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愛みのリリウム -神に愛された花たち-  作者: 虎依カケル
3章 偽りの象徴

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22話 試験用紙


 昼休み中、リリアンは教科書を片手にそっと職員室を覗いた。問題の解き方を教えてもらいたかったのだが、教師たちは少し慌ただしそうに動いている。試験前だからだろうか。


 近くにいた教師に声をかけると、マルヴィナを呼んでくれた。


「あらあら」


 マルヴィナは職員室から顔を出すと、リリアンの姿を見て珍しそうに目を開いた。


「あなたが来るなんて、珍しいこと」


 彼女は一度職員室を出て、扉を閉じた。


「ごめんなさいね。今、職員室は生徒を入れてはいけないの」


 そう言いながら、廊下で解き方を教えてくれる。リリアンはそっと彼女の横顔を盗み見た。


 マルヴィナは優しい先生だ。生徒からも好かれている。

 長年、教師をやっていることから知識も人生経験も豊富だ。彼女に相談する生徒は多くおり、さながら学園の象徴のような役割をしていた。

 教師として関わった生徒も多くおり、卒業した生徒たちが彼女に相談をしに来ることもあるという。


 お礼を言って立ち去ろうとすると、マルヴィナがじっとこちらを見つめていた。


「どうしましたか?」

「いいえ、ね。いつもは成績を気にしてない様子だったから、不思議に思ったのよ。どうしていきなり勉強をしようと思ったのかしら?」


 入学してから、進級をできる程度にしか勉強をして来なかった。そんな生徒が突然勉強をしはじめたら、不思議に思うだろう。


 リリアンは自分の髪を撫でながら視線を下げる。


「……舞踏会に出ようと思いまして」

「そう、そういうことなの……」


 マルヴィナは何かを考えるように目を細めると、にっこりと微笑んだ。


「では、あなたは花を誰にあげるか決めましたか?」


 舞踏会のときに渡す親愛の証である花のことを言っているのだろう。


「まだ試験には合格していないので、気が早いですよ」

「ふふふっ、そうですね。でも、花をもらうのはとても嬉しいことですよ。相手のことを思って、用意してあげてくださいね」


 リリアンは「はい」と返事をすると、職員室から出た。




 教室に戻ると、どことなく騒がしいような気がした。ウィリアムとルシルに声をかけると、ルシルが肩をすくめる。


「試験用紙が盗まれたそうよ」


 今朝、職員室で保管されていた試験用紙がなくなっているのがわかったということだ。生徒たちにはそのことを隠しているようだが、どこからか情報が漏れたらしい。


 職員室でも、教師たちが落ち着かない様子だった。生徒を厳重に中に入れなかったのも納得がいく。だが、学園内は警備の目がある。そんな中、簡単に外部から試験用紙を盗むことができるだろうか。内部の人間によるものだと考えたら……。


「特待生が怪しくないかしら?」


 誰かがそうはっきりと言った。

 教室内の視線がルシルに向く。彼女は視線を受けてにっこりと微笑んだ。


「どうしてそう思うのでしょうか?」

「一番試験の順位に執着していそうだからよ」


 学園の特退枠にいられる条件は主席を維持することだ。もし維持することができなければ、退学になってしまう。そう考えると、たしかにルシルには動機があるのかもしれない。


「ですが、証拠がありませんよ」

「では、鞄の中身を見せてくださる?」

「もちろん、いいですよ」


 数人の学生がついてきて、ルシルのロッカーがある場所へ向かう。

 リリアンが不安な顔をしていると、彼女は余裕そうにウインクをした。


「大丈夫よ。私は無実なんだから」


 彼女はそう言いながら、鍵を取り出した。鍵穴に差し込むと、彼女は動きを止めた。


「……鍵が開いてる」


 ルシルとリリアンは顔を見合わせる。さすがの彼女も嫌な顔をしていた。

 意を決して開けると、ロッカーには見慣れない紙の束が入っていた。


「これは試験用紙じゃないか……!」


 生徒たちはルシルのロッカーに群がると、一枚手に取った。それは紛れもなく試験用紙だった。


「……そーきたか」


 ルシルは動じた様子を見せず、笑みを浮かべたまま否定を口にした。


「私じゃありません」

「けど、あなたのロッカーに入っていたじゃない」

「誰かが入れたんじゃないですか?」


 そう言い張るルシルに一人の生徒が大きな声をあげる。


「しらばっくれるか、平民が! 自分のやったことに対する罪の意識がないようだな!」

「していない罪をどうやって認めれば良いのでしょうか?」


 そう騒いでいると、近くにいた教師がこちらに来た。

 生徒たちが持っている試験用紙を見て、顔色を変えた。教師は生徒たちに呼びかける。


「関係のある生徒はみんな、職員室に来なさい」


 何人かの生徒が職員室の前に集められた。職員室からは複数の教師が出てきて、生徒たちを取り囲む。その中にマルヴィナもいた。


「試験用紙が特待生のロッカーの中から出てきました」


 そう言われて、教師はルシルに目を向ける。


「君が盗んだのか」

「違います」


 多くの教師を前にしても、ルシルの態度は変わらなかった。彼女は背筋を伸ばしたまま、質問してきた教師をまっすぐと見た。


「バレる危険性を考えた場合、しない方がいいと判断できる程度の知力は持ち備えております」

「ルシルはそんなことしてませんよ」


 ウィリアムが一歩前に出てルシルを背中で隠す。


「試験用紙がなくなったのは昨日から今朝にかけてなんですよね? 昨日は私と一緒にいました。ルシルは一度も職員室に行っていないですよ」


 そんなウィリアムにもほかの生徒がケチをつけるように口を出した。


「あなたも一緒に盗んだのでは? 金で買収されたのでしょう」


 ウィリアムはその生徒を見ると「へえ」と低い声を出す。


「あなたはお金で買収されるのですね。生憎、私の誇りは安くありませんので、お金じゃ買えないですよ」


 生徒は顔を赤らめる。言い争いになりそうなときに、マルヴィナが手を叩いた。


「はいはい。話はわかりました。ルシルも持っていただけでは、誰かに罪を着せられている可能性を捨てられません。けれど、盗んでいない証拠もない……どうしましょうねぇ」

「では、ルシルとウィリアムは別室で監視付きで試験を受けるのはどうでしょう。


 発言したのはルシルに剣を突き付けてきた男子生徒だった。彼はニヤリと笑う。


「それに、そうですね……。ほかの生徒よりも難しい試験を受ける、というのはいかがでしょうか」


 男子生徒の提案にルシルは表情を変えない。対して、ウィリアムは顔を青くさせる。

 マルヴィナはその提案に微笑みながらうなずいた。


「それはいいですね。もう一つ、私からも提案いたしましょう」


 彼女はそう言うと、人差し指を立てて、ゆっくりとリリアンの方に視線を向けた。


「リリアンの成績を上位にする、なんていかがかしら? 彼女はいつも補習常連者です。でも、勉強のできるお二人なら、きっと彼女を上位にすることができるでしょう」


 その言葉を聞いて、どこにいたのかミランダが顔色を変えて出てきた。


「リリアンさんは関わっていないですよ! 彼女はずっと私といましたから!」


 そんな彼女にマルヴィナは微笑む。


「ええ。彼女を疑っているわけではありませんよ。ただ、彼女の勉強のために提案しただけですから」

「でも……」


 さらに何か言おうとするミランダを制するようにリリアンは口を開く。


「私は構いませんよ」


 リリアンが話を受けたことにより、その提案は通った。



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