結果
朝、散歩をしているとアビゲイルの携帯に警察から電話が来た。
「警察署から電話が来て、結果を聞きに行くのよ。」
「ようやく本が戻って来るのね。」
「もう行こう。」
ウェルナーも一緒について行った。
「この前依頼した泥棒の捜査結果について聞きました。」
「案内します。」
警察官に案内された。
「まず、オズワルトさん。あなたのバッグは何とか取り返し出来ました。男も逮捕しました。」
アビゲイルのバッグがテーブルに置かれていた。
「中を確認してください。」
鞄に異変がないかチェックした。そして携帯も勝手に使われていないかチェックした。
「ありがとうございます。問題ありません。」
「アビー、良かった。」
イェニーはアビゲイルに抱きついた。
「それで私の本は何でないんですか?」
「男の証言に寄りますと、本はとある麻薬組織に渡したとのことです。これ以上のことは口を開いてくれません。」
イェニーはテーブルを叩いた。
「麻薬組織が何のために私達の本が必要なのよ。理解が出来ないわ。ちょっとその男といつ頃面会出来るかしら?」
「明日の14時頃、面会が出来ます。」
その他、犯行動機などを聞いて警察署を出た。
「まさか犯人が狙ってたのはバッグじゃなくて本だったなんて謎の多い犯人だな。」
「分からない言語の本のために人生をぼうに振るなんてあり得ないわ。」
「父さん、母さん、犯人が何考えてるか分からないけど、相当人生に行き詰まったんじゃないかな?」
「人生が行き詰まって、老夫婦が追いかける本を盗む?何それ?ウェルナー面白いこと言うじゃん。」
アビゲイルはウェルナーを笑った。
「どんな理由だろうと犯人には同情出来ないわ。」
「私はバッグとか見つかって一件落着よ。」
全員それぞれ別れて行動した。
「アビー、付き合ってくれてありがとう。」
ウェルナーはアビゲイルを見つめる。
「あんたのこと好きだからよ。どうでも良い存在ならこんなことまでしてないわ。」
アビゲイルは手をつなぎ、キスをした。彼は少し動揺したが、彼女を振り払わなかった。
「私の部屋来てくれない?」
その様子を気がつかれないようにフリアは見ていた。二人はフリアには気がつかず無言で見つめ合う。
「そう言うことね。二人は熱い関係に発展したんだ。」
そう言って、気がつかれないように通りを去った。
面会の日、イェニーは本を盗んだ男にあった。ガラス越しにアダムと言う男がいた。受話器を取って話し始めた。
「どうしてこんなことをしたの?こんな本で人生を台無ししてる場合じゃないでしょ。」
イェニーは心配した目で彼を見た。
「女で一人で育てた母ちゃんも死んで、仕事も切られて生きるのも精一杯だったんだよ!おまけに彼女からも捨てられたよ。仕事なんてまともに見つからないし、どんどん不幸なことが数え切れないくらい連鎖する。そんな社会で希望なんてないだろ。だから自分の人生なんてどうなっても良いと思ったんだよ。死ぬ勇気や人を殺す勇気が無けれは、本を盗んで一生刑務所暮らしでも良い。それほど生きててなんて意味がないんだよ。」
「あんたさ、嫌な現実から逃げるためにさらに苦痛な方に逃げていくわけ?もっと頭は使わなかったわけ?こんなことしてあなたの亡くなったお母さんは喜ぶわけなんてないわ。がっかりしてる。成功なんてしてなくて良いんだから、罪を犯さずに生きてるだけで十分素晴らしいことなのよ。」
「何でこんな泥棒を目の前にして怒らないんだよ。」
「私は散々怒ったわ。本を息子に借りパクされて、その息子の元彼女が知らぬ人にあげて、本がチェコ、タイ、韓国、日本、カナダに向かって驚くことや怒ることばっかりだったわ。さらによく分からない麻薬組織の手に渡るなんて驚きと怒りの連続だったわ。だけどそんな感情ばかりに振り回されても、ことは解決しないの。今ここであなたを責め立てた所でことは解決しないのよ。」
「あんたは強いな。」
