帰還
「今日は私達の結婚記念日だ!」
テーブルにはたくさんの料理が並べられていた。
「この映画見とけよ!良い勉強になるから。閉鎖的なロマの社会からの逃亡を描いた名作だ。表向きはブラックコメディーだが、かなりメッセージ性の強い映画だ。」
「おじいちゃんは喋る映画辞典だね。」
ハンナの長男は大学で映画について勉強にしてる。小さい頃から、彼は映画監督を目指していた。
「これは低予算ながら、俳優一人一人の名演技の作品だな。とてもB級映画とも言えないクオリティーだな。」
「二人ともご飯食べて。」
ウェルナーはたくさん料理を作った。フリアとキスをする。
「父さん、母さん、俺フリアと結婚することになったんだ。」
「二人ともおめでとう!」
「お似合いだな。結婚祝いは映画館巡りだな。」
「嫌よ。」
「あんた、結婚おめでとう。」
「アビー。」
アビゲイルもパーティーに来ていた。
「隣は誰?」
「私の彼氏よ。」
「あの時は君が他の男性と付き合ってるかと思って諦めかけてたよ。」
「うちの弟ころころ髪型変えるのよ。最近はパンク風のヘアスタイルよ。」
「これ弟?ちょっと古臭い髪型ね。」
「弟はどう見られるか気にしない人よ。」
アビゲイルとフリアは前のように張り合うことは少なくなった。
「二人はかつて持ってた本でどうやって付き合ったの?」
イェニーとエックハルトの孫達は興味津々に聞く。
彼らの出会いはある一件の本屋だ。二人とも若い時、本を買うのが日課だった。エックハルトはいつも本屋にいる彼女の姿を見て惚れていた。声をかけようと思ってもいつもタイミングを逃していた。
「この本買います。」
「いつも来てくれてありがとう。」
店主とはかなり仲が良かった。最初に本を買ったのは彼の方だった。
「ゲオルゲ、お願いがある。」
「君からお願いごとされるのははじめてだな。もしかしていつも来る女の子のことか?」
「言ってもないのに、何でそれを知ってるんだ?」
「ここで一日働いてたら誰でもそんなこと分かるよ。つまり彼女と恋人関係になりたいんだな?それでどうして欲しいんだ?」
「この本に手紙が入ってるから、この本を彼女に渡して欲しい。もし、返事がある場合はこの本に手紙を挟んで欲しい。」
「そう言うことか。どんなふうになるか楽しみだな。俺は恋を実らせる本屋の店員か。いつも買ってくれるから、引き受けるよ。」
こう言った頼みは店主はすぐ断るが、二人は親しい関係だったのでスムーズにことが進んだ。
「いつも買ってくれてありがとう。そうだ。君にお手紙が来てるんだ。」
「これ本ですけど。」
「本に挟まってる。読んだページに手紙を挟んでるようだよ。」
「こんなことするなんて?誰かしら。」
当時の彼女はあまり恋愛に興味が無かったり、人に対してそれほど関心が無かった。エックハルトの存在には気がついていなかった。
「変なことする人ね。」
彼女は本には興味があったので引き取った。手紙を読んでいると同居してる母親に見られた。
「何これ?ラブレター?」
「そんなんじゃないから返して。」
「どれどれ?「親愛なる本の女神へ。突然の手紙で驚くかもしれませんが、手紙を開いてくれてありがとうございます。いつも本屋で見る君の姿を見て胸が高鳴る気分です。本を読む姿勢や本を選んでる様子全てが美しくてドキドキしてます。本屋に寄れるのは本に触れられる喜びだけではなく、あなたの存在をしれた喜びもあります。遠くで見つめてるあなたのことをもっと知りたいです。」興味津々なのね。」
彼女の両親は恋愛結婚だったので、恋愛に関して話すのは凄い好きだった。
「ちょっと勝手に読み上げないで。」
「同じ本好きな男性からアプローチされたってわけね。街でされるナンパよりずっと魅力的なアプローチね。本の女神だなんて不思議な表現ね。返事は書いとかないとチャンスを失うよ。」
「別に私は恋愛したいわけじゃないから。」
イェニーはそう言いつつも手紙を書いた。
「彼女からの本が返ってきた。手紙つきでな。」
「まさか返事が来るなんて。どれどれ?「手紙ありがとうございます。あなたがどこの誰か分かりませんが、私はあなたみたいに情熱的なタイプではなくそんなドキドキの感情とかあまりないです。恋がしたいなら他の本屋でしてください。最後に私はイェニーと言います。」だって。」
