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逃げる本  作者: ピタピタ子
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忘却

ドイツのベルリン。そこは誰がよく知る国際的な都市の一つ。知らない人の方が少ないだろう。そこに一組の老夫婦が暮らしていた。

「立派に玉ねぎが育ったわ。」

女性の名はイェニー。

「美味しそうだな。今日は辛口のソーセージを食べよう。」

男性の名はエックハルト。どこにでもいるような仲睦まじい夫婦だ。誰もが羨むような夫婦に違いないというこの夫婦がこれから数々の不幸に巻き込まれるのは当人達も他の人達も知らないだろう。

「次は何を育てる?」

「人参とか育ててみたいな。虫に食われまくる野菜はあまり育てたくない。」

「虫が食べるってことはそれほど悪いものを使ってない証拠よ。マリーゴールドとか農薬代わりとかになるのよ。トマトとか育ててみたいわ。」

野菜以外にもヤグルマギクがたくさん生えていた。

「アンゲラ、いらっしゃい。」

友達を招き入れてちょとした食事を楽しむ。

「明日は特別な日なのよ。」

「その表情見たら分かれるわ。」

老夫婦にとってとても大切な日。

「息子と娘、それに孫も揃って来るわ。」

「うちは結婚記念日先週だったわ。」

「どうだった?」

「盛大だったか?」

「とても良かったわ。」

イェニーとエックハルトの同年代の老夫婦も同じように孫がいる。アンゲラ達が変えると二人きりになった。

「何か忘れてる気がしない?」

「さあ知らんな。」

「あなた鈍いわね。」

「君だって、何を忘れたのかも把握してないんだろ。」

「私は気づきがあるの。」

こんなふうによく喧嘩をする。

「明日の結婚記念日は忘れてない。」

「それじゃない。それは忘れない約束よ。」

「それなら何?」

「分からないわ。」

「わからないのか。それならどうすることも出来ないな。」

「とても大事なものよ!」

「結婚指輪?」

「違う。」

「友人の名前?」

「そうじゃない。あー、もう何で思い出せないのかしら。」

イェニーは必死で思い出そうとした。エックハルトは大したことではないと思い軽く流した。

「今日も良い一日だったわね。」

二人は何事もなかったかのように喧嘩はしなかった。

「おやすみ、シャッツ。」

「おやすみ。」

シャッツは恋人を呼び合う時に使う。英語で言うダーリンのようなもの。二人はキスをしてベッドで寝た。

朝になるとイェニーは張り切って料理を作った。料理の匂いは家中に広がる。

「ヴィーガンカレーあと少しで出来るわ。チーズを切ってくれるかしら?」

「ああ。フランスは食だけは認める。あとは街が汚いし、人が冷たい。」

「あなたパリしか行ったことないでしょ?フランス人も感情豊かで面白い人達よ。イタリアやフランスのワインもたくさん用意したわ。孫達にはジュースね。」 

夫婦で協力しあいながら準備をする。二人とも楽しんでいる様子だ。

「これはこっちに置いて。」

「こっちってどっちなのよ。」

「窓際のところ。」

孫達が喜ぶようなデコレーションも頑張った。

「これで終わりね。」

何とか子供や孫が来るまで間に合った。

「いらっしゃい。」

息子と娘は両親にハグをした。孫達もハグをした。

「シュテファン大きくなったね。」

「もうこの子、17歳だから。」

「来年から成人だ。」

孫達の成長を彼女は喜んでいた。

「おばあちゃん、おじいちゃん、結婚記念日おめでとう。」

「おめでとう。」

二人は皆に祝福される。とても幸せな一時だ。イェニーは次男のヴェルナーを見て何か考え事をしていた。

「母さん、何見てるの?」

「何でもないわ。大したことじゃないから。」

「そう。」

「ヴェルナー何か様子が変なのよね。」

「変なのはいつもだろう。」

「そうだけど、いつもにまして変なのよ。いや、変の種類が違うわ。」

「俺は変じゃないから。最近忘れ物してる父さんと母さんには言われたくないな。」

「この年になると一つや二つ忘れやすくなるのよ。別に変なことではないわ。」

息子にそう言われてもイェニーはムキにはならなかった。

「このジュース美味しい。」

「洋梨ジュースよ。」

孫達を思い高い洋梨ジュースを用意した。

「私はシャンパンを持って来たわ!」

「え!すごい美味しそう!」

「シャンパンはある地方でしか取れないのよ。」

「シャンパーニュ地方だろ。」

「そうそれ!他の地方のはシャンパンじゃない。」

シャンパンがポンと音を立てて開く。煙がほんの少し出た。

「味は好みだわ。色が結構濃いわね。」

シャンパンをかなり美味しく飲んだ。

「おじいちゃんとおばあちゃんはどうやって出会ったの?」

「大学で知り合ったのよ。」

「あの時は君の両親を説得するまでかなり時間かかったよ。」

「そうなこともあったわね。」

