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愛みのリリウム -神に愛された花たち-  作者: 虎依カケル
6章

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45話 教会


 そこにいるべき人間ではなかった。だが、ルシルはリリアンの前に現れた。


 長かった髪はバッサリと切られており、その腰には剣を身に着けている。……その姿はまるで騎士のようだった。


「ルシル、あなた……」


 彼女は目が合うと、眉を下げて目を細める。そして、リリアンの前で膝をついた。


「私はあなたの護衛として、今後ともに行動をさせてもらいます」


 その言葉に驚いていると、ルシルは少し笑った。けれど、すぐに表情を消して頭を下げる。

 アルバートは何でもないように二人に向かって言う。


「明日から、教会のことを学んでもらいます。今日は休みください」


 彼はそう言ってこちらに目を向けると、すぐに視線を外してその場を去った。

 二人だけで残され、周りに目を向ける。


「…………」


 こちらを見る御使いたちはリリアンのことを歓迎している様子はなかった。





 リリアンは自室に案内された。自室と言っても客室のようで、仮の部屋だということがわかる。


「はじめまして、リリアン様。ディアドラと申します」


 部屋で待っていたのは、老齢の女性だった。恰好からして、彼女も御使いだろう。彼女は礼の姿勢を取り、こちらに向き合う。


 白い髪の混じった茶色の髪を丁寧にまとめ上げられており、身なりもキッチリと整えられている。背が高く、スラっとしている。厳しそうな面持ちで立っていた。


「初めまして、ディアドラ様。リリアンと申します」


 こちらも礼の姿勢を取ると、彼女は首を横に振った。


「敬称は必要ありません。ディアドラとお呼びください。今日からあなたの従者となりますゆえ」


 その言葉から察するに、おそらく、今後の監視役なのだろう。警戒の色を表情に出さないように、にっこりと微笑んだ。


「わかりました、ディアドラ。これからよろしくお願いいたします」


 彼女はゆっくりと部屋を見渡す。


「ここは一時的な部屋となります。あなたはまだ正式な象徴ではないため、象徴の部屋を空けるわけにはいきません。ご理解をお願いいたします」


 その言葉に、少しホッとした。教会がまだ正式な象徴だと認めていないということは、帰れる可能性が高いということだ。

 決心してここに来たにもかかわらず、不安になっている自分に苦々しい気持ちになる。


「とはいえ、こちらで生活できるように整えております。リリアン様が持ち込んだものもすべて、部屋の中にあります。不自由はしないと思います」


 ディアドラはそれだけ言うと、扉の前へ向かった。


「午後からは教会について学ぶこととなります。それまで、休憩となります。食事をお持ちしますので、しばらくお待ちください」


 彼女はそう言うと、部屋を出て行った。ルシルと二人になり、彼女と向き合う。


「ルシル、あなたは御使いだったのですか?」


 髪の短いルシルはどこか落ち着かない。何より、彼女が来ているのは聖職者の服……それは御使いしか着られないものだ。ルシルは眉を下げてリリアンの手を取る。


「……黙っていてごめんね。御使いだってことをずっと隠して生きていたの。けれど、自分の意志で教会に入った。これからは私がリリーの剣として傍にいるから」

「そんな、私はそんなことを……」

「私がしたいと思ったの。……リリーを守りたい」


 ルシルはリリアンを見る。その瞳に映っているのは覚悟と不安だった。


「どうしてって聞いてもいいですか?」


 彼女は瞳を揺らして、目を細める。


「私はずっと後悔していることがあるって、前話したわよね? 私、ずっとそれを消化できずにいたの」


 それは確か、ルシルが剣を習いはじめたキッカケだった。大切な人を守れなかった、ルシルの過去の話。彼女はずっとそれを捨てることができずに抱えていたのだろう。


「だから、次こそ大切な人を守りたいって思ったの。リリーを守りたいって。……これは私のワガママ。付き合わせてごめんね」


 彼女は巻き込まれたのではなく、自らの意志でここにいる。そして、自分がその後悔を晴らす手伝いができるのなら……彼女を受け入れたいと思った。


「傍にいてくれてありがとうございます。とても、心強いです」


 そう答えると、ルシルは嬉しそうに笑った。




 午後からは教会の中を案内してくれた。

 礼拝堂にはよく行っていたが、その内部がどのようになっていたかまでは知らなかった。豪華な調度品が飾られており、手入れが行き届いているのがわかる。


「礼拝堂はよく行かれるでしょうから、案内は不要でしょう」


 ディアドラはそう言いながら、歩みを進めていく。

 客をもてなしたり、御使い同士がお茶会をしたりするというお茶室、御使いたちが使用する食堂、その近くには御使いたちの部屋と案内していく。


「そして、こちらが貴族たちもたびたび仕事をする事務所です」


 見れば、そこにはクライヴの姿があった。御使いたちと何か話しているようで、こちらを見ようとはしない。彼は普段は王族のいる城で働いていることが多いが、こうして教会にも足を運ぶと聞いている。リリアンは彼の姿を横目で見ながら、通り過ぎて行った。


「この奥が象徴の部屋となります。まだ、前の象徴の荷物が残ったままになっておりますので、入らないようにしてください」


 象徴の部屋は教会の一番奥にあった。御使いたちの部屋よりもずっと広く感じる。


「あなたは正式な象徴になるまでは、出歩くことは少ないでしょう。もし出歩くとしても、迷われてはいけませんから、何かあったら私にお申し付けください。ともに行動いたします」


 これですべてだと言わんばかりに、彼女は元来た道に戻ろうとした。


「ここには庭園もあるようですね。私も行くことはできますか?」

「……そうですね。ですが、今は行くことができません」

「どうしてですか?」

「行く必要がないからです」


 彼女はそう言い切ると、歩きはじめる。


「では、お部屋に戻りましょう。今日は案内だけでしたが、明日からは教会に関する知識を学んでいただきます。勉強はお得意ですか?」

「どうなんでしょう……。ディアドラが見極めてくださいませんか?」

「そうですか」


 彼女はこちらを向かずに進んでいく。その背中を見てからそっと後ろを見る。

 あそこがメアリーの過ごしていた部屋。彼女はどんな思いであそこにいたのだろうか。……そして、今、どこにいるのだろうか。


 彼女の居場所を知りたい。それを知るためにはどのように動くべきだろうか。


「…………」


 リリアンは象徴の部屋に背を向けて、ディアドラのあとをついて行った。



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