「こんなんで手紙をやめるような男じゃない。」
彼はまた手紙を書いた。
「「他の本屋は行く必要はありません。だってこんな美しいあなたがいるから。行く理由なんて他にありません。本に没頭するあなたの姿をほっとけるわけがありません。あなたを見ているともっと本を読みたい気分になります。この本屋にいて毎日幸せです。好きな本はなんですか?教えてください。」これで良しと。」
イェニーはだんだん彼がどんな人か気になった。
「彼女から手紙だ。」
「ありがとう。」
家に帰ってイェニーの手紙を読み上げた。
「「もしかしてあなたも祈りの旅という本を読みましたか?ちょうど私が読んだことある本に触れていたので。いつも本を教えてくれて内心少し嬉しいです。そう言えば、あなたが帰って行く姿本屋で見ました。店主と話してる感じがあなたなのかと思いました。」手紙する回数も多くなったな。」
エックハルトはイェニーの手紙を読むたびにドキドキした。イェニーは最初は本だけ読みたいので、しょうがなく書いていた手紙だったが、だんだん彼の本や芸術に対する思いやどんな彼女も受け入れていく心でだんだん惹かれていく。
ある日いつのように彼は本屋に入った。
「君がエックハルトなんだよね?私がイェニーよ。」
イェニーはかれに声をかけた。
「これ本よ。」
彼にはじめて本を直接渡す。
「今回は手紙はないわ。いつまでも手紙でも仕方ないでしょ。」
彼に微笑んだ姿を見せた。その姿を見ると、彼は胸の高鳴りが止まらなくなった。
「一緒に映画でも見に行かないか?」
彼は映画館に彼女を連れた。当時の彼女が見ないような恋愛映画だ。
「この映画、ありきたりの恋ね。」
「どういう展開になって欲しかった?」
「もっと思わぬ形の出会いが良かったわ。」
二人は暗闇の中キスをした。全員映画館から出て、二人の時間はゆっくりと流れる。
「二人とも、早くここを出て。次の上映の準備しなきゃいけないんだから。」
二人は映画館を出て食事をした。
「あなた、英語見てる時、本を読んでる時と同じくらい生き生きとしてるわね。まるで自分の本来の居場所のような感じね。」
「君がいるからなおさらそう言う気持ちになるよ。」
それからも二人は数回デートを重ねた。いつの間にか恋人の関係になった。
「本開いてみて。」
「この前撮った写真ね。ミラノのドォーモ凄い良かったわ。」
二人とも写真の中でも笑顔だった。
「ミラノの中央駅はスリがたくさんいてビックリしたな。」
「かなり手慣れている人達もいたわね。」
「この写真も良いね。建物と君が綺麗に映ってる。まるで絵みたいだ。」
「私はあなたの被写体なのかしら?」
「君は被写体じゃない。私の愛する彼女だよ。」
ある日レストランに二人で食事した。
「ずいぶん改まった感じね。」
「この本を開いて欲しい。」
「今度は何かしら?」
本を開いた。しばらく開くと、本から指輪が出て来た。さらに本の上から結婚してくださいと書いてあった。
「中々洒落たことするのね。」
「結婚してください。」
「もちろんよ。」
彼女は指輪をはめた。
「愛してる。」
二人の指輪は夜景できらめいた。
「結婚おめでとう。」
教会で結婚式を挙げた。ウェディングドレス姿の彼女は彼の読む小説の話に出てくるような美しい女性だった。
「あなたはエックハルト・シラーを旦那にしますか?」
「はい。」
拍手が飛び交う。
「あなたはイェニー・シュナイダーを妻としますか?」
「はい。」
また拍手が飛び交った。たくさんの人達が二人を祝福して、式はかなり盛り上がった。
二人は挙式した日を結婚記念日とした。本の後ろのページに二人の結婚記念日を書いた。
「これから大事なことはここに書くようにしよう。」
本の空白のページは二人の記録が残された。
話を聞いた、子供や孫達は話を聞いて感心した。
「おじいちゃん、結構洒落たことするのね。ただの映画マニアかと思ってたわ。」
「本を使って求婚する男性は世界のどこを探してもあなたしか知らないわ。」
「他にいたら困るだろ。」
「それもそうね。」
「本の内容はどんな内容なの?」
「「囚われた鏡の女」というタイトルよ。望まない結婚をさせられた王女、ヘレナと言う主人公が鏡でしか見えない男性に恋をする話よ。見ているうちに様々なしょうがいに彼女はぶつかって行くのよ。」
