81話 妹がストーカーされていた
「ただいまー」
玄関を開けた瞬間、クレア姉妹が立っていた。
何やら、エレナは心配そうな表情でクレアの目を見つめている。
「どうした?2人とも」
「あ、お兄さん……それがお姉ちゃん、バイト帰りにストーカーされたらしくて……」
「大袈裟だよ……。多分帰り道が同じだっただけだよ」
平気そうな顔でクレアはそう言ってるが、俺の身体に悪寒が走っていた。
「それどんな奴だったんだ?」
「え…えっと……。なんか黒いフードと黒いズボンだったかな?顔は暗くてよく分からなかったよ」
「典型的なストーカーだよ!!」
エレナは慌てた様子でそう言うが、クレアはへっちゃらな顔だ。
なんでそこまで平気な顔をしてるんだろう?
相当怖い思いをしていると思うんだが……。
「とにかく、もう1人で出歩いちゃダメ!」
「そんなぁ……。明日もバイトなのにぃ……」
「弱ったなぁ……。私明日外せない用事あるのに……」
「俺が行くよ」
深刻そうな顔をする2人に俺は意を決して言う。
妹に危害を加える奴を兄として見逃してはおけない。
「お兄さん、感謝します」
「友太君、ありがとう!」
2人に感謝はされているが、正直これは俺のせいでもある。
クレアが危ない目に合う前に、俺がもっと早くに対処しなかったからだ。
こうなる事を見越していれば、こうはならなかったのに……。
「友太君?どうしたの?」
「い、いやなんでもない」
流石にここでクレアに悟られる訳にはいかないよなぁ……。
逆に心配をかけさせてしまう。
「ところで、挨拶の文はできたの?」
「まぁ……うん」
「見せて」
玄関からリビングに移動し、リュックから用紙を出してクレアに見せる。
「結構いい文章じゃない?」
「なんかでも、お兄さんっぽくないような……」
エレナめ……なんで分かるんだよ……。
「エレナ、なんで友太君っぽくないの?」
「文章の書き方分かるんですよ。なんか男っぽくないんですよねー」
くそ……こういう時にオタク脳をいかんなく発揮しやがって……。
「これ本当に友太君が書いたの……?」
エレナがそう言うから、クレアも怪しんでしまってるじゃないか……。
「どうなんですか?お兄さん?」
「えっとその……」
「優奈さんにも見てもらう」
用紙にスマホを向けて写真を撮ろうとする。
「あぁ……クレアーちょっと練習するから貰っていくねー」
「ちょ、ちょっと!友太君!」
シャッターを押される前に、手に持っていた用紙を問答無用で奪い返して一目散に部屋へ逃げる。
危なかったぁ……。流石にこれを優奈に見せるのはまずいよ。
次の朝、学校に来た俺はロッカーの前で立ち尽くしていた。
流石に今日は、何もないよな?覚悟を決めてロッカーのドアを開けると、底に白い封筒は入ってなかった。
「良かった……」
ほっと一息をついて、上履きを出す。
今日も入っていたら、流石に早退しようかと考えていたので本当に良かった。
「おはよう、友太」
「お、おはよう優奈」
挨拶をするために近づいてきた優奈に挨拶を返す。
昨日の学食での出来事が尾を引いているのかあまり機嫌は良くない様子だった。
「挨拶の文章みせて」
「はい……」
睨みつけるように言われてしまっては断ることもできないので、リュックから渋々取り出して優奈に用紙を渡す。
「これ……、友太1人で考えたの?」
「うん……まぁ……」
用紙と俺の顔を交互に優奈は見る。
まずい、曖昧な返事をしてから怪しまれているな……。
「まぁいいや……。いろいろと修正したい所があるから放課後図書館来て」
用紙をそのまま俺に渡して自分の教室へと歩いて行った。
これはバレなかったと思って良いのかな??
そして、時は流れて放課後、図書館へと向かう。
「あ、友太来たね……」
「お、おう……」
図書館の入り口には優奈が待ち構えていた。
「とりあえず入ろうか」
図書館に入り、開いている椅子に座ると優奈は機嫌が悪かった。
「とりあえず、友太嘘ついてるよね?」
「な、何の事……?」
「これ、友太が1人で書いたんじゃないよね?」
うぐっ……。まさか感づかれたのか……?いやクレアがチクったって言うパターンもあり得るか……。
「とぼけても、無駄だよ……。さっきそこにいる図書委員の娘に聞いたんだから」
優奈が指を指した方を見ると、1人の女の子が俺に向かって申し訳なさそうな顔で小さく頭を下げた。
「ごめん……。松原に考えてもらった」
「まぁ、正直に言ってくれたから許してあげる」
「よかった……」
「よくない!!!」
急に大声がしたかと思うと、松原が突如として現れる。
「うるさいな……図書館では静かにしろって言われなかったの?」
「せっかく私が考えた文章を潰す気!?」
「そうだけど?」
「はぁ!!??」
そんな馬鹿正直に言わなくても……。
あまりにも正直に言い過ぎて、松原が固まってしまってるじゃないか……。
「2人とも落ち着けって……」
宥めようとすると、2人は同時にこちらを振り向く。
「友太!」
「久野原君!」
「は、はい!!」
「こうなったのは友太の責任だよね?どうするかはあんたが決めて」
隣で聞いていた松原も首を縦に振る。
この光景既視感あるよ……。
「じ……」
「「それはダメ」」
先手を打たれてしまった……。
もうこうなったらこれしかない。
「じゃあもう、3人で考えよう。それで文句ないだろ?」
「「3人で……」」
2人は顔を見合わせながら、 弾んだ声が重なった。
「まぁ、友太がそれでいいなら……」
「私もまあそれでいいですよ……」
「じゃ、じゃあ3人で考えよう」
良かった。これで収まって……。
その後3人であーだこーだと言い合いながら、挨拶の文を考えたのだった。




