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愛みのリリウム -神に愛された花たち-  作者: 虎依カケル
6章

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49話 アルバートとのお茶会


 その日の夜、リリアンのもとに手紙が届けられた。アルバートからのお茶会への招待状だった。


 アルバートは初日に顔を合わせて以来、一度も姿を現せていなかった。このタイミングでのお茶会は、ディアドラが言っていた面談……おそらく品定めということなのだろう。


「私は、彼に気に入られるべきなのでしょうか。それとも象徴にすることを考え直させるように振る舞うべきなのでしょうか」


 リリアンの問いに、ルシルは眉間に皺を寄せた。


「エドワード殿下は数か月後に元の生活に戻してくれるとは言っていたけど……その方法を知らないから、確約ではないわ。もし、エドワード殿下に何かしらの考えがあるのなら、象徴になるのを引き延ばすのがいいんじゃないかしら」

「どうやったら引き延ばせるのでしょうか……」


 相談しようにも、ルシルと二人しかいなかった。ほかに相談できる人にレジーナが思い浮かんだ。


 そっとは独り言のように「レジーナ様」と呟いてみる。だが、レジーナは現れなかった。



 お茶会の日、リリアンはやっと自室を離れることができた。


 久しぶりに出る廊下には、よく部屋に来る御使いたち以外にも姿を見ることができた。


「あの……リリアン様」


 子どもの声が聞こえた。後ろを振り返ると、幼い少女が立っている。恰好から御使いだとわかるが……ずいぶんと古い服を身に着けていた。おそらく、平民の御使いなのだろう。

 彼女がリリアンのもとに走ってくる。だが、たどり着く前に、目の前を御使いたちがふさいだ。


「これ以上、リリアン様に近づくな」


 御使いたちは彼女と目線を合わせることなく、冷たい目で見下している。


「私はその……リリアン様にお話があって」


 彼女は服をぎゅっと握り締める。そして、こちらに目を向けた。

 懇願するような視線に思わず口を開きそうになった。だが、そんなリリアンの肩を叩いたのはディアドラだった。


「ここで時間を無駄にすることは許されません。行きましょう」


 彼女に誘導され、歩かざるを得なくなった。周りを御使いたちに囲まれながら、彼女の横をすり抜ける。


「あ……っ」


 少女はこちらに手を伸ばすが、ゆっくりと手を下ろして、視線を下げた。

 周りに平民の御使いたちが少女のもとに駆け寄る。彼女に慰めるように声をかけると、こちらを睨んだ。


「…………」


 リリアンはゆっくりと視線を前に向けて、振り向かないように歩いた。



 案内をされて向かうと、アルバートは既に待っていた。座るよう促され、席に着く。彼はリリアンを見ると、人の良さそうな笑みを浮かべた。


「君と一度話してみたかったのです。ここでの生活はどうでしょう?」


 その問いに笑みを浮かべて、当たり障りのない返事をする。


「慣れないこと、知らないこともたくさんありますが、いろんなことを教えていただけるので、とても勉強になっています。学園でも勉強をしていましたが、こちらのように教会や神について深く学ぶことがありませんでした」

「学園ですか……。実は、私は学園に通っていませんでした」

「そうなのですか?」


 メアリーも学園に通ったことがないと言っていた。象徴や御使いたちは学園に通っていない者が多いのだろうか。


 その考えを見透かしたのか、アルバートは微笑みながら教えてくれる。


「学園で学んでから御使いになる者もおりますが、私は早いうちに御使いになりましたから、家庭教師がついていたんです。その人に色々なことを教わりました。恥ずかしながら、まだまだ未熟ですので、いまだにその先生から教わることが多いですよ」

「いつから教会へ?」

「十歳のころからです。それまでは、実家の領地で尊敬する伯父から様々なことを教えてもらいました。私は伯父に可愛がられていて、いろんなことを学び、時にはカードゲームをしました。伯父は大人げないので、いつも負かされていましたよ」


 アルバートは懐かしそうに目を細め、思い出話を語ってくれる。その様子は少年のようで、何かを企んでいるような人間には見えなかった。


「その伯父様は、今どうしていらっしゃるんですか?」

「……十年以上前に亡くなりました。彼が亡くなってからは、途方に暮れていましたが……このままではいけないと奮起しているところです」


 彼はそう言ってこちらを見た。その瞳は先ほどまでの優しい色が消えている。


「リリアン様。君は自分が象徴になることをどう思いますか?」


 面談が始まったのだろう。背筋を伸ばして、ゆっくりと息を吐く。そして、にこりと微笑んで答えた。


「私なんかが象徴になるなんて、おこがましいと考えています。ここにいられるのは、周りの人たちが支えてくれているからです」

「そうですか」


 彼はそれだけ答えると、カップを取ってお茶を口に含んだ。


「では、前の象徴についてどう思われていましたか? とても親しそうに見えましたが」

「メアリー様はとてもよくしてくださいました。それだけです」

「そうですか」


 彼はまたしてもそれだけ言う。アルバートがどのような回答を求めているのか、わからなかった。だが、自分の答えにあまり興味がなさそうだということは、彼の態度から伝わってきた。


「私も質問をしてもよろしいでしょうか?」

「何でしょうか」

「……もし、メアリー様が戻ってきたら、どうするのですか?」


 その問いにアルバートはなんてこともないように微笑んだ。


「戻ってくるはずがありません。リリアン様が気になさることではありません」

「どうして、そう言い切れるのでしょうか」

「……戻ってこないとわかっているからですよ」


 彼はこちらをじっと見つめる。深く聞きすぎたようだ。


「そうなんですね。わかりました」


 物わかりの良い生徒のように返事をしてごまかす。すると、廊下から騒がしい声が聞こえた。


「お待ちください、殿下……!」


 扉が突然開かれた。そこにいたのは、以前メアリーの側にいた御使い。

 周りにいる者は慌てて彼の前に跪く。座っていたアルバートも彼の前に跪く。


「テオドール殿下……」


 なかなか会えずにいた第二王子、テオドールが目の前にいた。



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