二人は笑いながら皆に話した。

「シュテファン、彼女出来たのか?」

「うん、自然の流れでね。」

「今は昔より出会いのかたちは広いし世界は狭くないわね。」

「兄ちゃん、どこで知り合ったの?」

妹のアリスはシュテファンに聞く。

「学校。同級生。」

「今度私会いたいわ!一回はどんな人か話してみたいわ。」

「よく家族のことはちゃんと話してある。」

「もうそこまで話してるのかい?」

イェニーはシュテファンは聞く。

「おばあちゃんのことも話してある。よく料理と家庭菜園を楽しんでるって話てる。おじいちゃんは映画好きで、話しだしたら止まらないって。」

「そうだ。久しぶりに映画を全員で鑑賞しようか。」

エックハルトはイェニー、子供や孫達に言った。

「よし、今日はフリッツ・ラングのメトロポリスを見るぞ!」

「あんた、そんな映画見ても皆退屈するだけよ。」

「じいちゃん、何分の映画なの?」

「2時間33分だ。かなり見ごたえあるぞ。」

皆の意志を無視して映画をつけた。皆はいつものことだと思い気にしなかった。

「え?この映画ずっと時の映画なわけ?」

「そうだ。戦艦ポチョムキンとかも同じような映画だ。」

「その映画聞いても誰も分からないから。」

かなり張り切っていた。

「案外面白い。上流階級の男が他の階級の人間がいる所に行く展開が面白い。」

息子のブルーノは興味を持った。気がついたら皆映画を見ていた。すごい昔の作品なのにかなり斬新さがある。

「当時の映画技術ならかなりよく出来た作品だな。」

「本当にそうだね。」

「制作費用は700万マルクだ。」

「当時の物価からしたらかなりの額よ。」

「マルクって言われても今はユーロだから分からなんな。」

パーティーはあっという間に終わった。

「今日はパーティー楽しかった。次は彼女も連れてくよ。」

シュテファンは笑顔で笑いかけた。

息子のブルーノは車で帰って、娘のハンナも同じ。連れて来た犬を車に載せた。

「また今度来るね。ありがとう。」

皆、どんどん離れていく。息子のウェルナーだけは一人で帰る。

「これからフランスに戻る。」

「パリに住んでるの?」

「そうだ。」

ウェルナーはスペイン人の彼女と一緒にフランスに暮らしてる。

「どうしたの?何かやっぱりいつもと様子は違うわ?」

イェニーは何かを感じ取った。

「大したことじゃない。」

「そう。気をつけて。」

ウェルナーは飛行機でフランスに戻った。

「ウェルナー何か隠してるわ。」

「イェニー気にしすぎだ。」

それから数日が経った。

「ない!ここにもない!」

部屋はいつもと違い物が散乱していた。

「何を探してるんだ?」

「私達の思い出の本よ!」

「まさか失くしたのか?」

「そんな大事なもの失くすわけないわ。」

イェニーとエックハルトは必死になって探した。

「あの本は私達の出会いの原点なのよ。」

「そうだよな。」

「思い出したわ!ずっと前にウェルナーに貸したのよ!どうしても読みたいって言うから貸したの。年寄りでとんでもない物忘れをしたわ。」

「そんなこともあったな。」

「ウェルナーに電話かけるわ。」

息子に電話をした。すると彼は出る。

「ウェルナー、母さんよ。」

「いきなり、どうしたの?またパーティーでも開くのか?それともブルーノやハンナと喧嘩でもしたのか?」

「この前、貸した本返してくれる?私とあなたの父さんとの大事なものなの。」

「そんな大事なものなのか?」

ウェルナーは大事なものだとはよく分かっていなかった。ただ何となくその本に興味があるだけだった。

「そうに決まってるわ。じゃなければ今頃こんな電話なんてしないでしょ。」

「分かったよ。今度交通費振り込むからその金使ってこっちに来て。」

「分かったわ。」

電話が終わる。

「ウェルナーは何て言ってたんだ?」

エックハルトはイェニーに聞く。

「交通費振り込むからこっちに来て欲しいのよ。」

「何だって?パリは嫌いなんだよ。人が冷たいし、街も汚いんだよ。」

「私達の住む地域も汚い所の一つや2つくらいあるわ。そうだ。本を取り返したらすぐに帰ればいいのよ。」

「そうするよ。」

エックハルトは少しフランスに苦手意識を持っていた。

「とにかく事実が分かったらなら取り戻すだけよ。」

「いつ振り込まれるんだ?」

「長くても来週には振り込まれるわ。」

「そうか。」

またウェルナーから電話が来た。

「今度は何かしら?」

「良かったら泊まりに来ても大丈夫だから。」

「私達はすぐに変えるわ。」

「そう。待ってるから。」

食べ物とかをバッグに詰めた。ウェルナーにわたす予定のものだ。

「準備は出来たか?」

「あと5分よ。」

「出発まで時間にゆとりあるから5分くらい大丈夫だ。」

二人は列車を待ち。色んなお店によった。列車が来るとそのまま乗った。

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