配送
待ち合わせ場所に来た女性は黒髪が似合う綺麗なタイの女性だった。
「移動しましょう。」
ラリーと一緒にマンゴーが美味しいカフェに行った。
「私達が本の持ち主の老夫婦よ。私はイェニー、隣が旦那よ。」
ラリーは通訳をする。
「よろしく。これドイツ映画だから貰ってくれ。」
「父さん、そう言えば5年前に借りてた金返す。」
「そんな前にお金借りてたのね。」
ウェルナーはバーツでお金を返した。
「お金をバーツで返すなよ。お金は帰国後に返して貰うから。」
エックハルトは紙幣を財布に戻す。
「ラリー、こんな会話まで通訳しなくていいから。」
ラリーはモノマネしながら通訳した。
「ラリーってモノマネも出来るのか。」
チャールズは意外な一面に感心した。
「そう言えば、そこのおじいさんとおばあさん、昨日アジアティークで会ったよね。」
「あっ、あの時目が合った女性ってあなただったのね。」
「何となく本の持ち主の夫婦ってあんな感じかなと思って見てたのよ。」
イェニーは女性と握手をする。
「私のこと、メアリーって呼んで。」
「よろしく。」
メアリーは飲み物を飲んでまた話した。
「私、こう見えてもニューハーフなのよ!男の子として生まれたけど、今は女の子として生活してるのよ!」
「トランスジェンダーなのね。あなた綺麗だわ。」
「全然そう見えないな。綺麗すぎる。」
少し驚きつつも皆感心した。
「よく言われるわ。観光客からはよく驚かれるね。」
「ラリー、話し方まで真似するのか。」
「ちなみにもう手術もしてあるわ。」
「痛くないか?つまりアソコを取るんだろ?想像したらすごい痛そうだ。」
「そうよ。その後メスを入れて、穴を作るのよ。」
「俺もそれは調べたことがある。調べてみただけでもかなり痛そうだよ。」
「私は手術をして後悔なんてないわ。」
彼女はまた飲み物を飲んで話し出す。
「そう言えば、私彼氏いるから、狙っても無駄よ。もしかしてメロメロになったかしら?」
ウェルナーの手をそっと触った。
「あら、ごめんなさい。そこの女性と付き合ってるのよね。」
「いや、僕達もう別れてるので。」
フリアはウェルナーの手を引っ張る。
「何でどんな人かよく分からない人にそんなことまで話すのよ。」
「自然の流れだ。」
「あら、聞いてごめんなさい。あなたお名前は?」
「フリアよ。」
「私で良ければ、恋の相談のるわ。私は辛いほど失恋を経験してるからあなたの気持ちはよく分かるわ。」
「今は良いよ。それに彼氏欲しいわけじゃないから。」
「あら、その気になったらいつでも相談乗るわよ。どんな相談も気にしないから。まずはちゃんと話せるように英語勉強しないと。」
イェニーが立った。
「それより、本を返してもらいたいわ。私と旦那が出会うきっかけになった本よ。」
「あの本にそんなロマンスが溢れていたのね。話を聞きたいわ。恋の話は好きよ。」
メアリーは興味津々だった。
「聞きたい気持ちも分かるけど、本が戻って来たら話すわ。」
メアリーはバックから本を出した。
「これがあなた達の本ね。全部ドイツ語で書かれててたから全然読めなかったわ。」
イェニーとエックハルトは本を受け取った。
「待って、この本じゃない。」
「あれ、何で私英語の本を?あらやだ。」
メアリーは数秒静かになった。
「しまったわ。」
「まさか失くしたの?」
「違うわ。そうじゃなくて、本当はこの英語の本を彼氏に送ったつもりだったけど、間違えてあなた達の本を送ったのよ。あら、どうしよう。」
「嘘でしょ。せっかくここまで来たのに。」
「イェニー、彼女のことを責めないで。」
「彼女じゃなくて、最近続くこの不運な一連の出来事を責めてるの。」
イェニーとエックハルトは少し不満な顔を浮かべた。
