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逃げる本  作者: ピタピタ子
3/18

元恋人

ウェルナーの元恋人、フリアが実家にいたのはほんの一瞬だった。すぐに一人暮らしをした。

「今日はデートだわ。」

初めてのデートで髪型を考えた。友達とかに髪型を写真で見せた。

「これなら駄目かしら?」

「ヘアアクセサリー地味なのにしたほうがカッコいいわ。」

「これで決まりね。」

電話で友達と話していた。

「相手はどんな人なの?」

「フランス人よ。写真送ったわ。」

「素敵じゃん。かっこいいわ。上手くいくと良いね。」

「彼はあと少しで一流になるミュージシャンよ。」

「夢を追ってる人って素敵ね。」

「元彼とは違うのよ。」

「何で別れたわけ?」

「私から別れを切り出したのよ。」

フリアは友人に話した。

「まだ来ないや。」

出会い系アプリで知り合った人と待ち合わせをしていた。

「遅いわね。」

しばらくすると相手は現れる。

「あ、そっちにいたのね!」

男性は目の前に現れた。

「お待たせ!」

「待ちくたびれたわ。」

「うそ…」

相手は違う女性と合流して移動した。

「ちょっと待ちなさいよ!私と待ち合わせしてるんじゃないの?」

「この女誰なの?」

「よく分からない。ブロックしたストーカーなんだよね。よくそういう女につきまとれやすいんだよな。」

男性はいつの間にかフリアをブロックしていた。

「ムカつく!何なのよ!」

彼女は一人でコーヒーを飲んだ。

「あんなやつ事故でアソコが使い物にならなくなれば良いのよ!」

隣の女性客がフリアの独り言を聞いて笑った。

「何であんたそんなにイライラしてるわけ?」

女性はフリアに聞いた。

「今、出会い系で会ってた男が私との約束破って他の女と会ってたのよ!そんなに面白いかしら?」

「それは気の毒だわ。聞いて悪かった。」

「あなたは彼氏はいるの?」

「この前別れたばかりよ。大恋愛だからこそ上手くいかなかったわ。愛し合うことばかりで二人以外の世界なんて見えてなかった。」

「大恋愛なんて羨ましいわね。」

「大恋愛が上手くいくなんてハリウッド映画とかの世界の話よ。現実はそんなに上手くいくもんじゃない。今はそんな大恋愛なんてどうでも良いわ。恋人がいなくたって友達もたくさんいるし、大恋愛してた時よりかは友達との時間も増えたし、出会いも多いわ。良い相手を探すのには必死じゃないわ。」

