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愛みのリリウム -神に愛された花たち-  作者: 虎依カケル
5章

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43話 帰る場所


 家に帰ると、ナタリアが出迎えてくれた。しばらくずっと彼女はリリアンを見ると泣きそうな顔をしていた。だが、やっと割り切ることができたのか、最近はいつものように振る舞ってくれている。


「おかえりなさい、リリー」

「ただいま、養母様」


 二人で食事を取って一息吐くと、ナタリアが立ち上がってリリアンのところに来た。


「リリー。二人で話したいの。子どものころのように、私の部屋でお話しない?」


 養女としてこの家に来てから、ナタリアとよく彼女の部屋で話をしていた。今日の食事はどうだったとか、窓の外から虹が見えたとか、そういうくだらない話ばかりをしていたが、彼女が嬉しそうに笑うので、毎日何を話そうかと考えていたものだった。けれど、学園へ通うようになってからは、その機会がなくなってしまった。


「はい。お話ししましょう」


 ナタリアの手を取って立ち上がると、彼女は嬉しそうにした。


「こうやって手を繋ぐのも久しぶりね」


 彼女は手を繋ぎ、身を寄せる。リリアンも彼女の手を握り返して、彼女の肩に肩をすり寄せた。

 ナタリアの部屋にお茶を運び込ませ、二人はカップを取った。


「こうやって二人で過ごすのを、あと何回できるのかしらね」


 彼女は少し視線を下げながら、そうこぼす。


「何かあったら……クライヴに助けを請いなさい。きっと助けてくれるわ」

「クライヴ様に……ですか?」


 リリアンの言葉にナタリアは小さく笑った。


「あなたは本当に……養父様って呼ぶように言っているのに」

「あの人が私のことを娘と思ってくれているか、わかりませんから……」

「クライヴはとても真面目だから、勘違いされやすいのだけれど……不器用で優しい人なのよ」


 ナタリアは目を細めてこちらを見る。


「あの人の父親も仕事人間で、あまり家に帰っていなかったから……そうするのが父親の姿だと思っているみたい。家に帰ってきても、どう振る舞えばいいのかわからないのよ」


 ナタリアは仕方なさそうに、少し嬉しそうにクライヴのことを話しはじめる。


「生まれも育ちも仕事人間で、感情を置いてけぼりにしているみたい。色々と考えているみたいだけれど、口にしない。ただ、義務とか責任とかばかりを考えて行動するの。だから、私も追い込まれて……今思えば、心配してくれてたんだと思う」


 クライヴについて、ナタリアから話に聞いたことはあった。

 だが、当時の彼女からこぼれてきたのは愚痴ばかりで、とても良い人には思えなかった。


「体は大丈夫か。無理すると妊娠もできないぞ。って、気にしている人にかける言葉じゃないわよね? でも、ただ子を望んでいた私を励まして、心配をしてくれてたんだって気づいたのは、あなたが来て少し落ち着いてからよ」

「言葉だけ聞くと責めているように聞こえますね」

「でしょう? 私もすごく傷ついたわ。でも、昔から不器用な人だったって忘れてたの」


 ナタリアは何かを思い出したように笑うと、楽しそうにリリアンを見た。


「そうそう。初めてのお出かけで、あの人が連れて行ってくれたところ、どこだかわかる?」

「どこに行かれたのですか?」


 彼女はくすくすと笑って、答えを教えてくれる。


「教会よ? それも、喋ることなく神に祈るだけ。あきれちゃったわ」

「教会、ですか……」


 たしかに教会は人々にとって特別な場所だ。だが、婚約者と出かけるような場所ではない。


「でも、教会に関わることの多い彼の家では、教会は一番身近で大切な場所だったと思うわ。そこに一緒に行ってくれたのは、彼なりの歩み寄りだったと思うの」


 ナタリアはカップを手に取って、口をつける。ふぅと息を吐くと懐かしそうに目を細めた。


「それから、何度も教会に行ったわ。結婚してから、子ども……アレクシスが生まれてからも。気づけば、その時間がとても大切なものになったのよ」


 リリアンもこの家に来てから、家族で何度か教会へ行った。そのときはクライヴは一緒にいなかったが……彼が家族にしてくれたことを、家族も自分にしてくれていたのだと知り……少しだけ、彼の存在が近くなったように感じた。


「あの人は本当に不器用なの。家に帰ってきても、自分から話そうとしない。だから、私からたくさんお喋りするの。リリーが試験で二位になったとか、アレクシスが武器をリリーにこっそり持たせてたとか……」