「彼氏はタイのどの辺に住んでるの?送り返して貰うことは出来るでしょ?」
「私の彼氏はタイにいないの。韓国よ。」
「韓国だって!?」
全員驚いたあまり、大声を出した。
「遠距離恋愛ってこと?それは大変な恋をしてるのね。」
「遠距離とか俺なら不安だな。」
「そうよ。でも毎日電話してくれるから幸せよ。」
「韓国って、まさかこんなことになるなんて思っても無かったわ。」
「韓国のどの辺に住んでるの?」
「ソウルよ。」
「これもまた国をまたいだ問題が発生したね。」
「どうする?父さん、母さん。また韓国まで行ったら無駄足になるかもしれないよ。」
「そうだよ。送り返して貰えば?」
イェニーとエックハルトは少し話し合った。
「これって本が私達のこと見つけて欲しいのよ。」
「そうだな。せっかくなら私達の手で取り戻したいな。」
二人は皆に話す。
「ここは韓国に二人で行く。もうこの年になると失うものはないから、弾丸旅行をするわ。皆はここまで付き合ってくれてありがとう。あとは私達で探すわ。」
「そうだ。あとは私と妻に任せてくれ。夫婦で弾丸旅行とか興味があるから。」
「それなら私も一緒に行くわ。」
メアリーが二人の手を掴んだ。
「そうなったら彼に連絡するわ。彼、韓国人だけどタイ語がペラペラなのよ。写真も見せるわ。」
メアリーは写真を見せた。
「すごいイケメンね。」
「韓国のアイドルみたいだな。」
「芸能人みたい。」
「英語とかも普通に話せるから安心して。」
「もちろんトランスジェンダーってことも知ってるんだよね?」
「当たり前じゃない。隠す理由なんてどこにもないわ。とても素敵な人よ。でも女の子にモテすぎて心配になるわ。」
「何回か会ったことあるの?」
「まだ2回しかないわ。」
「それなら3回目はプロポーズしかないわ。」
「そう言う所まで発展すると良いわね。」
メアリーと話し終わり、メアリーとラリーとは違う場所で話した。
「イェニー、悪いけど付き合いはここまでよ。チャールズとベトナムにも行くこと決めたから。」
「それにまだバンコクでも休暇を過ごしたいから。君達の本の追いかけっこには付き合わないよ。」
「本探しの旅よ。」
「別に良いんだ。あとは私達で探しに行くから。」
「あとメアリーもついてくのよ。」
「俺もついて行くよ。」
「あんたがここまで協力してくれるなんて珍しいわね。」
「借りパクしたこと根に持たれるのは嫌だからな。」
「お前の母さんと責め立てることなんてしてないぞ。」
「イェニー、私も行くわ。」
フリアも韓国に行くことになった。
「勘違いしないで、私は二人のために行くだけだから。」
「そう言うと思ったよ。いつも俺は悪者扱いか。」
フリアはウェルナーと反対方向を向いた。二人の関係には特に進展など無かった。
「イェニー、私達はベトナムに行くから、本のこと電話で教えて!」
「そうするわ。」
エミリーはチャールズとその場を離れた。
「ラリーと和解できて良かったね。」
「和解したとは思わないけど、前より距離が縮まったのは事実だな。ラリーのやつ今頃、ニューハーフショーなんて見てるんじゃないか?」
「あなたとは違って、そう言うホットなコンテンツは興味なさそうよ。」
「そうだと良いけどな。」
その頃ラリーはボールペンを数本壊しながら街を歩く。
「チクショー。一文だけちゃんと通訳出来なかった。あの訳はしっくり来ないな。」
かなり嘆いている様子だった。
「あの人ブツブツ何言ってるのかしら?」
「ボールペン壊してて変ね。観光客の間でハヤッてるのかしら?」
「そうさ。流行らせてるんだ。」
ラリーは通行人の女性達に言った。
「ラリー、私とこの人達のこと見送ってくれないかしら?」
メアリーはラリーに言った。
「分かったよ。」
「ありがとう。」
イェニー達はホテルを出た。