47話 教会の授業
午後からは教会について学ぶことになった。
教師役の御使いが部屋に来て、基礎的なことから教えてくれる。授業の内容は、知っていることもあれば、知らないことも多くあった。だが、その内容の多くは教会にとって都合の良いうわべだけのもののように思えた。
「象徴は神に愛されておられます。けれども、御使いではありません。象徴は御使いの言葉を聞き、神の言葉を授けるのが仕事です」
そう説明をされ、リリアンは不思議そうに首をかしげた。
「けれども、メアリー様は象徴であり、御使い様でしたよね」
その言葉に教師役である御使いは嫌な顔をする。
「……そのような者はもうおりません。あなたが象徴になるのですから」
それを聞いて、レジーナの言葉を思い出した。教会は今、二つの派閥に分かれている。きっとこの御使いは第二王子派閥なのだろうと。
「では、あなたは私にどのような象徴になってほしいのですか?」
「ただ私たちの言葉を聞き入れ、人々に授ける存在になれば良いです」
教師役の御使いが去り、休憩に入る。けれども、監視するかのように部屋には人が残っていた。
今、この教会を管理しているのは、アルバートだ。教師役を派遣したのも彼だろう。そうなると、ここにいるのは教師と同じで第二王子派閥なのかもしれない。
ディアドラは終始リリアンの隣に立っていた。そんな彼女に声をかけてみる。
「皆様も御使い様なのですよね。同じ御使いとしてテオドール殿下がここにいらっしゃったと聞きました。彼はどのようなお方ですか?」
「あなた様が気にするようなことではございません」
「いつか、私もお会いになれますでしょうか」
さらに質問をすると、こちらを煩わしそうに見た。
「不要な詮索は身を滅ぼしますよ」
その反応を見て察した。彼らが自分をこの教会へ入れたが、それは自分ではなくても良かったのだ。
「……そうですね、わかりました」
不要だと思われないよう、それ以上の質問は避けた。
リリアンは大人しく授業を聞きながら、周りをじっと観察していた。
周りに来る人は固定されていた。御使いには貴族出身の者と、平民出身の者がいる。喋り方や身に着けている物からして、彼らは貴族出身の者なのだろう。
休憩時間となり、ディアドラに問いかける。
「ここに来てくださる方は同じ人ばかりですね。他の御使いの方はいらっしゃらないのですか?」
彼女は同じように部屋に視線を巡らせる。
「おりますが、ここに来ることはないでしょう。ここに来ない御使いは皆、貴族ではありませんから」
「ですが、神の使いなのは同じではないのですか?」
「まさか。我らは生まれながらに神に選ばれた貴族であり、さらに御使いなのです。平民たちとも、ただの貴族たちとも違います」
彼女は当たり前のように言った。教会にいる貴族たちは御使いである自分たちを特別な存在だと思っているようだ。
「そうなのですね。無知でごめんなさい」
「余計なことは考えず、目の前のことに集中してください」
彼女はちらりとルシルを見て言葉を続ける。
「さもないと、あなたの大切な人がいなくなってしまいますよ」
どういうことだろう、と思って問いかけようとしたが、教師役の御使いが部屋に来たことで、会話は終了した。
ここにいない御使いのことを考える。教会は午前に平民、午後に貴族のために開かれる。平民に向けて開かれているときは、おそらく平民の御使いが顔を出しているだろう。その場に……メアリーも一緒に参加していたのだろうか。もし、参加していたのなら……メアリーの派閥は平民で構成されていてもおかしくない。
レジーナが言っていた派閥は身分によって分かれている可能性がある。そんなことを思いながら授業を聞いていた。
午後、教会にクライヴが顔を出した。同じ家で暮らしていたときは顔を合わすことがなかったため、不思議な気持ちになる。
「調子はどうだ」
クライヴは口ではそう言いながらも、その表情に心配している様子はない。
「おかげさまで。クライヴ様に来ていただけて、嬉しく思います」
「教会について学んでいるようだな。どのように思っている?」
「特にございません」
何でもないようにそう答える。彼は得た知識に対して、何かしらの感情を抱くことを望んでいないと考えたからだ。
クライヴはその言葉を聞いて、少し考えるように黙った。
「……ナタリアからお前は賢い子だと聞かされている。だが、試験の結果はいつもひどいものだった」
ナタリアがそこまで話しているとは思わず苦笑した。
「そうですね。私は勉強が苦手ですから」
「だが、最後のテストは今までと比べものに良かったはずだ。今までの試験を意図的に低い点数を取っていたとしたら、お前は馬鹿ではない……何を考えている?」
クライヴはこちらを見定めるように見る。それに対して背筋を伸ばして、にこりと微笑む。
「クライヴ様の望むことに応えられたら、と考えております」
「では、私の望むことは何だと考えている」
「こうしてあなたとお話をすることでしょうか?」
クライヴが望んでいるのは、リリアンと会うことで、教会に入りやすくなることだと思っている。
彼が教会か王族、どちらについているかはわからない。だが、こうして親という立場を使って、わざわざ会いに来たのには目的があるからだろう。
意図が伝わったかはわからない。だが、彼は少し考える素振りを見せると、改めて質問をした。
「……お前は何を望んでいる?」
「私の大切な人たちの幸せを望んでいます。クライヴ様。あなたの幸せは何ですか?」
その問いにクライヴは笑った。
「その大切な人に、私が入っているのとでも?」
「そうですね……入っていないですね」
その返事にクライヴの眉が少し動いた。それ見て、小さく笑う。
「けれども、養母様はあなたのことを大切に思っております。だから、私もそんなあなたのことを知りたいと思ったのです。……いつか、大切に思えたらと思いますよ」
「…………」
彼は眉間に皺を寄せる。何か言いたそうに口を開いたが、視線を下げた。
「そんな感情、不要だ。捨てなさい」
リリアンはそれには答えず、ただ笑みを浮かべた。




