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逃げる本  作者: ピタピタ子
4/18

発見

イェニーとエックハルトとウェルナーは出会い系アプリを開く。

「中々見つからないわね。」

「この人、すごい綺麗だな。プロフィールも魅力的だ。」

「ウェルナー、ちょっとは恋愛する元気も出たんだな。」

「それは良いことだけど、出会い系アプリ開いたのは本を持ってるフリアを探すためよ!少しは協力して欲しいわ。」

「そうだ。あの本を何としてでも返してもらわないといけない。」

探しても探しても中々見つからなかった。インターネットという迷路の中を3人は立っている。

「この出会い系アプリに時間かけても無駄よ。他を当たりましょう。」

「母さん、分かったよ。」


フリアはレストランでマリアと話していた。

「この前紹介した人どうだった?」

「そうね。性格は普通なんだけど、趣味が合わなすぎるわ。彼の趣味の話聞いてても退屈で時間が長く感じるし、その逆もそうよ。」

ワイングラスをテーブルに置く。窓は少しくすんでいた。

「出会い系とかでは良い人いたの?」

「中々見つからないわ。デートして終わりのことが多いわ。」

「そうなのね。」

「最近、良い人できたんじゃないの?」

「ちょうど紹介しようと思ってたの。」

「良かったわね。」

フリアは床をずっと見ていた。

「これが彼よ。」

「素敵な感じね。クールじゃん。どこで知り合ったわけ?」

「よく行くスーパーで仲良くなったのよ。私から声をかけたんだけど。」

「何か通知来たわ。」

「出会い系アプリじゃない?」

「そうね。どんな相手なのかしら?」

通知覧にいた相手はイェニーの男性化した写真だ。

「メッセージも届いてる。」

「カッコいいわ。どんどん積極的にアピールしなよ。」

フリアは何も知らずに惹かれていく。


イェニーはフリアとの接触に成功した。

「つながることには成功ね。」

「良かった。」

「母さん、すごいな。」

「次はメッセージを長続きさせる所よ。まず相手の趣味を聞くこと。」

ウェルナーと同じくらいフリアのことを知っているのでやり取りはスムーズだった。

「本の話題をしたら結構反応が良いわ。返信も速いし。」

「付き合ってた時もそんな感じだった。」

「ここからが肝心よ。バルセロナで会う約束をするのよ。」

「バルセロナは一度も行ったこと無いな。」

イェニーとエックハルトはマドリードやサンティアゴ・コンポステーラには行ったことあるがバルセロナには一度も行ったことが無かった。

「ちょっとした旅行になりそうね。」

「サグラダ・ファミリアまだ完成してないんだよね?」

「そうだな。完成もうすぐみたいだな。」

「まずは本の奪還が先よ。旅行はその後ね。」


マリアは携帯を触っていた。

「彼からだわ。」

ゆっくりとメールの内容を確認する。

「サグラダ・ファミリアの近くのカフェで待ち合わせ?楽しみだわ!」

彼女はアクセサリーと靴を選ぶ。

「初めてのデートはこの靴が良いわね。アクセサリーはピンクゴールドのにするわ。」

鏡に映る自分を見つめながらドキドキしていた。どんなデートにするか頭の中に思い描いていた。

「マリアから電話だわ。」

電話をしながらプロフィール写真を眺めた。

「これから部屋に来る?そう言うのは前もって行って。」

電話を切って、本を読んだ。人生についてと若い時にした切ない恋の小説だ。


「早くしないと列車に乗り遅れるわ!」 

「悪いまたせたな。」

リヨン駅に向かう。

「北駅と違って治安が良いな。」

「リヨン駅は普通の駅よ。」

電光掲示板でプラットフォームを確認する。

「プラットフォーム8だね。」

そしてチケットと照らし合いながら、号車の停車位置を確認する。

「これからヴァカンスよ。たくさん泳ぎまくらないと。」

「ボートも一緒にしようぜ。」

「今年はうるさい団体客に邪魔されたくないわ。」

「今年はきっと大丈夫さ。その後はスペインで観光しよう。」

ウェルナーはカップルの会話を聞いた。カップルの影をずっと見る。影だけを見ても二人が何をしてるのか分かる。

「列車が来たわ。」

「いよいよだね。」

親子で列車に乗る。

「どうせならブルーノとハンナにも来てもらいたかったわ。」

「急な旅行の計画には流石に準備は無理だろ。」

「私の理想を語っただけだわ。」

窓から見える景色を眺める。

「ブルーノの上の子、来月で成人だな。」

「そうね。ハンナの長女も来年成人よ。孫の成長は早いものね。」

「ハンナはアメリカの大学通うんだって。色んな国を旅行するのが夢みたいなんだ。」

「ウェルナーみたいな感じね。」

「そうだな。大学卒業した後はよくバックパッカーをしていたな。」

「野良犬に噛まれった話を聞いた時はびっくりしたわ。」

「タイでサイクリングしてたら野良犬がしつこかったんだよ。あいつら集団で追ってくるし、来るなっていても来るし。」

「野良犬があちこちにいるなんてヨーロッパじゃ考えられないわね。私は何でもかんでも動物愛護すれば良いと思わないわ。無責任な飼育や虐待とかそういうのがいけないのであって放置するのは違うわ。犬嫌いな私からしたら野良犬が歩いてるのは論外よ。飼い犬とかはまだ可愛いと思ったことあるけど。」

