39話 似ている幼なじみ
迎えに来ると言っていたオズワルドが来なかった。彼の代わりの来たのは、オズワルドの従者だった。リリアンが猫として暮らしていたとき、世話をしてくれていた初老の男性だった。
「オズワルド様はやむを得ない事情で、来られません。代わりに私が送りましょう」
うやうやしく頭を下げる彼に甘えて、リリアンは馬車に乗った。
「あの、オズワルド様は……」
「オズワルド様はエドワード殿下の依頼を引き受けていらっしゃいます」
「そうなのですか……」
彼は優しく笑みを浮かべると、思い出話をするように教えてくれる。
「二人は兄弟のように育ちました。オズワルド様の方がエドワード殿下より、早く生まれましたから、兄のように甘えていらっしゃるようで、よく仕事を頼まれるのです」
生徒会室の前で二人が仲良く話していたときのことを思い出す。生徒会で一緒というだけでなく、幼いころから一緒だからこそ、あの距離感なのだろう。
「オズワルド様は何とか調整しようとされていました。ですが、あの方のお願いだと、オズワルド様も無下にできないのです」
彼は自分の周りにいる人たちに優しい。だから、自分にも優しくしてくれるのだろう。
「オズワルド様はやはりお優しいですね」
その言葉に、従者は目を細めた。
学園に着くと、ウィリアムとルシルに左右を固められた。相変わらず、教室の中でも外でも視線を集めている。どんな噂話がされているのか不安に感じていると、二人はリリアンの肩を叩いた。
「大丈夫だよ、リリアン」
「私たちの仲の良さを見せつけましょう?」
二人の言葉につい笑みがこぼれてしまう。
「そうですね!」
視線を集めながら過ごしていると、同じ教室の生徒に話しかけられた。
「リリアンさん。生徒会長が呼んでいたよ。授業が終わったら生徒会室に行って欲しいって」
「生徒会長ですか……?」
生徒会長といえば、第一王子はエドワードだ。リリアンはオズワルドに会いに生徒会室へ行ったとき、少し話したくらいにしか関わりがない。
「どうして私が……」
その生徒はウィリアムとルシルの方に目を向けた。
「友達も連れてきていいって言っていたよ」
そう言うと、その生徒は三人から離れていった。
「今回の象徴候補の話かもしれないな……」
ウィリアムが考え込むように腕を組む。
「教会のことで王族が口を出すの?」
「今だからこそ、教会に口を出したいだろ。第二王子もいるんだから」
象徴候補と言っても、噂程度だ。時が経てば消えてなくなるだろうと思っていた。
「でも、私が象徴候補だということが、王族にとって何か良いことでもあるのでしょうか」
ウィリアムはわからないというように肩をすくめる。
「とりあえず、ありがたいことに俺たちも行っていいと言葉をいただけた。三人で挑んで、三人で考えよう」
放課後、ウィリアムとルシルに付き添われて生徒会室に来た。ノックしようとすると、先に扉が開いた。
「いらっしゃい! 待っていたよ!」
屈託のない笑顔が三人を迎え入れてくれる。扉の向こうに立っていたのは第一王子のエドワードだった。
「お招きいただき、ありがとうございます」
三人が礼の姿勢を取ると、彼は満足そうに笑みを浮かべた。
「さあ、座って。オズワルドのお気に入りのお茶を振る舞おう」
ウィリアムとルシルが苦笑いをしながら、リリアンを挟むようにして椅子に座る。
オズワルドを訪ねてここに来たとき、彼もエドワードのお気に入りのお茶を振る舞ってくれた。お互いに同じことをやっていて、思わずくすりと笑ってしまった。
「どうしたんだい?」
エドワードが興味深そうにこちらを見た。
「いえ。エドワード殿下とオズワルド様はよく似ているなと思いまして」
「オズと? まさか、似てないよ」
彼は指折りしながら似てないところを挙げはじめる。
「僕は彼ほど執念深くない。こだわりも強くないし、冷たくもない。あとは……」
彼が視線を上げると、茶菓子が運ばれてきた。
「美味しいものは誰かと一緒に食べたいと思う方だよ。オズワルドは一人で楽しみたいようだからね」
エドワードは両手を広げると満面の笑みを浮かべた。
「さあ一緒に食べよう! これはね、オズワルドが食べるために取り寄せた果物で作ったケーキなんだ。彼はこだわりが強いからね。美味しいよ」
「…………」
三人は苦笑いしたまま何も言えなかった。
お茶とケーキを一通り楽しんだあと、リリアンは本題を切り出した。
「エドワード殿下」
「どうしたの? おかわり?」
「いえ、私が呼ばれた理由は何でしょうか」
エドワードはカップを置いてリリアンと目を合わせた。笑みを浮かべて、こちらの様子を確かめるように口を開く。
「じゃあ、単刀直入に聞こうか。……君は神の寵愛者かい?」
その問いに対して、すぐに首を横に振った。
「いいえ、私は神の寵愛者ではありません」
はっきりとした答えにエドワードは面白そうに微笑む。
「どうしてそう言えるのかな?」
「私が……神に愛されるわけがないからです」
証拠はない。だが、確信していた。自分は神に愛されるような存在ではない。
エドワードはその発言を否定することなく、話を進める。
「じゃあ、君が神の寵愛者ではないと仮定しよう。君が本当に神隠しにあっていたかどうかは僕にはわからないからね。けれど、それは他の人にとっても同じだ。君がどこにいたのかわからない。人々は神隠しにあっていたと考えるだろう。たとえ、君がここにいたと証言しても、それを信じるかどうかは聞いた人次第だ。そうなれば、君を利用しようとする者、もしくは邪魔だから排除しようとする者は確実に現れる」
その言葉にウィリアムとルシルが息を飲む。わかっていたことだ。だから、二人はリリアンを守ってくれていたのだろう。
落ち着いた様子を見せるために、微笑んでエドワードに尋ねる。
「エドワード殿下。もしかして私に、何かしてほしいことがあるのですか?」
彼は眉を上げると、楽しそうに笑う。
「僕が君を利用しようとしていると考えているのかな?」
「違うのですか?」
首をかしげて聞くと、彼は「ふふふっ」と笑った。
「……さすが、オズのお気に入りだね」
エドワードは笑みを浮かべて足を組む。
「そうだよ。君に頼みたいことがある」
「どのようなことでしょう?」
「……君には象徴候補として、教会に入ってもらいたい」