「年取ると大した事ないと思うことが増えてくるのよ。あとあんた30代ってまだ全然若いんだから、勝者とか敗者とか考えないで、生き延びることを考えなさい。罪を犯すのは絶対しないでさ。生きてることに意味があるのよ。家の旦那ですらそう言うことに気がつかないで生きてたんだから。」
「ただの老人じゃないんだな。」
「私は旅する老人よ。」
「それで麻薬組織のことだけ、最初はそんな組織だって知らなかったんだよ。本を渡した後に、その男がどんなやつか後ろから尾行してたら覚醒剤を持ってて、数人で車に乗ってたんだ。そいつ等と目が合って逃げてるうちにいつの間にか警察に捕まったんだ。」
「何だまだ生きたいんじゃん。逃げるんだからこんな刑務所とっとと出て前を見て生きなさい。あと、情報ありがとう。」
アダムとの面会は終わった。
イェニーは旦那と合流した。
「さっき面会が終わったわ。」
話していた内容をエックハルトに全て話した。
「その話信じて良いのか?」
「よく分からないけど、その組織について調べないと本は返ってこないでしょ。」
「そいつの話が本当なら、これ以上は危険だと思う。ウェルナーもいるから巻き込むわけにはいかないし。そもそもそいつ等が麻薬組織なのかも分からないのに、行動するのか?」
「とにかくシアトルに行くよ。」
「その根拠は?」
「シアトルに本がある私の勘よ。」
「分かったよ。こんな時でも君について行くよ。」
「シアトルに移動するわけ?私もついて行くわ。」
「父さんと母さんだけじゃ心配だからついて行くよ。見つからないと困るし。」
「あら、私もついて行くわ。」
「アビー、あんたはウェルナーについて行きたいだけでしょ。私は二人のために行くのよ。」
「また移動するよ。」
「面倒なことにまた巻き込まれそうだな。」
この後、イェニーの勘が働くことになる。
全員シアトルに着いた。
「シアトルなんて20年ぶりね。」
「そうだったな。友達との再会依頼だったな。」
「母さんと父さん、そんなことがあったんだな。」
レンタカーを借りて、5人は街を散策した。
「痛いじゃないの。」
イェニーにぶつかって来た人は謝りもせずに、逃げるように走った。
「待って!あの人本を持ってるわ!追うよ!」
「本当だ。イェニー、君の勘は鋭いな。こんなミラクルあるんだな。待て!」
2人は男を追うようにした。
「声を上げて、追うなんて、危ない。相手は銃を持ってるかもしれないから気がつかれないように追うよ。」
ウェルナーが言った。
「あいつ等、追ってきてる。」
男は後ろを向いた。
「気がつかれた。」
男は仲間と車に乗った。フリアはすぐに携帯のメモでナンバーを書いた。フリアは動体視力がかなり良い。
「車で追うよ。」
4人は車に乗った。イェニーは窓越しでウェルナーに声をかけた。
「ウェルナー、近くのカフェとかに行って、警察に電話して、ナンバープレートのメモは私がメールで送るから。」
「分かった。」
車は出発する。
「よし、そろそろ距離が縮むぞ。」
「アビー何してるの?」
「犯人一人一人の似顔絵を書いてるの。」
彼女は似顔絵を書いて、小遣い稼ぎをしている。一度見たら人の顔を正確に書くことが出来る。
「一人目は完了よ。」
アビゲイルは一人目の似顔絵を書き終わる。
「あんたにそんな能力があったのね。」
「あんたこそ、動体視力があるだなんて思わなかったわ。」
彼女は二人目の顔を書いた。
「他の二人は顔がよく分からなかったわ。」
「再現度が高いわ。」
二人目の似顔絵もかなり正確だった。
「これをウェルナーに送るわ。」
アビゲイルはメールを送った。
「よし距離が縮まったわ。」
「それでどうするんだ?この前、あの車に殴り込みに行ったら、殺されるぞ。」
「そうなると思って、ウェルナーだけをおいて行ったのよ。」
「遠くからパトカーの音が響く。」
まだパトカーの姿は見えない。
「もうそろそろよ。」
男達の車は衝突して、前の車をハイジャックして乗った。
「レンタカーぶつける所だったわ。」
「ナンバーを書いて!」
「プレートは前にある…」
フリアは何もメモ出来なかった。