「私、その本読みたい!」
「私にも読ませて。」
「その作者は有名な人?」
「売れなくて、作家をあきらめた方よ。他の作品は読んだことないわ。」
本の作者はもうこの世にはいない。読んでくれる作品が彼ら以外に知られないままこの世を去った。どんなに才能があっても、全ての作家に光は当たらない。
「残念ながら、今はその本がないの。」
楽しいパーティーをしてる最中に一件のメールが来た。
「本を持ってる人がこっちに来てるって!」
「どの辺にいるんだ?」
「ベルリン中央駅よ。」
「母さん、その人大丈夫なの?」
ハンナがそう言うと、平気な顔で返した。
「ただ本を受け取るだけよ。」
「少し外出して来る。」
二人は外出をした。ベルリン中央駅には一人の60代くらいのドイツ人女性が立っていた。
「あなたがローレ・ホフマンさんですか?」
「そうです。」
3人は握手をした。
「この本、読ませて貰った。緊張感のあるシーンが物語の良いアクセントになってますね。」
「もしかして一年もかけてこの作品を読んでたんですか?」
「そうですよ。」
「大切に扱ってくれて私達も嬉しいわ。」
「まさかこんな時間差で戻ってくるなんて思っても無かったな。」
「私、旦那がアメリカ人で結婚とともにシアトルに移住したのよ。ベルリンに来たのはこれが初めてね。」
「あなた、どちら出身?」
「私はケルンで生まれたのよ。」
「大聖堂が素敵な街だな。」
「香水でも有名な街だわ。当時ドイツは東西に別れてたから、ドイツの東側行く用事無かったわ。西ベルリンですら行ったことないわ。」
「私達は壁があった時、西ベルリンにいた。」
「あの歴史は繰り返しちゃいけないし、地域による格差が無くなることを願うわ。」
当時のドイツのことをカフェで話して、そのまま女声と別れた。
地下鉄で本を読んだ。
「空白のページ、みんなが色々書いてるわ。」
「言語も様々だな。」
いろんな言語で愛の言葉が書いてあった。タイ語や韓国語、フランス語、スペイン語、日本語、チェコ語、英語などで書いてあった。
「フリアがウェルナーに書いたラブレターまで入ってるわ。」
「メアリーとソジュンも手紙を入れてる。あの二人、今はロンドンで生活してるんだよな。」
「二人の居場所が見つかって良かったわ。綾人もロシア人の女性と付き合いはじめたみたいね。ラリーは男性と結婚したみたいだし、この本は愛を運ぶ本なのよ。」
もう一度、愛の言葉を眺めた。言葉が分からなくても愛があるのは分かる。
「おじいちゃん、おばあちゃん、何してたの?遅いよ。」
「その本って、まさか。あの本?」
「ずっと旅に出てた本よ。」
「愛を届ける旅をしてたんだよ。」
エックハルトが言った。
「あなた、たまには良いこと言うじゃないの。」
「そう言えば、チャールズとエミリーの間に娘が出来たみたいよ。」
「凄い良い話聞いたわ。写真とかある?見せて!」
皆チャールズとエミリーの娘の写真に注目した。
パーティーでは恋愛だけではなく、家族や友情に包まれていた。
「皆、写真を撮るよ。」
「ウェルナーはこっちよ。」
「そうだ。ウェルナー、フリアからのラブレターが入ってた。」
「私はこれを取り返しに私はあの旅に出たのよ。」
「タイマーはあと10秒よ。」
パーティーの終わりに家族写真を撮った。パーティーが終わり、イェニーとエックハルトは二人の時間を過ごした。
「良い写真が撮れたな。」
写真を見て微笑んだ。
「子供達も孫達も無事に一日を過ごせて何よりだわ。この上なく幸せな気分よ。」
写真を見つめ、二人は抱き合った。
「この写真どうする?どこにしまう?」
「私達の全てが詰まったこの本にしまうわ。」
写真を愛の言葉がたくさん書かれたページにはさんだ。本は書斎に飾った。
本の評判は瞬く間に世界で話題になり、ドイツ国内や色んな国で評価されるようになり、色んな国を渡った。
「これください。」
今日も世界のどこかであの本を探してる人がいた。
今回の作品は本が引き起こすハプニングの物語です。本屋はあなたを導く本の出会いの場でもあるかもしれません。
また新作書くつもりですので、今後とも宜しくお願い致します。