隠し事
二人は高速列車でパリについた。
「やっと着いたわ。ウェルナーは来てる?」
「そろそろ来ると思うけど。」
駅の構内は旅行客や通勤で使う人でごった返しだった。
「久々のパリね。何年ぶりかしら?」
「4年前くらいだな。」
「ちょうどウェルナーがパリに移住した時だったわね。」
「連絡が来た。そろそろ着くみたいだ。」
二人は駅の出口の方に行った。
「あの車だ。」
「やっと来たわ。」
「お待たせ。車に乗って。」
二人は息子の車の後ろの席に座る。
「今度はまたどこかに移住することはあるのかしら?」
「それはないな。」
「次移住するなら?」
「スペインだな。」
「スペインね。あなたのガールフレンドの国ね。ガールフレンドにはちゃんと私達が来ること言ってあるんでしょうね?」
「それだけどちょうど実家に帰省してるんだよ。だからしばらくは帰って来ないんだ。」
「それも初めて聞いたな。」
「挨拶したかったわ。」
「残念だった。」
話してる間に彼の住んでいるアパルトマンに到着した。二人はソファーに座っている間に息子はお茶とお菓子を用意した。
「マカロン美味しいわ。」
「最高だな。」
3人はお菓子とお茶を飲んでゆっくりした。
「あっ、今すぐ私達の大事な本を返してくれる?」
「分かった。」
ウェルナーは本を取りに行った。10分が経った。
「時間かかり過ぎだな。」
「ウェルナー、何してるの?」
「本が見つからないんだ。」
「何だって!?」
「最後にどこに置いたのか忘れてしまったんだ。」
「冷蔵庫の上とかに棚の奥とかは見たの?」
「今探してるんだ。」
「私も探すわ。」
「俺も探す。」
「父さんと母さんは何もしなくて良いよ。一人で探すから。」
「そんなことしてたらいつまでたっても見つからないわ。」
「あー、余計な事するな。」
3人で探した。30分は経ってしまった。
「こんなに見つからないのおかしいわ。本当に忘れたの?」
「だから本当に分からないんだよ。」
「なにそれ?変よ。」
「まさか捨てたのか?」
「あー、ムカつく。俺はそんなことしないから!父さんと母さんと違って判断力はある方だから。」
「何その言い方。」
両親と息子は喧嘩する。
「待ってこの前ぎこちなかったのってあの本のことよね?」
「それは母さんが勝手に解釈しすぎだよ。」
「見れば分かるわ。普段と感じが違うんだから。」
「つまり資源ゴミとして捨てたか、失くしたってことなんだよな?」
二人はウェルナーを問いただす。
「どうなのよ?」
ウェルナーはため息をついた。
「分かったよ。正直に話すよ。」
流石に嘘を突き通すことは出来なかった。
「まずあの本は失くしたんじゃなくて、彼女のフリアに貸したんだ。」
「え?人から借りた本を誰かに貸したわけ!?フリアはどこなの?」
「そうだ本をどうにかしろ!」
「二人とも落ち着いて聞いて。まだこの話には続きがあるんだよ。」
カップのコーヒーを置いた。
「フリアが実家に帰った話は嘘なんだよ。本当はこの前フリアと喧嘩してそのまま別れたんだよ。詳しい内容は話さないけど。」
「それで彼女は今どこにいるわけ?」
「フリアはスペインに戻った。スペインのどこにいるかもよく分からない。」
「ウェルナー、どういうことなんだ?」
ウェルナーはしばらく黙った。
「ウェルナー…?」
彼はどこかに行った。
「まだ話は終わってないよ。」
「俺、アイツと別れたんだ。」
ウェルナーは悲しげな表情だった。
「聞いて悪かったわ。」
「すまない。」
「まだアイツのこと好きなんだ。」
「次の人探せと言いたいところでもあるが、彼女とは連絡取れるのか?このまま放置されてると本が捨てられている可能性がある。」
「すでに捨てられてるかもしれないわ。」
「連絡先はブロックされてる。」
「電話は?」
「つながらない。」
「他のソーシャルメディアとかは?」
「どれもブロックされてる。」
「実家はどのへんか分かるわけ?」
「実家はバルセロナのあたりだ。」
3人で地図を見た。
「ちょっとは絞れてきたわね。」
「何とかして本を取り返したい。」
「それなら最初から言ってくれれば良かったのに。」
3人はお茶を飲み終わる。
「しばらくここには自由に泊まって良い。本を探してる限りはここで待機したほうが良い。」
「そうさせて貰うわ。本のことは諦められないの。」
本に対する情熱も夫婦仲も冷めることはなかった。
「その本がどうしてそんなに大切なんだ?その本でどうやって二人は出会ったんだ?」
「それは本を見つけてから話すわ。まずは作戦をたてないと。」
「作戦?」
「そうよ。」
イェニーは80代だが携帯を使いこなしていた。
「母さんそんなに電子機器使えるんだ。」
「あなたの父さんからたくさん教えて貰ったのよ。」
「イェニーは物覚えが早い方だけどな。」
「ソーシャルメディアは全てブロックされてるのよね?他に連絡出来る手段はある?彼女の実家の番号とか?」
「何度も言うようだがそれはない。」
「それならどれか一つでもアカウント名とか思い出せる?」
「インスタグラムなら覚えてる。」
