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愛みのリリウム -神に愛された花たち-  作者: 虎依カケル
3章 偽りの象徴

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レジーナの話


 教会の奥には、一部の者しか入れない部屋がある。合鍵は存在せず、唯一の鍵は選ばれた者に引き継がれていく。


 そこに入ることを許されているのは、教会に古くからいる老齢の御使いの女性。彼女は年期の入った鍵を鍵穴に入れると、静かに扉を開けた。

 部屋はあまり広くない。だが、中に置かれている家具は高貴なものが多かった。


「ごきげんよう」


 ローブを深くかぶった少女が口元をキュッと吊り上げる。髪型も目元も隠れており、口元や体つきから少女であることしかわからない。その場に合わない黒いドレスを着ており、袖から白い手が見えていた。


「お待たせいたしました」


 御使いの女性は腰を落として礼の姿勢を取る。少女に促されて、向かいの席に座った。御使いの女性は少女の方に目を向けると「あら」と声を漏らした。


「何か良いことでもあったのですか?」

「あら、わかる?」


 少女は「ふふん」と鼻を鳴らすと、足を組んだ。


「とても面白いおもちゃを見つけたの」

「面白いおもちゃですか」

「ええ。私が何を言っても、本当のことを信じなさそうだった子が、少しずつ私の言葉を信じはじめている。これは大きなことよ」


 少女……レジーナはリリアンのことを思い出す。


 教会のことを信じて疑わなかった彼女が、メアリーという彼女にとって重要人物の危機によって、その考え方を変えはじめている。見ていればわかるが、彼女が信じていたのは教会ではなく、メアリーだ。彼女が教会に害を及ぼされれば、どちらを取るのかは明白だった。


「不思議とあの子の周りには人が集まる。まるで、神に愛されているかのように……いえ、もしかしたら、愛されているのかもしれないわね?」


 リリアンが神に愛されている可能性はゼロではない。その可能性を含めて、今後のことを考えるべきだ。


「……愛されているのであれば、利用価値がある」


 特別な魂は、神に愛される性質を持っている。そして、人を惹きつける力も持っている。多くの国民を魅了して国を率いた者もいれば、国を傾けた者もいる。表には出て来ずに周りの人に恵まれて、人としての一生を終えた者もいる。


 同じ魂ではない。すべて別の人間だ。人の魂は、一部例外を除いて転生することはない。


「どなたのお話かは存じませんが……まるでロザリー様のようですね」


 御使いの女性がポツリと呟く。それを聞いて、レジーナは眉間に皺を寄せた。


「……そうね。あの子はロザリーにそっくり」


 レジーナが顔を上げると、御使いの女性は姿勢を正した。


「では、これからはどのように」

「メアリーが裏で動いていることは知っているわ。でも、それは私にとって不利にはならないから、続けさせなさい。それと、そうね……」


 レジーナは考える素振りを見せると、鼻の上に皺を寄せた。


「アルバート、あいつのことは見張りなさい。最近は勝手な行動が過ぎるわ」

「そうですね。彼は今でも私の意見を聞きますが、すべては聞き入れません。どうやら、私があなたと繋がりのあることを察しているようです」

「そんなことも察せないような管理者はいらないわ。気づいて当然よ。彼の行動でメアリーに害が及ぶ可能性はあるかしら?」


 その言葉を聞き、御使いの女性は表情を変えないまま、淡々と答える。


「以前からメアリー様は一部の御使いからの評判がよくありません。ですが、今はアルバート様が手を出さないように、目を光らせています」

「たしかに、中途半端に手を出されて、変に尻尾を掴まれては困るものね。つまり、アルバート次第ということかしら」

「……それに、彼は誰かに相談し、意見をもらっているようです」


 レジーナは首を横に振って、憐れむように、あきれたように大きく息を吐いた。


「可哀想な子。誰かの下についていなければ行動できないように教育されたのね」


 アルバートは送り込まれた人間だ。だが、指示を出していた者が亡くなってから、その指標をコロコロと変えている。


 レジーナは部屋の中を見渡す。誰の部屋でもないのに、常に整えられている。ずっとレジーナが使い続けている部屋だ。


 教会は神のもとで人々を導いていると謳っているが、実際には人々の私利私欲にまみれた場所となっている。本当にそれが正しい姿なのだろうか。


 ……いいえ、正しいはずがないわ。


 レジーナは気持ちを入れ替えるように深呼吸をすると、姿勢を正した。


「ほかに何か伝えておくべきことはあるかしら」


 御使いの女性は「そういえば」と思い出したように口を開く。


「彼はリリアンという子爵家の令嬢と接触したようです」

「あら、そうなの?」


 レジーナは常にリリアンのそばにいるわけではない。時折様子を見ては、その変化を楽しんでいるだけだ。どうせ、いつかは食べてしまう。


 何より、彼女にもやらなければならないことがあった。


「彼女に興味を示されていました。もしかすると、彼女をあなた様と勘違いされているのかもしれません」

「……なるほど。そうね。あの子はロザリーに似ているというのなら、使えるかもしれないわ」


 レジーナは脚を組み替えると、考えるように腕を組んだ。


「まずは、あの子が象徴候補だと認識させなくてはいけないわね……」

「教会内でも、何か情報を流しますか?」

「必要ないわ。すでに、メアリーが偽物だと噂されている。この機会を逃すと思えないわ。逃したら、無能よ」

「では、ほかに何か方法がおありで?」


 そう問われて、レジーナは楽しそうに口元を歪める。


「思うように動いてくれるかもしれないし、そうじゃないかもしれない。人は予測ができないから、都度調整が必要なものよ。だから、あなたが必要なの」


 視線を向けられて、御使いの女性は立ち上がり、腰を落として礼の姿勢を取った。


「神に代わって、教会に助言をしてくださるあなた様のことを、私はとても感謝しております」


 そんな彼女にレジーナは労いの言葉をかける。


「あなたのような人がいるから、私がこうして行動できる。……信頼しているわ」


 レジーナの言葉を聞いて、御使いの女性は誇らしそうに笑みを浮かべた。


 教会の暴走、偽物の象徴の噂、そして信仰者の不安。今まで絶対とされていた教会の立場が危うくなり、少しずつ状況が変わりつつある。

 ここまで教会が揺らいだのは珍しい。この機会を逃すわけにはいかない。


「今こそ、変わるときよ」


 行動し続けなければならない。……教会を潰す、その日まで。



読んでいただきありがとうございます!

3章はここまでとなります!

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