「宗教観も違うからそこの部分はどうにもならないと思うな。」

話してるうちに列車の中で眠りにつき、バルセロナに到着した。サグラダ・ファミリア付近のカフェに行こうとした。

「少し遅れるみたいだわ。」

「約束すっぽかされるんじゃないんか?」

「大丈夫よ。相手は私達だと知らずに来る気満々なんだから。何としても本を取り戻しにここに来たのよ。」

「本が戻ってこないのは困る。」

その本に対する情熱は息子より強い。

「そろそろよ。」

フリアがカフェに入る。

「あれ?どこにいるのかしら?」

彼女は探し回る。

「奥の席?」

奥の席まで向かう。

「フリア、久しぶりだ。」

ウェルナーはフリアに声をかける。しかし彼女は何も言わず無視してその場を去ろうとした。

「フリア待ってくれ。」

彼は彼女の手をつかむ。

「何?もうあんたは私とは関係のない人間よ。触らないで!離して。離してよ!あんたの顔なんて見たくないのよ!」

彼女は彼の手を思い切り振りほどく。

「落ち着いてくれ。」

「偽のプロフィール作ってまで私と復縁したいわけ?巧妙な詐欺師ね。私を騙した気分はどう?」

彼女はすごい剣幕で言った。

「お客さん、暴れないで!」

店員が止めに入ろうとした。

「これは私達の問題よ。」

「だから暴れないで。ここはフーリガンが暴れるサッカースタジアムじゃないだぞ。」

「お前に未練があるのは事実だ。騙したのも紛れもない事実だ。だけど今回はよりをもどすためにここに来たわけじゃない。」

イェニーとエックハルトがフリアのもとに来る。

「やり取りしてたのは私よ。」

イェニーは携帯を持ちながら、フリアに言った。

「ウェルナー、母親と父親を使ってまで私と寄り戻したいの?」

「だから今日はその件で来たわけじゃないし、やり取りしてたのは別の件だ。落ち着いて席についてくれ。」

言われる通りに彼女は席に腰を掛けた。

「親子そろってどういうつもり?」

「本を欲しいんだ。」

「まず私の質問に答えて。あの写真の男性は誰なの?」

「あれは母の顔を男性化してさらに若返らせて、俺が細かい部分を編集したものだ。」

「何それ。呆れたわ。」

飲み物を置いた。

「呆れるのも無理ないよな。騙してすまなかった。だけど貸した本を返して欲しいんだ。それを返せばもう俺も両親も来ることは無い。それだけだ。」

「本ってどの本かしら?」

「俺達が出会うきっかけになった本。あの日カフェで忘れて、君が必死に探してくれてたの覚えているか?」

「覚えてるわ。」

彼女は無表情だった。

「ドイツ語ばかりで君のために翻訳してたよな。あの本、元々うちの両親のものなんだ。」

「ウェルナーの本じゃないわけ?」

「ああそうだ。」

「フリア、お願い。私達にとって大事な本なの。だから返して!」

「嘘じゃない。この本がなければウェルナーや他の息子や娘は生まれなかった。お願いだ。返してくれ。」

二人はフリアに迫るように言った。彼女は無言だった。

「ちょっと待って。」

彼女はまた無言になった。

「フリア、どうしたんだ?」

「どうしたの?」

みんなで声をかけた。

「その本、無いの。」

「何だって?」

「どういうこと?」

「失くしたのか?」

「フリア、どういうことか説明してくれ。」

「怒らないで聞いて。」

彼女は間をおいて話す。

「分かった。」

「その本、バルセロナに観光に来たイギリス人女性にあげたの。」

「ちょっと待って、いったいどうなってるんだ。」

「言葉の歪曲なんてしてない。そのままのことを言っただけよ。本はたまたま知り合ったイギリス人女性に渡したのよ。」

「ちょっと待ってくれよ。貸した本を人にあげるなんて何考えてるんだよ!」

「ウェルナー、あんたも変わらないことしたのよ。私達の本を借りパクしたのが元凶でしょ。フリアに怒る資格なんて無いわ。」

「全て俺の責任にするわけか?そんな大切な本なら最初からそう言うべきだったんじゃないか?」

「イェニー、ウェルナー、黙れ!」

「この問題にはウェルナーも責任があるのよ。」

「しずまれ!」

「父さんは引っ込んでろ!」

「ウェルナー、黙って!」

イェニーに何回もそう言われて、静かになった。

「何なんだよ。」

ウェルナーはぼそっと言った。

「どうしてそんなことしたわけ?」

イェニーは落ち着いたトーンでフリアに聞く。

「私達の思い出が詰まっていた本だからよ。こんな彼との記憶を無かったことにしたかったのよ。」

「フリア…」

「この本は出会いのきっかけの本。こんなものあったらウェルナーがいるみたいだから適当にバルセロナを観光するイギリス人女性にあげたわけ。」

「フリア、もう俺は怒らない。」

「今その女性はどこにいるわけ?」

「分からない。」

「何だって?」

「知らない人にあげたほうが綺麗さっぱり過去を無かったことにできるでしょ。」

「そんな、嘘でしょ。」

衝撃の事実を聞いた。

「もうあなたを尋問しない。本探しに協力してほしいの。」

「分かったわ。私も仕事増やしたようね。」

ため息をつきながら言った。

「協力するわ。」

「今日本だけ受け取って帰るつもりだったけど、バルセロナに戻るわ。」

「分かったわ。私の部屋に3人とも泊まりに来な。」

3人はフリアの所に泊まることになった。

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