……」


 ホッと息を吐いて彼女を見ていると、オズワルドに呼ばれた。


「リリー。少し話そうか」


 ルシルに後ろ髪をひかれる思いをしながらも、彼にエスコートされて席に着く。見れば、ウィリアムも席に座っていた。そこにはクライヴの姿はない。


「クライヴには帰ってもらったよ。追って連絡するって。大丈夫。彼は賢い人だから、自分や家族に不利になるようなことは言わないよ……今からは、少し深い話になりそうだからね」


 彼はそう言って笑うと、リリアンとウィリアム、そしてルシルに目を向けた。


「さて……。まさかリリーがここに来てくれるなんて思わなかった。君は教会に入ることを俺に教えてもくれなかったから、少し寂しかったんだ」


 オズワルドはそう言いながら、寂しそうに眉を下げる。


「オズワルド様なら、ご存じかと思って……」

「君が象徴候補になっていることは知っていた。けれど、すぐに教会に入るとは考えていなかった……エドワードに嵌められたよ」

「エドワード殿下ですか?」


 そういえば、オズワルドが迎えに来ると言っていた日、彼はエドワードの依頼で約束を守ることができなかったはずだ。そして、その日のうちにリリアンは彼に呼び出された。


「あいつ、このことを事後報告してきたんだ。君を巻き込めば、俺を巻き込むことができると考えていたんだろう……本当、性格悪いよな」


 口ではそう言いながらも、仕方がないといった様子だった。


「君たちの様子から、だいたいのことは予想できる。おそらく、教会で襲われたんだろう。そして、一人が犠牲になったと」


 オズワルドがルシルに目を向ける。彼女は眠っているように目を閉じていた。少し経てば「寝てたー!」と言いながら起き上がってきそうだ。


「……はい」


 オズワルドはこちらを見ると、心配するような表情を浮かべる。


「……一人で大変だったね、リリー」


 その言葉に首を横に振る。


「私一人ではありませんでしたから……」

「そうだね。教会から遺体を連れて出るには、足での移動は無理だ。そうなると……移動能力、つまり御使いが味方にいるね」


 オズワルドはウィリアムの方に視線を向ける。ウィリアムは汗をかきながら、ゆっくりと彼の視線を避けた。


「ほかにも手を貸した者がいるようだけれど……」


 彼はリリアンの後ろを見た。誰もいないそこを睨むように見つめると「まぁ、いい」と呟く。


「リリー、大丈夫だよ。あとは俺に任せて、今日は休んだほうがいい。また明日、話そう」

「……ありがとうございます」


 オズワルドの言葉にお礼を言う。そして、それぞれ客室に通されて休むことになった。


 用意してもらった部屋は以前、猫として生活していたときよりもずっと広い部屋だった。昨日まで、隣にはルシルがいた。慣れない部屋にいても寂しくなかった。それよりも広い部屋に一人でいるのは、心細く感じる。


 ……一人で教会に入れば良かった。それなのに、ルシルを巻き込んでしまった。自分が何もしなければ、彼女は死なずに済んだかもしれない。


 今日も時が経てば過去になる。以前、メアリーがそう言っていた。わかっていたはずなのに、どうして後悔をするようなことをしてしまったのだろうか。


 時は戻すことができない。もう、ルシルを救うことはできない。彼女は……もうここにはいないのだ。


「ルシル……」


 気を抜けば、涙がこぼれそうだった。熱くなる目元を両手で覆う。

 その日は到底眠れるはずもなかった。




 次の日、朝食を摂るために、食堂へと案内された。頭が回らず、ぼーっとしてしまう。眠い目をこすりながら歩いていると、ウィリアムと合流した。


「リリー、大丈夫か」


 彼は心配そうな面持ちでこちらを見ている。心配させないようにと笑みを作った。


「大丈夫ですよ」

「……そう」


 彼は眉を寄せて視線を下げる。それ以上、何も聞いてこなかった。

 食堂に着くと、オズワルドが迎え入れてくれた。彼はリリアンの顔を見て、眉を下げる。


「眠れなかったんだね、可哀想に。お腹は空いているかい?」

「大丈夫です。私は、大丈夫」


 そう答えても、彼は表情を変えなかった。


 朝食は三人で取った。オズワルドはこの家を自由に使っても良いという。それ以上内容に触れようとしない彼に尋ねる。


「オズワルド様、私は……」

「君は何もしなくていいよ。俺がすべて解決するから」

「ですが……」

「リリー。もう誰も失いたくないだろう?」

「…………」


 そう言われてしまえば、黙るしかなかった。けれど、ホッとしている自分もいた。それが情けなかった。

 そのまま何も情報共有されることなく、朝食を終えた。


「俺は用事があるから。リリーは休んでて」


 オズワルドはそれだけ言うと、早々に外へと出ていった。


「リリー……」


 ウィリアムが声をかけてくれる。だけど、一人で考えたかった。


「ごめんなさい、リアム。一人にしてくれますか?」

「……わかった」


 彼はうなずくと、リリアンから離れていった。


 リリアンは一人で部屋に戻った。ベッドの上に横たわって、昨日の情景を思い出す。

 自分がクライヴを助けようとした。そんな自分をルシルが庇った。


 変わりたくて、自ら教会に向かったが、こんな風に変わりたくなかった。


 いつも隣にいたルシルがいない。三人で楽しくお喋りをして過ごした時間はもう戻らない。


「ルシル……」


 やはり、自分はここにいてはいけない存在だったのだ。自分が存在したら、周りがどんどん不幸になる。


「……神様。不幸になるなら、私だけにしてください」


 ベッドの上でうずくまって泣いていると、扉がコンコンと叩かれる。


「リリアン様」


 外からオズワルドの従者の声が聞こえる。


「……はい」


 涙をぬぐって起き上がると、その人は扉を開けて声をかけた。


「お客様がお待ちです」

「お客様……ですか?」


 リリアンがこの家にいることを知っている者は限られる。そうなると、クライヴだろうか。

 オズワルドは外出している。彼がいない中、自分が家主のように対応していいものか。そう悩みながらも、起き上がって扉に向かい、従者のあとをついて行く。応接間に案内されて中に入ると、リリアンは息を飲んだ。


 暗い緑色の髪を持ったその人は、柔らかく笑みを浮かべてこちらを見ていた。


「久しぶりだね、リリアン」

「……エドワード殿下」


 そこにいたのは第一王子、エドワードだった。



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