「あなたかなり冷めてるのね。名前何ていうの?」

「マリアよ。」

「私はフリアって言うの。」

「前に彼氏とかはいたの?」

「この前別れたわ。」

「どうして別れたわけ?」

「大した理由じゃないわ。」

ガラス越しから幸せそうなカップルを見る。

「私達が出会ったのは3年前よ。」


ウェルナーとフリアは3年前にパリで知り合う。

「よく一緒になるね。このカフェによく来るの?」

「そうよ。コーヒーが美味しいからよく来るわ。」

二人ともカフェに行くのが日課だった。

「この辺に住んでるの?」

「少し離れた所よ。職場がちょうどこの辺よ。」

コーヒーの匂いや香水の匂いがよく漂う。街路樹を見ながらコーヒーを飲む。

「仕事は何してるの?」

「本屋の店員よ。」

「素晴らしい仕事だな。俺はグラフィックデザイナーをしてるんだ。よくこのカフェで仕事をしたりするし、家でも仕事する。どこに行っても問題ない仕事だ。」

「素敵な仕事ね。どんなデザインとかするわけ?」

ウェルナーはフリアにタブレットで見せた。

「ロゴとかデザインすることもあるし、Tシャツとかのデザインもすることがある。慣れれば楽しい仕事だ。」

「今度私の服もデザインしてもらおうかしら?」

「君は綺麗だから、特別な値段で引き受けようかな。」

「口説いてるわけ?」

「冗談だよ。でも綺麗なのは事実さ。」

彼は彼女の横顔を見る。

「面白い人ね。」

彼女は少し笑う。

「どこの本屋で働いてるの?」

「ノートルダム大聖堂の近くよ。」

「あのへんか。」

彼女は名刺を渡す。

「お店の名刺よ。」

彼の手を握って渡した。暖かい手で彼の手を包み込む。名刺まで暖かくなる。

「手が大きいわね。」

「本はそこそこ好きだから、今度おすすめの本とかあったら教えて欲しい。」

「分かったわ。私に任せて。」

二人は打ち解けた。

「用事があるから俺はここで去る。」

会計をすませて、カフェを離れた。

「ん?この本いつからあるのかしら?」

テーブルにある本を確認した。

「セニョール、この本あなたのですか?」

「違います。」

「やっぱりウェルナーって男の忘れ物なのね。」

本を持って外に出た。

「ウェルナー!」

フリアはウェルナーを探し回る。

「すみません、この男の人見ました?」

「忙しい。話しかけないで。」

女性はわざとぶつかった。

「何あのクソババア。くたばれよ。」

聞こえるように悪口を行った。

「この男の人見ましたか?」

「知らない。」

通行人に声をかけて手がかりを入手した。連絡先も無かったから報告することは出来なかった。

「この男見ましたか?本を届けに行きたいんです。」

「そういうのは警察に任せたら?」

「警察なんて国家の犬で大して役にたたないわ。」

「早く見つかると良いわね。」

「ありがとう。」

その日、結局フリアはウェルナーを見つけることは出来なかった。

「何でカフェで見かけるあの男のことをそんな探してたのかしら?」

フリアは友達に起きたことを話した。

「少しでも彼に気持ちがあるからよ。あんたはその男のこと気になりはじめてるわけ。」

「付き合うのは私次第だわ。彼をもっと知ってから付き合おうと思うわ。」

「カフェでよく合うなら今度カフェ来た時に会えるわ。」

「その時返すつもりだわ。」

「ただ返すだけ?」

「何か起きて欲しいのかしら?例えば一緒にバーに行って、ベッドで寝る展開も悪くないわ。」

「どんな体勢が好き?」

「座って向き合うのが良いわ。」

お酒を飲みながら話した。

1週間後カフェでまたウェルナーに会う。

「しばらくカフェにいなかったけど何してたの?」

「実家に帰ってたんだ。」

「そうなのね。てっきり引っ越したと思ったわ。そんなことよりこの本忘れてるわ。ドイツ語で何書いてあるかよく分からないけど、大事な本ってことはよく分かるわ。」

「ありがとう。この本まだ読んでいなくて、これから読むところだったんだよ。」

その頃のイェニーとエックハルトは老後の生活を満喫しすぎて思い出の本のことを忘れていた。

「本はよく読むのかしら?」

「もちろんだ。本がない人生なんて想像出来ない。」

「私もよ。その本ドイツ語でよく分からないけど英語版かスペイン語版はあるわけ?」

「知らないな。この著者売れない作家だからな。」

「隠れた才能ってやつね。売れてる作品とか有名な作品ばかりに価値があるわけじゃないわ。特定の人しか知らない物語も読む価値ありまくりよ。ドイツ語でしか分からない所がまた気になる所。私のために訳してくれるかしら?」

「もちろんだ。興味を持ってる君を無視することなんて出来ないよ。この作家有名になってたら運命が違ってたかもな。」

「売れてもこの本のような作風なのかしら?」

「どういうことだ?」

ウェルナーは聞く。

「鈍わいね。お金の猛者になって自分の本来あるものとブレまくることを言ってるの。本当に書きたいものが変わったなら分かるわ。でもお金や名声などに振り回されて自分を見失ってる作家なんてゴーストライターみたいなものね。人として生きてても、作家としては生きていないわ。」

「最近は芸術が商業的でお金の臭いが漂いまくってる。世の中そんな作品ばかりではないが、中には読んでてお金を読まされてるような作品もあるな。」

「作家として生きてる作品が見たいわね。この小説も話題作みたいだけど話のまとまりがないわ。」

「そう言えば、映画で話題になってる探しものって作品見たか?」 

「あれ?作者が上手くファクトチェック出来てなさそうね。」

二人はいつの間にか本のことで盛り上がった。二人の愛は炎のように強くなる。

「愛してる。もっと強く抱いて。」

「ああ、そうするよ。」

二人はベッドで抱きしめ合う。2冊の本も二人のように重なって絡み合う。一つはウェルナーのドイツ語の本。そしてもう一つはフリアのスペイン語の本。その本は二人の大好きな本だ。一冊を知っていてももう一冊は知らない。

「ウェルナー…」

「フリア…」

二人の愛は二人にしか分からない。二人で作り上げる歴史は二人が誰よりも詳しい。

「明日はまた仕事?」

「そうよ。」

二人は情事を終わらせて、ゆっくりと話す。

「君の本屋によって良いか?」

「何度でも来て。」

「君の好きな本を当ててやるさ。」

「私のことどれくらい知ってるのかしら?」

「同じカフェによく通う文学に精通していて博識でハッキリと作品を分析できる女性ってことは知ってる。君の全てを知りたいよ。」

「それならスペイン語の私の愛読書を読んでみて、私を構成する一部だわ。これを読んで少しは世の中に希望を持てるようになったわ。この本が私を文学に引き入れたきっかけよ。」

二人は来る日も来る日も本を通してお互いを知るようになった。ウェルナーの作品を愛する心は父親に影響されたものだろう。

「あんたこの男の作品のどこが良いわけ?」

フリアはある日ウェルナーに聞く。

「確かにお金の猛者だが、この作品は勢いを感じる。物語もスムーズに進んでいて面白い。どんな人間性でも彼の作品は大好きだ。」

「あなたは変わったわ。」

「売れない作家の作品はやっぱり読んでも面白くない。」

「昔のあなたはどこに行ったの?それが本心なわけ?」

「本心というか作品の好みが変わったんだ。話題作のほうが色んな人と話せるし色んな見解を聞ける。売れない作家の作品じゃ中々出来ないことだ。」

「売れない作家だってレビューし合う価値があるわ。」

作品の好みの違いで二人は対立することが増えた。些細なことで二人はすれ違った。

「ちょっとちゃんと牛乳は冷蔵庫にしまって。」

「好きな作家を批判されて心苦しいかもしれないけど、牛乳くらい許してくれよ。」

「何でそうやって何でもかんでも私が機嫌悪いと扱うわけ?」

「最近君怒りっぽいだろ。」

「もうやめよ。このまま一緒にいても私達はすれ違いまくるわ。自分もウェルナーも責めない。だからもう別れよう。」

「何で?悪かった!俺は元の俺に戻るから。」

「もう無理よ。私達は離れた方が良いわ。私は近いうちスペインに帰るわ。」

「フリア!」

フリアは本当は泣いていた。その泣き顔を見せることなく部屋を出る。ウェルナーもフリアのいない所で泣いた。二人の関係は終わる。


「そんな理由で別れたの?本の話をしなければ良い話よ。」

話を聞いたマリアはフリアにそう言った。

「無理よ。本は私達の生きがいなんだから。次の相手は本の熱がそこまでない人にするわ。私もう行くから。」

フリアはカフェを出た。本を読みながらふとウェルナーの顔を思い出した。

「もう良いのよ。」

彼女は本を閉じてランプを消した。

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