82話 ようやく完成した
「できた……」
優奈の知恵を借り、さらに松原の文章を改良しようやく挨拶の文が完成する。
「1時間か……。まぁ友太にしては頑張ったじゃん」
「そりゃどうも」
それにしても1時間ってかかりすぎだよなぁ……。
もう少し自頭が良ければと、今まで勉強して来なかった事を後悔する。
「久野原君、どう?私の文章役に立ったでしょ?」
「ま、まぁそうだね」
昨日松原が考えてくれた文章がなければもっと時間がかかってたかもしれない……。
あれ?もしかして松原のおかげ?
「赤点ギリギリだったくせに……」
不貞腐れた様子で、そう言いながら机に頬杖をついていた。
「国語が赤点だった人に言われたくない」
「はぁ!?」
この2人は煽りあわないとやっていけない人達なのか……。
俺はため息をついた。
「2人がいなかったらこの文章はできなかったよ。ありがとうな」
「「本当!?」」
お礼を言った瞬間、2人は同時に俺の方へと振り向いた。
ちょろいなぁ……。
「優奈と松原の知恵のおかげだなありがとう」
「友太……」
「久野原君……」
2人は顔を赤くしてふにゃふにゃになっていた。
いやマジでちょろいなぁ……。
「あ、もうこんな時間!!私帰るね。久野原君ばいばい」
そう言って、俺に手を振りつつ優奈を嘲笑ないがら図書館を出て行った。
「はぁ……。それにしてもアイツ本当にムカつく歩き方してるよね……」
窓の外を見ながら、優奈は呟く。
「そうか?」
俺も窓の外を見ると、松原が校門の方へ向かって歩いていた。
今まで気づかなかったが、他の娘とは違って気品がある歩き方をしている。
「てかなんでアイツ、あんな歩き方してるんだ?」
「あれ?知らないの?あの娘の家母親が日本舞踊の先生で、父親が能の先生なんだよ」
「へ、へぇ……」
なるほど、日本舞踊等は礼儀作法や歩き方まで厳しい。だからあの歩き方は納得だ。
それにしても普段から、教えられた歩き方をしているって結構律儀だな……。
「さて、私達も帰ろ?もうこんな時間だよ?」
時計を見ると、5時半を過ぎていた。
「マジかよ……もうこんな時間だったのか……」
急いでカバンを背負って、図書館を出ようとすると突然カウンターで座っていた女の子に呼び止められる。
「な、何?」
「よい、ネタありがとうございました」
じゅるり、舌で舐めますような音を立ててとてもご満悦そうな顔でお辞儀をした。
なんだかよくわからないが、多分こいつはエレナと同じ人種だという事は分かった。
学校を出て、優奈と2人並んで帰路へ着く。
ていうか、優奈と2人っきりで帰るの久しぶりじゃね……?
「友太と2人っきりで帰るの久しぶりだね」
「そうだな」
やっぱり優奈も感じていたらしい……。
あれ?そういえば優奈と2人の時って何の話をしていたっけ?いつもクレアの話に同調していただけだったから忘れてしまっていた。
「ところで、図書委員の娘と何の話してたの?」
「別にたわいもない会話だよ」
「教えて」
むぅと小さく頬を膨らませて、妬いている様子だった。
「なんかよくわからないけど、俺達の喧嘩をしている様子を見て漫画か何かのネタを提供してくれてありがとうって言って来ただけだよ」
「あぁ、そういうこと……」
素直に納得してくれたようだ。
これで本当に?と言って更に追及されるかと思った。
「あの娘、文芸部にも入ってるから、漫画を描くのが好きなのよねー」
「そうなのか?」
「なんて言うか、普通の漫画じゃなくて美少女ものの漫画って言うか……」
「あぁ……」
すぐにわかった。やっぱりとエレナと同じような人達みたいだ。
多分エレナと会わせたら小一時間語り合ってそうである。
「私にはわからないけど、好きな人は好きだよねぇ……」
「うちのエレナが好きだぞ?」
「へー、そうなんだ」
なんとも愛想の悪い返事で話が途切れてしまう。
……。まずいもう話が終わってしまった……。
もう話のネタがない……。ていうか優奈といるのこんなに気まずかったけ?
「ねぇ、友太?」
「何?」
分かれ道に、差し掛かった時優奈が突然止まって語り掛ける。
「もし、友太を好きな人が他にもいたらどうする?」
「へ……?」
唐突なカミングアウトに俺は硬直する。
まさか俺の事を好きな人が他にいるのか?
「もしもの話!!」
「な、なんだ……」
たとえ話と聞いて、俺はほっとする。
「わからない。でも俺は多分優奈を選ぶと思う」
当たり前の話ではあるが、最初の人が優先だよなとは思う。
後からの人を優先することは流石に失礼だろう。
「そっか、安心した。じゃあまたね友太ー」
満面の笑みを浮かべると、優奈は機嫌よく自分の家へ帰って行った。
今の話なんだたったんだろう……?
家に着き、玄関を開けるとエレナが仁王立ちしていた。
「な、なに?」
相当ご立腹のご様子である。
「お兄さん!!」
唐突な大声に耳が張り裂けそうになる。
「ど、どうしたの?」
「お兄さん、忘れてますよね?」
「何の事?」
忘れてますよねって言われてもわからないんだよな……。
「お姉ちゃんをバイト先へ一緒に行くって約束!!」
「あ、やべ……」
しまった。自分で言っておいて忘れてしまっていた。
頭を抱えてやってしまったと反省する。
「ちょっと前に、お姉ちゃんが1人で出かけていきました……。もしお姉ちゃんに何かあったらどうするんですか?」
「ごめん」
「帰りは迎えに行ってあげてくださいね……」
「わかった……」
「全くこれだから……」とぶつくさ文句を言いながら、エレナはリビングへと入って行く。
はぁ……ちゃんと覚えいていればこうはならなかったのに……。だがクレアはバイト先に無事ついてるようだった。
ひとまず安心だ。もうこれからは忘れないようにしよう。