 仕事で疲れている夫に対して、ナタリアが遠慮なく一方的に話しているのはわかった。その姿が想像できて、つい笑ってしまう。


「クライヴ様はどんな反応をされるのですか?」

「そうかとか、わかったとか、そんなことばかり。でも、私の話を遮ることはしないし、話が終わるまでずっと聞いていてくれるわ」


 彼女はこちらを見ると、笑みを浮かべる。


「あの人は……リリーのことも本当は気にしていたわ」

「私のこともですか?」

「ええ。拾った猫にはちゃんと餌を与えろって」

「……それって、本当に心配してますか?」


 リリアンが苦笑いしても、ナタリアはうなずく。


「しているわ。ちゃんと家族としてお金を使えって意味よ」


 ここまで来ると、ナタリアが都合よく解釈しているように聞こえてくる。

 彼についてどう判断すれば良いか悩んでいると、ナタリアは優しい瞳で見つめていた。


「アレクシスはまだ見習いの身だから、仕事で教会へ行くことが少ないだろうけど……教会に入れば、クライヴと関わることが増えるかもしれないわ。もし、話すことがあったら、よく見てちょうだい」


 今まで関わってこなかった家族の一人。彼と仲良くすることができるだろうか。


 気難しそうな顔の彼は、自分を家族として認めてくれているかもわからない。……そんな彼と歩み寄れるだろうか。


「リリー。あなたも、真面目なところがあるわ。役目とか、責任とか……そういうものを簡単に背負ってしまうのは、あなたの悪い癖よ」


 ナタリアは立ち上がってリリアンの隣に立った。自分も立ち上がると、彼女と目が合う。今まで大きく感じていた彼女は、もう同じくらいの背の高さになっている。もう彼女に守ってもらえるだけの存在ではなくなったんだと感じた。


「あなたは一人じゃないの。私やアレクシス……それに友達がいるでしょう? 頼っていいのよ。私たちはあなたを助けたいと思っているんだから」


 彼女はそう言って、リリアンの手を取る。


「私にできることは少ないかもしれない。でも、親として、子どもの独り立ちを見届けることはできる」


 彼女はそっと抱きしめてくれた。優しいぬくもりが包み込む。


「いってらっしゃい、リリー。そして、いつでも帰っていらっしゃい。ここは、あなたの家よ」

「……帰ってきてもよいのですか?」

「もちろんよ。私はあなたが戻ってくるのをずっと待っているわ。……あなたは大切な私たちの大切な家族ですもの」




 ナタリアの部屋から出ると、アレクシスが帰宅していた。


「母様の部屋にいたのか」


 ナタリアはリリアンに続いて部屋を出ると、見せつけるように抱きついてきた。


「そうよ。二人で秘密の話をしていたの」

「そうですね。秘密の話をしていました」


 ナタリアと顔を見合わせて笑う。それを見て、アレクシスは考えるようにこちらを見た。


「じゃあ、次は俺と秘密の話をしようか」


 彼の提案にくすくすと笑ってうなずく。


「私も義兄様とお話したいです」


 彼はふっと微笑むと、ポンとリリアンの頭を撫でた。


「じゃあ、着替えるから少し待っていてくれ」


 彼はそう言うと、自分の部屋に入っていった。リリアンは彼が戻ってくるまでにお茶の用意をさせる。彼は戻ってきて、向かいの椅子に座った。


「母様とどんな話をしていたんだ?」

「クライヴ様のお話を聞いていました」


 彼はそれを聞いて、少し考えるように腕を組む。


「たしかに、リリーはまだ、正式は象徴ではないから、礼拝堂に顔を出すことは難しいだろう。だから、俺と会うことも簡単じゃないと思う。父様と関わることは大切かもしれないな」

「養母様にも同じことを言われました。私は顔を合わせることが少なかったので、どういう方なのか知らなかったのですが……家族思いな方なんですね」

「家族思いかどうかは知らないな」

「え?」


 アレクシスは少し笑ってこちらを見た。


「でも、悪い人ではないと思う。真面目で堅物なだけで、悪いことをする人じゃない」


 彼は真剣な表情をして、椅子の背もたれに背中を預ける。


「教会は今、不安定な状態だ。リリーを助けてくれる人も少ないかもしれない……何かあったら、父様に言ってごらん」

「義兄様にとっても、クライヴ様は頼れる人なんですか?」

「父様は子どものころ、なかなか構ってくれなくて、好きではなかった。だが、努力をすれば、認めてくれた。今もそうだ。私の目標なんだ」

「そうなんですね……。私もクライヴ様に興味を持ちました」


 それを聞いて少し表情を崩してから、背筋を伸ばした。


「でも、父様が助けてくれなかったら、私を呼んでくれ。きっと助けになろう」

「ふふふっ、助けてくれるんですか?」


 からかうように言うと、彼は優しい笑みを浮かべた。


「もちろんだ。私は君のかっこいいお兄さんだからね」


 その言葉につい頬が緩んでしまう。義兄はずっと優しい人だった。優しくて、かっこよくて、頼りがいのあるもう一人のお兄さん。


「ありがとうございます……私のかっこいいお兄さん」



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