「それなら私のアカウントでコンタクト取ってみるわ。」
「待って!そんなことして反応なんて絶対しないよ。」
「ウェルナーの母親だってバレなければ良いのよ。」
「そもそも何も縁がない人といきなりのメッセージって抵抗あるでしょ。」
「それに家族でアカウントフォローしあってるから家族だとバレなくてもウェルナーと関係ある人物ってことは絶対バレる。このやり方は俺も賛同出来ない。」
「彼女はまだ相手がいない。そろそろ、次の相手を探してる頃よ。」
「何でそんなことが分かるの?」
「何回か会ってたら彼女がどんな人か分かるわ。今の若い子ってネットで出会いを見つけるのが当たり前なのよね?」
「そうだな。俺達の世代はあまり抵抗ないし、オープンさ。」
老夫婦からしたら40代は若者だ。
「そしたらウェルナー変装でもするか?」
父親が提案する。
「変装って、あのタイプの女子はそう言うの好きじゃないわ。」
「イェニー、それなら他に何があるんだ?」
「うちの息子をもっとイケメンにメイクするとか?」
イェニーは不思議な提案をした。
「それもなし。それならバレるぞ。」
「そうだ!父さん母さん良いアイデアが思いついた!」
「おお、聞かせてくれ。」
「教えてよ。」
二人は興味津々に聞こうとした。
「母さんを使うんだよ。」
「え?どういうこと?」
「母さんの写真を使ってマッチさせるんだ。」
「フリアってバイなのかね?」
「そういう事じゃなくて、とにかくここに座ってじっとして!」
イェニーは椅子に座った。
「父さん、そこにいると邪魔だよ。撮るぞ。」
ウェルナーは母親の写真を撮った。
「そんな写真を撮って何をするつもりなのかしら?」
「ここからが面白いんだよ。」
「何だか何やってるか分からないわ。」
「まずはアプリで母さんを若返らせる。」
「昔のイェニーそのものだ。こんな面白い加工が出来るのか。最近の技術はすごいな。今のイェニーも綺麗だけどな。」
「シャッツ。」
二人はキスをした。イェニーを40代の加工にした。
「確かにかなり正確だわ。昔の私を見てるみたいだわ。」
夫婦は感激していた。
「その写真をアイコムにする気?」
「まだまだ。ここからが面白い所だから。ジェンダースワップはどこにあったっけ?」
「ジェンダースワップ?」
「あった!」
さらにイェニーの写真を男性化した。
「えっ!すごいわ!私が男性化してるわ。」
「カッコいいな。」
「まだまだ終わらないよ。所々不自然な所があるから修正する。特に手が恐ろしいことになってる。」
「そうね。加工だって一瞬でバレるわね。それにしても男性化した私イケメンね。まああなたには負けるけど。」
イェニーはエックハルトに抱きついて、少し唇が触れるようにキスをした。
「あと少しだ。」
ウェルナーが作業してる間に二人は料理をしていた。
「材料これしかないけど作ってみるわ。」
「俺は野菜を切る。」
二人は料理を作り、あっという間に完成した。
「ちょうど出来た!」
「完璧ね。」
「ウェルナー、ご飯食べろ。」
3人でご飯を食べた。
「二人ともありがとう。」
「私達料理が好きだから大したことじゃないわ。」
「まさかこんなことが出来るなんて。立派なデザイナーに育ったわね。」
「まさかこんな形で役に立つと思わなかったな。」
「プロフィールは俺が作る。」
エックハルトはプロフィールを書いた。
「どれ?見せて。」
「好きな映画監督はジャン=リュック・ゴダール、フリッツ・ラング、ジュゼッペ・トルナトーレ。好きな映画はショーシャンクの空に、東京物語、メトロポリス、戦艦ポチョムキン、ターミナル、まだあるわけ?映画のことしか書いてないわ。」
「これだと誰もプロフィールなんて見ないよ。私に任せて。」
イェニーはプロフィールを書いた。
「どれどれ?ようこそ、レディー達、ジャックのプロフィールへ。僕はスマートでオープンな男です。趣味は映画鑑賞と世界旅行。特にスペインがこの上なく好きです。タイプの女性は自分をよく持ってる人が僕は好きです。気軽にメッセージ楽しみましょう!」
「まあ悪くないな。これで設定完了だな。」
「よし、決まりね!」
「あと身長はウェルナーの身長より少し大きくしてみた。」
親子で出会い系アプリのプロフィールを作るのはとても異様な光景だった。
「他にも写真が必要だと思うわ。一つだけだとイメージがつかめなくて不安を抱く女性もいるわ。だからあと私の写真を2枚撮って。」
ウェルナーはまた写真を撮った。そしてさらに加工する。
「ここからが編集だ。」
両親はその間、ウェルナーの持ってる本を勝手に読んだ。
「スペイン語の本があるわ。何書いているのかさっぱり分からないわ。」
「よく分からないな。」
「この本はレシピ本ね。」
「映画の本が一つもないな。」
しばらくすると写真は完成した。
「これで完璧ね。」
出会い系アプリのロケーションをバルセロナにした。しばらくすると彼女のプロフィールにたどり着いた。
「よし、母さん、何か魅力的な文章を書いてくれ。」
イェニーはフリアにメッセージした。